ゲームのやり方、教わるっす
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「きゅんスプ~!」
「そういえば、あれからやっとるか?」
夕飯を食べている最中にテレビから流れてきたCMにどってぃーが反応し、ぽってぃーもゴロへ話を振る。
きゅんlove'sぷらっしゅ、巷で大人気のスマホゲームである。流行を把握しようとダウンロードしたぽってぃーが、まんまとハマったこのゲームにゴロを誘ってから数ヶ月。最近は忙しくも初めの頃より余裕が出てきたゴロが色々なドラマやアニメを見ているという話をしていたが、ゲームの話は聞いていないなと思い出したのだ。勧めた時は興味を示していたと思うのだが、その後プレイしているのだろうか。
「す、はい!毎日寝る前に遊んでるっす!でもイマイチやり方がわからなくて…ちゃんとできているのか自信がないっす」
「それやったら、この後ちょっと見たろか?」
「す⁉で、でも…」
仕事で忙しいのではないかと遠慮するゴロに、笑いながら手を振る。
「今日は少し時間あるから構へん構へん。一息ついたら、呼んでくれたらええから」
「す…じゃ、じゃあお言葉に甘えるっす」
「ん、ほな後でな」
ごちそうさんと手を合わせ席を立つぽってぃーに、ゴロはお粗末様っすと頭を下げた。
*
「よっしゃ、ほなやろか」
「お願いしますっす」
粗方の仕事を終えたゴロはぽってぃーに声をかけ、二人はリビングのソファに並んで座る。
「まずはミッションの確認やな。ログインボーナスはちゃんと受け取っとるか?」
「す、この贈り物のボタンを押すんすよね?」
「せや。これが地味に大事やからな。塵も積もれば、ってやつや。これを受け取ったら、この手紙のマークを押して今日のミッションを見るんや。そしたら指定の曲を選んで…」
一つ一つ教えてもらいながら、レベルアップの方法やアイテムを手に入れるにはどうすればいいのかを覚えていく。律儀に細かくメモを取るゴロに合わせ、ぽってぃーはなるべくゆっくり話すようにした。
「───ってな具合やな。まあ、要するに仰山ライブをしたらそれだけ貰えるアイテムも増えるっちゅー事や。ゴロの場合は、キャラクターの育成の仕方が効率悪かったのもあるな」
「なるほどっす。とても参考になったっす」
それにしても、とぽってぃーは画面を見て思う。いくらプレイの仕方の要領が悪かったとはいえ、数ヶ月もの間毎日やっていたにしてはやたらレベルが低い。キャラクターのレベルは今教えたので今後はどんどん上がっていくだろうが、プレイヤー自身のレベルがこんなにも低いままなのはなぜなのか。
「ゴロ、ちょっと一回ライブをしてみてくれへんか?」
「す?はいっす」
ぽってぃーの言葉にキョトンとするゴロだったが、何かまだアドバイスがあるのかもしれないと本日の課題曲をプレイする事にする。今しがた教わったように曲の属性に合ったキャラクターで編成したユニットを選択し、いざライブへ臨む。
見られながらプレイするのは初めてなのでとても緊張するが、これでも毎日やり込んでいるのだ。少しはできるというところを見せてぽってぃーに褒めてもらいたい。次々に出てくる音符をタイミングに合わせてタッチしていき、着実にコンボを重ねていった。
そして最後の音符をしっかり押さえ、フィニッシュを迎えると見事フルコンボを果たす事ができた。キラキラとした演出と共に、今まででは考えられないほど高いスコアが表示される。なるほど、確かに属性を揃えるだけでこんなにも違うのかと感動しながら、嬉しさで鼻息荒くぽってぃーを振り返った。
「…」
あんぐりと口を開けてこちらを見ているぽってぃーだが、ちょっと思っていた表情とは違う。何か間違えただろうかと首をこてりと傾けると、ぽってぃーはハッと我に返った顔からそのまま笑顔を作る。
「ま、まあまあやな。ちなみに、難易度はどこまで上げられるんや?」
「難易度、っすか?えっと…それはどうやって上げるんすか?」
その答えを聞いて、ぽってぃーは確信する。ライブをする際、プレイヤーは自身の実力に応じて難易度を変える。当然ながら、難しいほど得られるアイテムは多く、そしてレア度の高いものになる。
しかし、今ゴロがやってみせたのは一番低い難易度のものだ。正直な話、ぽってぃーの感覚ではフルコンボできて当たり前と言ってしまってもいいレベルなのである。ログインして最初にライブを行う時に設定されているのがこのイージーモードなので、ゴロは何の迷いもなくこのままでプレイし続けていたのだろう。
(けど、今それを伝えても…)
ゴロのおぼつかない手捌き(彼の場合は足捌きと言うべきか)から察するに、このイージーモードでも恐らく数ヶ月かけてやっとフルコンボできるところまで慣れた事は想像に難くない。難易度の説明はもう少ししてからにしようと、ぽってぃーはそっと言葉を飲み込んだ。
「あー、きゅんスプ~!ゴロもやっとったん?」
その時、二人の間からヒョコッと顔を出したどってぃーがスマホを覗き込む。
「す、ぽってぃー先輩に教えてもらって遊んでるっす。どってぃー先輩もやってるんすよね?」
「やってるー!ゴロ、推し誰?」
「推しっすか?」
尋ねられ、パチクリと目を瞬く。
「まいはな、まいはな、サニー!ほら、こいつ!」
そう言って見せられた画面の向こうでは、パティシエの格好をしたトラのキャラクターが自分で焼いたと思われるクッキーの乗った皿を見せていた。
「可愛らしいっすね」
「せやろ⁉こいつセンターやねん!いっちばん目立つねん!」
「センター?」
「ライブの曲はソロもあるけど、大体はユニットのやつばっかりやからな。サニーはいくつかあるユニットの一つでセンターを務めとるんや。ちなみにわいの推しエリスも同じユニットなんやで」
どってぃーに倣って、ぽってぃーが何人か並んでいる画像を見せながら自身の推しを指差す。
「なーなー、ゴロは誰が推しなん?」
「す、そういう目で見た事がなかったっす。すみませんっす」
「っんやねん、じゃあ自己紹介見て決めろや!」
「自己紹介?」
「このプロフィール画面から各キャラが一言ずつ喋ってるとこが見れんねん」
ぽってぃーに教えてもらってプロフィール画面を見ると、ズラリとたくさんのキャラクター達が並んでいる。
「多すぎて決められないっす…」
「せやな、最初はビジュアルが好みとかで決めてもええと思うで」
「びじゅある…」
むむむ、とにらめっこするように画面を凝視していると、ふとあるキャラクターが目に留まった。赤い毛色にキュッと勝気そうに吊り上がった目、猫のキャラクターである彼女が気になりタップしてみると、少し大人びた声が聞こえてきた。
《私は私が納得できる歌を歌うの。別にあなたにどう思われようと構わないけど…応援したいって言うなら、好きにすれば?》
「ああ、マーガレットやな」
「マーガレット、さん」
せや、と頷き説明を続ける。
「プライドが高くて一見とっつきにくそうやけど、たまに見せる優しさなんかがウリでな。いわゆる”ツンデレ”ってやつやな」
「つんでれ…」
ジッと彼女を見つめ、もう一度ボイスを再生する。
《私は私が納得できる歌を歌うの。別にあなたにどう思われようと構わないけど…応援したいって言うなら、好きにすれば?》
《私は私が納得できる歌を歌うの。別にあなたにどう思われようと───》
「…気に入ったんやな、マーガレット」
何度もボイスを聞き続ける姿に、無事(?)推しが決まって良かったと温かい視線を向けるぽってぃーだった。
「ちなみにおらはカトリーナ推しさー」
「お前もやっとったんか⁉」