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第十二回 エピローグ

遺跡を出ると砂漠の満月が、はや中天にさし懸かっていた。

馬で来なかった事を悔やみながら、私はオアシスまでの道を辿った。流石に少し身体が重い。


隠者と狂戦士、真に斬るべきはどちらだったのだろう。番兵でもあり、略奪役でもあった狂戦士を斃せば、あるいは隠者は別の行き方を選んだかもしれない。隠者だけを斬って退散すれば、戦士はその意義を失って去って行ったかも知れぬ。

だが私は決着をつけたかったのだ。地の底で共に五年を生きた者たちを、今さら半身だけ白日の下に追い出して何になろう。

重ねて二人の血を吸った刃を、私は青い月光に(かざ)してみた。


宿に帰ると、店の前で待っていたミノメールに飛びつかれた。冷え込みが傷に響くと気の毒なので早々に部屋に戻り、一人湯浴みを済ませてから、今日の一部始終を話してやった。

王の間の彫刻に隠者の手が加えられていた事に対しては、私の予期した以上に憤りを感じているようだった。時代が何を残したかというのと同じくらい、何を残さなかったのか、また残せなかったのかも重要なのだと彼は言った。悠久の時の後には全ての遺跡が無に帰すならば、彼の情熱は徒ではないのか――そう思ったが、青年の目に迷いはなかった。


翌日になって私は自治体の役所へと出向き、前日の報告を済ませた。事実確認や諸々の手続きを経て懸賞金を手にしたのはさらに二日後だったが、その頃には私とミノメールの顔は町中に知れ渡っていた。酒宴の果てにミノメールの肩を借り、酔い醒めの水を彼に求めた日もあった。日中の無聊に訪ねた木賃にアビの影はすでに無く、あの親切な行商とも再び巡り合うことはなかった。


若いミノメールの骨折は、あと十日ほどで癒えるだろう。私の協力と熟練の案内役(ガイド)たちの手によって、王の間への順路は急速に整備されつつある。無粋な隠者たちの生活の痕跡は取り除かれ、石仏の血痕も拭い去られた。若い学者が危険なく、遺跡全体を見学できるようになる日ももうすぐだ。早くミノメールに、古の王の間を見せてやりたい。彼がそこで何を感じ何を思うのか、聞いてみるのも悪くない手向けだ。


私の旅はまだ続く。

そしたら、さてと、次はどこへ行こうか。 



(終わり)

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