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第九回

居住区の探索が収穫のないまま終わろうかという頃、遠くから響いてくる奇妙な物音を私は聞いた。決して大きな音ではなかったが、これまで静寂に支配されていた地の底の遺跡に、その奇妙な音は余韻を残して響き渡った。何か固い物どうしがぶつかり合って立てる音のようだ。私は足を止め、耳を澄ました。音の源はずっと遠いようだ。恐らくはさらに下層――遺跡の未調査の中枢から聞こえてくるのだろう。そこには偉大なセイロン王の棺と、それを祀る祭壇があるはずだった。

私は付近の部屋の調査を手早く済ませると、深層への階段を下りて行った。奇妙な音は不規則に途切れながらも尚、続いている。私は闇への注意を払いつつ、足早に中枢を目指した。


と、突然足下の床が崩れて、私は危うく飛び退いた。私の足の形に穴の開いた床から下を覗いてみると、何本もの刃が穴底から突き出しているのが見えた。古典的な罠だがそれだけに、墳墓が遺跡()となった今でもその機能を失わずにいる。ここからは案内役(ガイド)たちが言うところの「危険区域」になるらしい。単調な居住区の探索で緩んでいた緊張を締め直して、四方に気を配りつつ歩を進めた。石畳と闇を通して響いてくる音は、少しずつだが近づきつつある。


要所要所に配された罠の仕組みは実に巧妙だった。大部分は小さな陥穽の類だが、暗い曲がり角や偽の玄室の前に設けられているとそれだけで存在を見破りにくくなる。暗闇の中に転がる元盗掘者らしい骸骨をいくつも目にした。数世紀の昔にこの大墳墓と猛毒の罠とを残して死んだ工匠達と、いま私が刃を交えている。縁というのは計り知れない。何故か実父の後妻の顔が目に浮かんだ。華奢で気立ての良さそうな娘だった。友人になら歓迎しただろうに、と思う。松明の火がまた一つ、死へと通じる踏み板を見つける――。


なおいくつかの階段と無数の罠を通過して、私は玄室の前に着いた。固く響く物音は、いまや間近に聞こえている。

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