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第五回

「サミュのオアシスの側に、でかい遺跡があるのは知ってるか?」


先導役の男――アビが言った。

仲間の生存を知って多少落ち着いたらしい男の口から、先刻からの過剰な警戒の理由が語られようとしている。


「知ってる。セイロン王の墳墓だね」


ミノメールが答えた。アビに気を許している様子はないが、遺跡の話をするのは嬉しそうだ。固い口調からもどこか楽しさを感じる。


「この砂漠でも五指に入るくらいの大墳墓だ。ミラ王朝の権威が全盛だった頃の遺跡だからね。サミュに墳墓の建造が決まった時、その辺りに住んでいた人たちは皆、別の村に移されたんだ。オアシスの周りには限られた墓守りの氏族しか住めなくなったんだって」

「迷惑な話だな」


昔の権勢家という奴が考える事はたいてい碌でもないものと相場が決まっている。死んだ後まで他人に何を強要したいのか理解しかねる。

もっとも、今ではオアシス周辺は隊商の中継地として発展を遂げており、外部からも相当な人口が流入している筈だ。


「あんた、詳しいな。学者さんか何かかい」


ミノメールの方を振り向いてアビが続ける。足場がよくないので馬上で脇を見るのはかなり危険なのだが、さすがに慣れたものだ。


「そのサミュの遺跡に、何年も前から気の触れた大男が棲みついてやがるのさ。普段は墳墓の中で鼠だのヤモリだのを食って暮らしてるらしいんだが、時々出て来ちゃ近くを通りがかった人間を見境なしに殺すんだ。最近じゃサミュの民家に押し入ったって話もある」


首を(すく)めてアビは言った。


「大男と言ったって一人だろう。誰も仕留めないのか」

「いつ出てくるか分かれば何とかなるだろうが、待ち構える所ヘは決して来ねえ。一時は遺跡の傍に監視所まで建てられたんだがな、しばらくして人数が少なくなった途端やられた」


砂漠の民の男らしい、抑揚に乏しい声でアビは言った。


「小屋にあった食糧と一緒に死体の一部も持ち去られててな、それ以来は(あやかし)扱いよ」


過酷な環境にありながら、砂漠の民は厳しく清冽な倫理に則って生きている。アビのような生業の男ですら、食屍を示唆する事実を口にすることに強い嫌悪を覚えているようだった。

鞍の前に座ったミノメールが、すっと首を上げて前方を見渡した。

呼吸が不自然に乱れたのは、腕の痛みのせいではないだろう。出かけた言葉を呑み込んだからだ。


「その大男――」


と、私は言った。淡色の肌の友人のために、もう少し力になってやろう。


「懸賞金はかかっているのか?」

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