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第四回

「か、勘弁してくれ……こんな人数でサミュに着く前に襲われたら殺されちまう。悪いことは言わねえ、夜になるまで待って……」


ただ一人無傷で助かった野盗は、この発言でひどいコブをこしらえる事になった。


「私たちを殺そうとかかって来ておいて手前(てめえ)は死ぬのが嫌だと! 誰の情けで生かしてもらったか理解してるのかこの馬鹿野郎」


男の後ろからもう一撃拳骨を喰らわせて、私はどやしつけた。手綱と私の間で身を小さくしているミノメールが、息を呑むのが伝わってくる。続く彼の沈黙が私への批難に思えて尚、腹が立つ。

野盗の一団から奪った駿馬の脚なら、半日足らずの行程なのだ。愚図ついている内に出発してしまった方が確実にいい。


「お前らも十人足らずで砂漠を渡って来ただろうが。それに夜までなんて待っていたら、次は何人の馬鹿を相手にしなくちゃならなくなるか判らん。言っておくが、別の賊と戦うことになれば真っ先に私が斬るのはお前だからな」


男は泣く泣く先導を始める。何か言いたげなミノメールを私は身を押しつけて黙らせた。たださえ暑い砂漠の正午に、学者の項がひときわの紅に染まる。あまり汗をかかせるのも可哀想か。


事もなく数時間が過ぎて、国境の丸い基石も砂丘の向こうに見えなくなった。相変わらずの荒野はどこから賊の蹄音が聞こえてくるか油断はできないが、このまま進めれば宵の口にはサミュの宿に着けるだろう。

それにしても、先導役の男の周囲への気の配り方が尋常ではない。もともと気の小さい男なのか、ひっきりなしに前後を見回していて、歯の根も合わないといった様子だ。


「おい、まさか仲間の所に誘導する気じゃないだろうな」


殺気を込めて言ってやると、男は震えた声で答えた。


「な、仲間は皆あんたに斬られちまったよ。俺あ明日からどうすりゃいいのか……」


どうやら私が途中から峰打ちに切り替えたのに気づかなかったらしい。別に教えてやる必要もないだろう。


「更生して働きゃいいじゃねえか。こんな砂漠でなけりゃ、その弓で獣狩ったって食っていけるだろ」

「俺あ嫌だ。他所へ出て行くくらいなら干からびた方がマシだぜ」


赤みがかった黄色と白の、殺風景な土地のどこかに、こいつの故郷もあるのだろう。男の気持ちは分からんでもない。住処を移すという事は、旅をするのとは違うのだ。夢中になって剣術に取り組んだ十二歳の私の心にも、故郷を追われた悔しさは、さして強くはないにせよ、片時も離れずにあった筈だ。それがいつ頃までの事だったかは、はっきりと覚えていない。望郷の念は薄らいでしまったが、旅の身空に時折思い出すのは義父と兄弟子たちの事ばかりだ。

ふるさとが二つ、と言えば聞こえはいい。だが実際ひとに奨められる心情ではない。


「あたしが斬ったのは三人だけだ。残りの仲間はまだ生きてる。他の奴等に殺されてなけりゃな」


気が変わったので私は教えてやった。

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