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第十一回

受ければ不利、と私は即断した。

男の身長は2mを優に超えている。得物の大剣を振り上げた姿は巨人そのものだ。


突風の勢で襲いかかってくる巨体を、更なる速さで迎え撃った。頭上に落ちかかる大剣を身を沈めざまくぐり抜けて、ボロボロに朽ちた革鎧ごと、真っ二つに逆胴を斬り裂いた……筈だった。男が頽れたはずの背後からの殺気に、足に残った速力をそのまま、振り向く間もなく飛び退いた。轟然と音を立てて死の刃が通り過ぎる。床に投げ捨てた松明が、急にバチバチと音を上げ始めた。燃え尽きる前兆である。私は舌打ちしたい気分に駆られた。間が悪すぎる。

辛うじて体勢を立て直して振り返ると、狂戦士は再びすぐそばまで突進して来ていた。腹の傷からは血が滴っている。しかし致命傷にはならなかったようだ。肉体の頑健さにおいても、想像を上回る超人ぶりだった。

私の動きを見て取るや、巨人は太刀筋を横薙ぎに切り替えた。巨木をも一刀で斬り倒してしまいそうな剣圧を、私の刀で受けることはできない。再度懐に飛び込む機会を見出せないまま、私はじりじりと後退した。

松明と角灯(ランタン)の火が遠ざかる。

光源を背にした男の顔は影となり、目だけが異様に輝いていた。避けるだけならば容易い。だが私は勝たねばならない。一対一の仕合で逃走するくらいなら命など要らぬ。

二度、三度と空を切る男の大剣はその速さを緩めるどころかますます勢いを加えて迫って来る。私は一足飛びに後退り、同時に二尺五寸の湾刀を鞘の中へと落とし込んだ。


鍔鳴りの音が甲高く、修羅場の空気を凜と渡る。


腰を落とし、全身全霊の気を(つか)ねる。

柄を持つ手はごく柔らかに、完璧な姿の愛刀を身体の一部と感じながら、私の時間が凝縮していく。

外せば、死ぬ。

巨人の怒りは今や頂点に達していた。狂戦士の怒りは純乎たる力へと変わり、かつてない速度の一撃が、瞬間の後に私を葬り去ろうとしていた。が――


(遅い!)


裂帛の気合と共に私は跳んだ。

地を蹴り、腕を振り抜き、総身を一閃の刃と化して、分厚い巨人の胸板を今度こそ真一文字に斬り飛ばした。

膨大な量の血煙を王の間の闇に撒き散らしながら、男の巨体は後方へと吹き飛んだ。

断末魔の叫びが消えるまでが、無限に長い時間に思えた。

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