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13番目の婚約者に選ばれたけど、王妃になる気はさらさらない  作者: 櫻木サヱ
王宮内でリリアの立場が正式に揺れ始める

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18/19

利用する手

最初から、分かりやすい敵が来るとは思っていなかった。


 補佐官という立場は、

 誰かにとっては邪魔で、

 誰かにとっては便利だ。


 そして、後者のほうが厄介だと、

 リリアはこの日、はっきり思い知ることになる。


 昼下がり。

 談話室の一角で、セレナが声をかけてきた。


「少し、時間いい?」


 いつも通りの穏やかな笑顔。

 だが、その目は計算している。


「構いません」


 二人は、人目につきにくい窓際に移動した。


「単刀直入に言うわ」


 セレナは、声を落とす。


「あなたの立場、借りたいの」


(来た)


 予想はしていた。

 だが、やはり胸の奥がひやりとする。


「どういう意味ですか」


「次の課題」


 彼女は、手元の資料を指した。


「評価配分が、曖昧でしょう?」


「はい」


「だから、補佐官の整理案が、

 事実上の基準になる」


 それは、半分正解だった。


「私は、基準を決める立場ではありません」


「でも、まとめる立場ではある」


 セレナは、静かに畳みかける。


「少しだけ、重点を変えてほしいの」


「例えば?」


「調整能力。

 協調性。

 全体視点」


 リリアは、黙った。


(それ、あなたが有利になる項目だ)


 セレナは、続ける。


「露骨じゃなくていい。

 あなたの言葉で、自然に」


「それは」


 リリアは、ゆっくり口を開いた。


「不正です」


「不正じゃないわ」


 即答だった。


「解釈の範囲よ」


 沈黙が落ちる。


「あなたが王妃になるわけじゃない」


 セレナは、柔らかく言う。


「だったら、

 勝つ人を少し選ぶくらい、いいでしょう?」


 その言葉は、

 親切の顔をして、深く刺さった。


(補佐官は、便利だ)


 前に出ない。

 決定しない。

 でも、流れを作れる。


「お断りします」


 リリアは、はっきり言った。


 セレナは、目を瞬かせた。


「……即答ね」


「私は、誰かを勝たせるために、

 この役を引き受けたわけではありません」


「じゃあ、何のため?」


「切られないためです」


 正直に言った。


 セレナは、一瞬言葉を失い、

 やがて、苦笑した。


「本当に、変な人」


「よく言われます」


「忠告するわ」


 彼女は、少し声を低くした。


「断り続けると、

 今度は敵に回る」


「承知しています」


 セレナは、肩をすくめた。


「……分かった。

 今回は引く」


 今回は、だ。


 その日の夕方。

 今度は、別の候補者が近づいてきた。


「補佐官様」


 わざとらしい呼び方。


「少し、相談がありまして」


 内容は、些細だった。

 資料提出の期限。

 課題の分担。


 だが、最後に一言、付け足される。


「ところで」


 その候補者は、微笑んだ。


「私たちの組、

 少し不利だと思いません?」


 同じだ。

 形を変えただけ。


(始まったな)


 夜、イーサに報告すると、

 彼は深く息を吐いた。


「予想より、早いですね」


「全員、私を使おうとしている」


「使えるからです」


 イーサは、静かに言った。


「補佐官が中立であるほど、

 自分側に引き寄せたくなる」


「どうすれば」


「線を、引き続けるしかありません」


 簡単なようで、難しい。


 拒否すれば、反感を買う。

 受ければ、偏る。


(でも)


 補佐官は、選んだ。


 選んだ以上、

 利用される覚悟も、

 断る覚悟も、必要だ。


 自室で、リリアは机に向かい、

 次の課題整理案を書き始めた。


 言葉は、慎重に。

 誰の利益にも、誰の不利益にも、

 極端に振れないように。


(中立は、楽じゃない)


 それでも。


 王妃になる気は、やはりさらさらない。


 けれど、

 誰かの踏み台になる気も、

 誰かを踏み台にする気も、ない。


 十三番目の婚約者は、

 今日も「使おうとする手」を、

 一つずつ、静かに払いのけていた。

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