緊急、扇を取り戻せ
『ガサガサ』
『ゴトン。スー...。』
「ん?」
何だか寝室で音がする。
暗闇の中、何の物音かと起きる。
爽真はその瞬間、いつもと違うことに気づく。
常時表示されるはずのステータスが出ない。
「まさか...、扇がない!」
周囲を探すが、扇が見当たらない。
もしや、さっきの物音は扇が盗まれた音?
(まさか、スキルの神のお供召喚は使えない?
今神社にいるお供は?)
神社にいる召喚済みのお供達は居た。
「よかった。」
外にいたカグツチを部屋に呼んだ。
「カグツチよ、炎を纏え。」
と言葉に出す。
基本スキル『命令札』が発動した。
カグツチの耳が炎を纏った。
これで周辺に灯りがつき、見やすくなった!
今この部屋に何がある?
社務所内の家具を見た。
以前貰ったアイテムを収納していた。
収納していたのは、地図が二つ。
一つは兜ノ京の全体図、二つは上下水道の地図。
(これで扇の検索が出来るか試してみるか。)
外にいたマガツヒを部屋に呼んだ。
「我の扇の場所を調べよ。」
と言葉に出す。
基本スキル『命令札』が発動した。
(扇の位置情報よ、出てくれ!)
心から願った。
「申し訳ございません。
ステータス内にある位置情報の使用がOFFになっているか、扇に秘められた神源のボタンが切られているか、レベル不足のため技が発動しません。
扇の位置情報が確認できませんでした。」
(位置情報の使用ボタンや扇の神源ボタンがあるだと?
そんな機能があったのか。新しい情報だ。
レベル不足...は仕方ないか。経験が無さすぎる。)
これでは神のお供を使用しての検索は無理のようだ。
もう一度社務所内を探すが見つからない。
外に出ると、とても小さな足跡が神社外へと続いていた。
只今の時刻は深夜一時。
暗くて夜道が見えにくい。
社務所に戻り、隣に寝ていた北山さんを仕方なく起こし、相談をする。
「北山さん、扇を紛失してしまった。
多分、この小さな足跡の犯人が盗んだのではないかと思っている。
どうすればいい。」
北山さんは、それを聞いて腕を組む。
「それは大変なことをしてくれたな。
まず、新しい扇は作れる。儂が作ったからな。
可愛い爽真のためを思い、幾多の便利機能を付けた傑作だったんじゃが。
我々のような神主に秘められた力を神源と称し、扇にさまざまな機能が宿る設定にしていたのじゃ。
その中の位置情報をONにしていなかったならば、爽真が扇の機能を使いこなせていないのかもな。
扇の神源を意図的に他者が切ったならば、相当情報収集の出来るキレ者かも知れん。
一番可能性が高いのは、爽真の熟練度がまだ足りぬということじゃな。」
北山さんは冷静に状況を分析をした。
続いて、扇の性能を語る。
「神源は、数時間以上経過したら使えぬ仕様ではある。が、他者が神源が入れてしまうと、扇の機能が使えてしまう。これを止めないといけぬの。」
「なるほど。」
「うーん。
扇を開かれると、爽真の個人情報が見られてしまうな。最新の文字や数字が読めない相手であること願うしかないのう。
他に考えられるのは、お金と連携していたら、操作次第で盗まれる可能性がある。」
爽真は、冷や汗をかく。
「連携してたものはあるか。」
「社務所の家具や神社内の所有物は連携していた。」
素直に分かる範囲のことを答えた。
「分かった。連携を付けていたのじゃな。
扇との連携は全て止めるぞ。
これも、操作一つで盗まれてしまうからな。」
「はい。」
先程まで寝ていた己の布団を丁寧に畳み、端に寄せる。
襖を開け、足元の床の木製の凹凸ボタン押すと、
(ガチャン。)
襖の下から北山さん特製の制御室が現れた!
本来あった布団が上に移動した。
北山さんは制御室に入り、話を続ける。
「爽真、物は大切にしなさい。
世の中にあるすべてのものは、誰かの時間とお金と労力をかけて作っているんだ。
品物にも誰かの想いが込められておる。
例えば、高い品物はこだわりが込められている。
安い品物は早く売る理由があるように。
お金があれば大抵のものは揃えられる事もあるが、
膨大な時間がないと作れぬ品もある。
たった一人しか作れぬ限られている品もある。
力や器用さ、知識、努力がないと作れぬ品もある。
大勢の人々の協力が成り立たないと出来ない品もある。
それだけではない。
品物を売るには、場所も確保せねばならぬ。
たった一つの場所でも、安全な場所の確保だけでも、一人では膨大な時間を要する。
丹精込めた品物を盗まれたら落ち込むし、品を作る気力がなくなるわ、警戒して品自体を表に出すことを躊躇することになる。
この被害を拡大させてはならぬ。
盗みを誰も注意や指摘もせず、犯人も捕らえられず放置すれば、治安は悪化する。
最悪、誰も品物を売らぬようになる環境ができてしまう。特に貴重な財宝は、盗まれたなら信頼できる味方を使ってでも取り返しなさい。」
「はい。」
叱られてしまった。
北山さんは口を動かしながらも、尋常ではない手捌きで、配線やらスイッチボタンを操作する。
「さて、連携を切ったぞ。」
「ありがとうございます。」
「まぁ、今回は安全な場所の確保ができていないことが原因じゃな。
爽真はまだ来て日が浅いからなぁ。
儂一人ならこの近辺の事情も周知しておった。
正直、治安は悪い。
だから自衛も出来て、今まで何も盗まれる事がなかった。
神社の周りに柵などが全くないから、それで入られてしまったかも知れぬな。
無くしてからまだそんなに時間は経っていないだろう。さぁ、扇を盗んだ犯人を探せ。まだ近くにあるかもしれない。大体一時間以内に見つからなければ無いと思え。」
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『緊急:扇を取り戻せ』が発生しました。
特別ルール
失敗すると、扇と扇に含まれる個人情報が全て取られます。スキル・所持金・社務所の家具・神社内の所有物も失います。
タイムリミット:一時間
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爽真は急いで地道に深夜の夜道を検索する。
カグツチに付き添って貰い、小さな足跡を検索する。
爽真は頑張って道なりにある足跡を追った。
途中で消されたか?と思ったが、草の茂みの先にあったり、川の石を飛び越えていたり。
こうして盗んだ犯人の影が見えた!
「カグツチよ、目の前の影の姿を捉えよ。」
と言葉に出す。
基本スキル『命令札』が発動した。
物陰から黄色と黒の縞々パンツの子供が現れた!
扇を持っていた!
少年は、全速力でまた草の茂み姿を隠しながら逃げた。
逃げ足が早い。
爽真も全力で追う。
草原に出ると、子供は行動を変えた。
少し走った後、前転、後転、倒立に後方倒立回転跳び(バク転)を挟むようになった。
バク転した拍子に偶然扇も宙に浮いたりと、手荒に扱われる。
言葉に出してないが、『鬼さんこちら。』と自らの尻を叩いて挑発している仕草もしている。
その不規則に走る行動を先読みしながらなんとか追いて捕まえた。
「捕まえた!扇を返して貰おう。」
「ぎぃいいーーーーーーー!」
その子供の全身が、真っ赤に染まる。
全力で体を押さえつけていたが振り切り、叫び声を出した後、扇を投げ捨ててどこかへ消えてしまった。
その逃げた先があまりにも視界が暗く、これ以上追えなかった。
「取り返せたか?」
神社で留守をしていた北山さんが、声をかけてきた。
「はい、取り返せました。」
「ふむ。よく取り返せたな。どれ、少し扇を見せてくれ。」
手荒に扱われた扇が綺麗になった!
「これで良いじゃろう。」
修理してくれたお礼に、犯人の子供のことを話す。
「犯人は、真っ赤な肌、黄色と黒の縞模様の下着、毛むくじゃらの髪。さらに、髪を油などで固めて尖らせて角を作っているように見えたんだが、近所で見覚えはあるか。」
それは、北山さんにとって全く未知の子供であった。
「それは......えー、小鬼のような見た目じゃのう。」
不思議そうな顔をすると教えてくれた。
「もう夜も遅い。今日はもう寝よう。」
「おやすみなさい。」
爽真は、扇を抱きしめて寝た。
セーブ中...
ステータスの物怪図鑑に1種類追加された!
◎小鬼
真っ赤な肌
黄色と黒の縞模様の下着
毛むくじゃらの髪
髪を油などで固めて尖らせて角を作っている
ステータスの記録集に1種類追加された!
◎小鬼泥棒
北山神社にて、扇紛失時にあった足跡を追うと小鬼を発見。扇を盗んだのは小鬼だった。扇を取り返したが、小鬼泥棒を捕らえることができなかった。
また狙われぬように対策が必要。
兜ノ京の民は、得体の知れない者、理解できない者を物怪と総称し、特徴に合わせ、鬼・たぬき・狐など名前を変えて表現する。