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新しいお仕事は、突然やってくるっす

「よっしゃ、なかなかええんちゃうか?」

 ぽってぃーの言葉にゴロは息を乱しながらホッとする。シロに(さと)されて以来、余計な事は考えずただひたむきにレッスンを受けてきた。その努力が実を結んできたのか、今日は五曲続けて歌って踊る事ができた。まだまだ振り付けが怪しいところはあるが、確実に成長している実感があった。

「あんちゃ~ん、腹減った」

「せやな、時間もちょうどええし昼飯にしよか」

「あ、おいお弁当を作ってきたっす」

 食堂へ行こうとするぽってぃー達を引き止め、スタジオの隅に置いてあった荷物からいくつかの風呂敷包みを取り出す。

「やたらデカい荷物やと思とったら、いつもみたいに食堂で食うたらええやんか。朝早かったし、大変やったやろ」

「今日は厨房のメンテナンスで食堂はお休みだとお知らせがあったっす。だからお弁当を作ったっす」

 そう言われて初めて、そういえば少し前にそんな張り紙があったなと思い出す。自分の方がこのスタジオに来る頻度は高いというのに、とぽってぃーはポリポリと頭を掻いて反省する。

「どってぃー先輩、どうぞっす。力が出るように、お肉をいっぱい入れたっす」

「肉ー!いただきまーす!」

「ぽってぃー先輩にはお野菜のあんかけ焼きそば風を作ってみたっす」

()?」

「焼きそば用の麺じゃなく、こんにゃく麺という低カロリーの麺を使ったっす」

「あくまでもカロリーに妥協はせんのやな…」

 彼の健康の事を考えての代用だったのだが、なぜか肩を落とされてしまった。

(焼きそばよりうどん風の方が良かったっすかね?)

「シロさんはおにぎりとお味噌汁っす」

「さー、おらは…」

「食後のデザートもちゃんとあるっすよ」

「早くよこせさー」

 ちゃんとスイーツの存在をチラつかせると、大人しくラップに包んだおにぎりと保温容器に入れた味噌汁を受け取ってくれた。ゴロは自分の分のお弁当(シロと同じメニューである)を持ってシロの隣に腰を下ろす。

「休憩終わったらわいは上の階で打ち合わせがあるからちょっと抜けるけど、さっきのおさらいしっかりやるんやで」

「す、わかったっす」

「さー」

「はむはむはむはむはむはむはむはむ」

 午後の予定を話すと、どってぃー以外から頷きが返ってくる。

 そのまま他愛ない話をしながら昼食を楽しんでいると、不意にスタジオのドアが開いた。

「あ~、いたいたてぃっぽーちゃ~ん」

「ま、マウチューさん!どないしはったんですか⁉今日はリモートで打ち合わせに参加するんじゃ…」

「いや~、急な予定変更があって西の中心に来る事になってね。そしたら、今日ここでローゴーちゃん達がレッスンしてるって聞いたからさ~。せっかくだし、ちょっと顔見ていこうかなと思ってさ。元気してたか~い?」

「す、す、お陰様で!」

 突然現れた彼、マウチューは業界でも顔が広くやり手で有名なプロデューサーである。一度ぽってぃー達の撮影を見学に行った時に出会い、そのまま彼が携わっていた冷凍食品の焼きおにぎりのCMに出演しないかと言われたのがゴロの芸能生活始まりの瞬間だった。

「CMの評判、上々みたいだね~。ハウスキーパーとの両立は大丈夫かい?」

「は、はい、ぽってぃー先輩が上手くスケジュールを調整してくれるようマネージャーさんにお願いしてくれているので。その節はお世話になりましたっす」

「何言っちゃってんの~。こっちこそ、ローゴーちゃんのお陰で周りから賞賛浴びて鼻高々だよ~。今度東の中心に来る事があったら連絡してよ。行きつけの美味いシースーの店に連れていってあげるからさ~」

「シースー?」

「寿司の事や」

 コソッとぽってぃーが耳打ちしてくれたので理解できたが、彼の話す言葉は独特なので時々何を言っているのかわからない。業界用語というらしい。もっとも、彼以外の業界人がその単語を口にしているのを聞いた事はないのだが。

「てぃっぽーちゃんブラザーもお疲れ~。NuiTube(ぬいちゅーぶ)見てるよ~。いつもの事ながらゆーじー(自由)だね~」

「どうも、はむはむはむはむ」

 軽く手を上げるだけで顔も上げないどってぃーに、ぽってぃーがこら!と慌てたように(たしな)める。

「挨拶ぐらいちゃんとせんかい!失礼やろ!」

「いいよいいよ、これがてぃっぽーちゃんブラザーらしさだしね~」

「えろうすんません。よく言って聞かせます」

「ハハハ、おや?そこの彼は初めて見る顔だね」

 寛容に笑って許してくれたマウチューは、どってぃーの隣にいたシロに気づきトレードマークのサングラスを少し下げる。

「あ、紹介させて頂きます。ゴロのすぐ後にウチに入ったシロです。私が作ろうとしているグループのメンバーの一人です」

「オッケーオッケー、ローシーちゃんね。よろしく~」

「さー、勝手に変な呼び方しないでほしいさー」

「しししししシロ!お前まで!」

「アッハハハ!これまた面白い子を見つけたねてぃっぽーちゃん。にしても…」

 どいつもこいつもと頭を抱えるぽってぃーの姿込みでツボに入ったらしく、これもマウチューを怒らせる事はなかった。それにぽってぃーとゴロが安堵していると、マウチューはキョロキョロとゴロとシロを交互に見つめる。その目は何か面白いものでも見ているようである。

「ど、どうかしはりましたか?」

「いや~、ローゴーちゃんとローシーちゃんってクリソツ(そっくり)だね~」

「あ、は、はい、よく言われるっす」

「時に相談なんだけどさ、てぃっぽーちゃん」

 クルッとぽってぃーを振り返ったマウチューがサングラスを光らせる。

「今度ぬいぬい印が新商品を出すんだけど、引き続きローゴーちゃんに出演してもらえるかい?」

「そ、それはぜひ!こちらとしてもありがたい話ですわ!」

「そーこーでー、ローシーちゃんと共演してもらうってのはどうかな?」

「えぇ⁉」

「す⁉」

「さー?」

「はむはむはむはむはむはむはむはむ」

 相変わらずサラッととんでもない話を持ちかけてくる男である。目玉が飛び出すほど驚くぽってぃーとゴロだが、話題の中心にいるシロは全く動じていない。食事に夢中のどってぃーについては言わずもがな。

「例の焼きおにぎりの新作なんだけどね~。こう、ピリッと締めてくれるアクセントが欲しいなと思ってたんだよ」

 その言葉を聞いたシロは、不満そうに口を尖らせる。

「おらは甘いものしか…もごっ」

「ぜ・ひ・と・もお願いします!」

 辞退を申し出ようとするシロの口を塞ぎ、これ以上ないほど前乗りで話を受けるぽってぃー。ゴロとシロのセット売りを思いついた自身の目に狂いはなかったと内心両手でガッツポーズをする。

「芸能界、すごいっす」

 またしてもマウチューの一言で決まったとても大きな出来事に、ゴロはただそれだけ呟いた。



《焼き焼きおにぎり焼き焼きおにぎり♪丸くて大きな焼きおにぎり♪焼き焼きおにぎり焼き焼きおにぎり♪みんなで!食べよう!ぬいぬい印の焼きおにぎり!》

《ゆず胡椒味、新発売さー》

「おおお、ええやないか」

 テレビで放送されたCMを見たぽってぃーが、思わず感嘆の息を漏らす。耳に残りやすい定番のメロディーを歌うゴロと、一言で抜群の存在感を示すシロ。

 こうして見ると、やはりいいコンビだと再確認する。

「どってぃーみたいに、ゴロとシロで何か企画任せてもらえんか上と相談してみよか」

「す、いいんすか?」

「さー、これがおらの実力さー」

 シロの反応は予想通りだが、意外とゴロが前向きな事にぽってぃーは内心驚く。

(最近どこか吹っ切れた感あるし、シロが何か言うてくれたんかな)

 ゴロの成長を喜び、ますますこの二人の可能性に期待を寄せるのだった。

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