チュートリアル中編
北山さんが発言をする。
「武蔵皇子、爽真殿の門の許可証を作って頂きたい。」
「そうだな。爽真殿が単独でも行動できるよう、門の許可証を作らねばならぬな。
門の許可証は、大御殿にいる役人の平八に製作を依頼すればできる。爽真殿は大御殿へ行って参れ。」
武蔵皇子は家来を呼び、2人を畳の間から下がらせた。
壱ノ宮の表玄関前に到着し、ステータスを開く。
地図を見ると、大御殿は南に位置する。
壱ノ宮の前にあるようだ。
大御殿のある方向を見る。
すると、役人たちが大量の書類を持って右往左往していた。
外にいる役人たちが大声で叫んでいる。
「あぁー、人手が足りぬ!」
「すまぬ!受付は4時間待ちだ!」
「受付の最終列はこちらですー。」
大御殿の中に役所があるようだ。
(4時間も待つのは長過ぎる。
そういえば、役人のサブクエストがあったな。)
ステータスを開き、『新たな役人を探せ』を押した。
『北門入口にいる万侶に声をかけよ。』
と詳細が表示された。
爽真は、万侶に声をかける。
「役所の受付はこちら!
この列の最後尾に並んでくれー。
只今4時間待ちですよ。」
見た目は10代半ばくらいだろうか。
しっかり仕事している少年だ。
爽真は質問をする。
「役人は募集してるか?」
「大募集中さ。但し、暗記に強い人でないと雇えないよ。俺が用意するお題に合格出来る人がいるならば、是非とも雇いたいね。そんな人物を見かけたら、俺に声かけてくれよな。」
ステータスを確認すると、内容が変更された。
『メインストーリー: チュートリアル中
サブストーリー:チュートリアル中
▶︎お知らせ
【New】サブストーリーのチュートリアルが始まりました。
〜暗記に強い人物を探せ!〜』
地図を開き、神のお供召喚のボタンをみる。
残念ながら今の時点では召喚できないようだ。
何か法則があるのだろうか。
爽真は諦めて自分で効率的に探すことにした。
(暗記に強い人物か。
大勢の人が役所に並んでるが、それを片っ端から1人ずつ鑑定するか。
それでは日が暮れてしまう。
暗記が強いということは、もしかしたら日頃の会話も特徴があるかもしれない。
. . . 待てよ?
今移動できそうな範囲はどのくらいか周りを確認してみよう。)
爽真は一旦考えをまとめると、役所から距離を置き、壱ノ宮周辺を散策し始めた。
会話が聞こえる。
「未だ行けぬか。」
茶色の着物を羽織る男性が、とある視線の先を向いて話していた。
その先には、筋肉を綺麗に鍛えているであろう、手拭い鉢巻にした男がいた。
近くの木の椅子に座って頭を伏せていた。
「...すまねぇ。もう少し待ってくれ。」
「うむ。」
爽真は、一声かけた。
「どうしたのですか。」
「うむ。あの大御殿の裏側にある林から、怪しい影があり、奇妙な音も鳴るのだとか。
相当不気味だったのか、怖気付いておるのだ。
正体はお化けではないかと話しておってな。
発見者の男に案内せよと交渉している最中でな。」
サブストーリーが追加された。
『大御殿裏にある林の謎を攻略せよ。』
「我々もお供します。」
「良いのか!心強い。俺の名は筋虎だ。」
「うむ、我は阿礼と申す。」
「私は爽真だ。よろしく。」
人数が増えたからなのか、筋虎は怯えるのをやめた。
ステータスに同行人2名が追加された。
北山さんを含む、4人で薄暗い林の様子を見にいく。
すると、かばっ!と茂みから
『キィー...キィー...』
『ガサッ ガサガサッ』
『ぁーあ゛ー、ぁーあ゛ー』
と、複数の音を立てながら、得体の知れない何かが蠢いていた。
すぐさま、明るい道へ逃げた。
そして一応先程の報告をする。
「確かに怖いな。
ただ、暗くてよく見えぬ。」
ステータスが切り替わった。
『同行人の 阿礼 に向かって、命令札を使ってみよ。』
と画面が表示された。
「コウショウブンゲイ!」
爽真は阿礼に向かって、命令札を出し、札書かれた呪文を唱えた!
爽真の基本スキル『命令札』が発動した。
阿礼のスキル『口承文芸』が発動した。
扇からお札が飛び出し、阿礼の目の前で止まった。
その札に、墨の文字が浮かび上がる。
阿礼は、札に書いてあった日光和楽踊りを唄った!
「ハァアーハァーァエー 日光よいとこ
(ハ ヨーイヨイ)」
何処からか聞こえてくる三味線の音共に一番の歌詞を唄う。
北山さんと爽真と筋虎も合いの手を入れる。
すると、あら不思議。
薄暗い林に、太鼓の音と共に少しずつ日光の日差しが差し込んできたではないか。
影から木の根っこにつまづいて泣いてる女子が現れた!
爽真が日差しの方角を見ると、鏡を持った神のお供が居た。さっき召喚した子だろうか。
同行人達はその様子を気にしなかった。
4人は急いで救助に向かう。
近くにあった井戸近くに運び、水を汲み、軽い擦り傷のある顔と足に付いた泥を洗い流した。
女子は、古びた小箱を腰に身につける。
迅速に手当てしてくれた3人にお礼をした。
「ありがとー。またね!」
スッと北門方向に行き、人混みに紛れてあっという間に見えなくなった。
「まさか人の子だったとは!
命を守れてよかったー、よかった。
俺、この後も仕事があるんで!」
筋虎も人混みに紛れて消えいった。
阿礼とも話す。
「協力していただき、誠に感謝する。
唄っただけで日光を操るとはな。
日光和楽踊りの日光は地名だった筈だが、
君は面白いな。」
苦笑された。
阿礼の持つ口承文芸のスキルは、聞いたことを覚える暗記技だ。
阿礼は暗記に強そうだ。
爽真は、よかったら役人の試験を受けてみないかと話題を変えた。
「良いよ。受けてたとうではないか。」
こうして、3人は大御殿へ向かった。
爽真は、万侶に声をかける。
「よう、さっきの兄ちゃん。
お?暗記が強そうな人連れてきてくれたのか!
少し待ってな。」
万侶は、腰巾着から紙を取り出した。
「よし、まずは挑戦する人の名前を教えてくれ。」
「阿礼と申す。」
「では、今から話す言葉を暗記してくれ。いくぞ!」
「おう。」
「ここは郡役所。
略して役所と呼んでも良いぞ。
ご案内はこの私、阿礼が致します。
さぁさ、どの館にご用かな?
税の米を納めるなら正倉で、
飯の話は厨家で集え!
金のことなら曹司にお任せ!
備品や武器のことなら工房だい!」
阿礼は同じ文言を一文字一句間違えずに繰り返した。
「よし。次はコレだ。」
「おう。」
「こちらは厨家でございます。
猫の手が欲しいかな?
誰かの力を借りたい食い物の依頼は、
この私、阿礼にお任せあれ。
草木や石の採取、山の獣狩りに海や川の漁、調査などなんでもござれ。
依頼者は名を名乗り、
目的依頼と場所と期日を指定して話してもらおう。
受注者は名を名乗り、
指定依頼が書いてある木簡を私に渡してもらおう。
依頼通り成功すれば郡役所印の褒美を受け取れるぞ。
依頼に関する揉め事を起こしたり、
失敗すればただじゃおかない。
相応の罰が待ってるぞ。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい。」
阿礼は同じ文言を一文字一句間違えずに繰り返した。
「おめでとう、合格だ。採用、採用、即採用!」
万侶は拍手した。
「阿礼!早速だが受付やってくれ。頼む!」
「いいとも。やること無かったから丁度いい。」
万侶は、阿礼を連れて大御殿に入った。
すると、行列の進みが早くなり、あっという間に行列が無くなった。
爽真も行列の最後尾に並ぶ。
すぐ受付に案内された。
そこには阿礼が居た。
「先程の爽真殿ではありませんか。
御用はなんでしょうか。」
「門の許可証を作って頂きたい。」
「門の許可証は備品ですので、工房ですね。
大御殿の右奥にございます。」
爽真は、大御殿の右奥へと進む。
廊下を進むと、「工房」と大きな看板が掲げてあった。
中に入り、工房の受付をする。
「門の許可証か。あいよ!
名はなんと、爽真ね。
平八ぃ、門の許可証一個発注!」
「へい、旦那ぁ!」
カンカンカン
「へい、お待ち。」
平八から門の許可証を受け取った。
口承文芸
聞いたことを覚える暗記技。