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腐れ縁の貴公子に助太刀いたす


「あっ、薔薇式部!」

「げっ」


百合姫様に頼まれたお遣いの道中、聞き慣れた声に呼び止められた私は振り向いて、厄介ごとの匂いに眉を顰めた。


「追われているんだ、助けてくれ!」

「またぁ?」


廊下をパタパタと足早に駆けてきた小柄な貴公子に、私はため息をひとつついて、仕方なく無人の部屋の屏風の向こうに隠してやった。

その少し後、廊下の曲がり角から、平安にしては筋骨隆々な熊男と、狐顔の神経質そうな男が我先にと争いながら現れた。


「おや薔薇式部、ご機嫌よう」

「ご機嫌よう、黒熊(くろくま)の大将に白狐宮(しらきつねのみや)


厄介なのに出くわしちゃったなぁと思いつつも、扇で軽く顔を隠してにこやかに応答する。なにせお相手はお二人とも、帝と近めの血縁関係にあるお人だ。私も何代か前の帝の血を引いているらしいが、もはや皇族とは言えない身の上なので、このお二人には丁重にご対応せねばならない。


「白雪の君を見かけられませんでしたか?」

「しらゆき?どなたさまのことでございましょう?」


こてん、と首を傾げて私は惚ける。その通称で呼ばれるのは、私の知る限り一人だが。


「左大臣のご子息の、雪也(ゆきや)様でございますよ。ご存知ありませんか?」

「あぁ、でしたら、あちらを右に行かれましたよ」


ひょいと指し示せば、愛想笑いを浮かべた二人は「感謝申し上げる」と告げて肩をぶつけ合いながら去って行った。


「……もう大丈夫よ、白雪姫〜」

「その呼び方はやめろ、薔薇式部」


嫌そうに顔を歪めて屏風の向こうから現れたのは、百合姫様に勝るとも劣らない美少女顔の青年だ。眼福である。

可愛いものが大好きな私は、膨れている雪也をニヤニヤしながら肘でつついた。


「なぁに?また追いかけられているの?ヒューヒュー、憎いわねっ」

「男に尻を追いかけ回されて喜べと?」

「まだ尻を追われているだけでしょう?喜びなさいよ」

「は?」


尻を掘られたわけじゃないんだから、と続けかけて、さすがに淑女の発言ではないな、と口を噤む。私も宮中で生きるために、多少は気を遣うことを覚えたのだ。


「あなた可愛いものねぇ〜、初めて会った時も男に襲われていたし。可愛すぎるってのも大変ね」


初対面の時も男にひん剥かれかけていた雪也を助けてやったのだ。無論くんずほずれつの現場に割り込んだわけではない。

ドッタンバッタン大きな音がしたので、「強盗よー!!」と叫んだのだ。人が集まってきたら、強姦男は慌てて逃げて行った。そして雪也は一人果敢に強盗に立ち向かった勇者として、帝からお褒めの言葉を賜ったのだ。


そんな事件をきっかけに雪也とは仲良くなったのだが、雪也はその美貌ゆえに、男性だけでなく女性人気も無駄に高いので、交友関係は秘密にしている。余計な騒ぎの種は蒔かない主義なのだ。


「薔薇式部も見た目は美女だし、書も和歌も上手いし、男たちには人気のはずなんだがな」


雪也の言う通り、私も見た目はわりと妖艶な美女なので、しょっちゅう火遊びのお誘いは頂く。だから否定もせず頷いた。


「まぁ、それなりに声はかけられるけどね」


一人で歩いていると玉石混淆の男どもから声をかけられまくるが、いつも冷静かつ淡々と接するように心がけているので、雪也ほど大きな問題になったことはない。みんな、変わり者の女に遊び半分で声をかけているだけだしね。


「ツンツンあしらってたら、すぐ散っていくわよ。貴族の若様なんて、根性のないやつらばっかりだからね」


おかげで高飛車で高慢ちきな賢しら女と言われたりもするが、別に実害はないので気にしていない。

雪也情報によると、一部の男達には

「あのじっくり冷たい目が良い」

「観察されている感じがゾクゾクくる」

と熱狂的な人気を博しているらしい。だが、心底どうでもいい。


私にとって殿方たちは等しくBLキャラ要員なので、恋愛対象にはならないのだ。薔薇に挟まる趣味はない。


「なんで女の君より、俺の方が大変なんだ?」

「そりゃあなたの方が押し倒しやすそうだもの」

「言い方ッ!」


膝を折って悔しげに床を殴りながらも、雪也も反論はしない。きっと分かっているのだ。己がとってもか弱く儚げな、ザ・受けだということに。


「まぁまぁ、陰ながらとっても応援しているから、せいぜい頑張りなさい」

「薔薇式部……」


私からの激励に感動しているらしい友の頬は赤らみ、瞳は潤み、あまりにも受け受けしい。生ぬるい目で友を見つめながら、私は心の中で涎を垂らす。


「どこかの素敵な殿方と、いつか真実の愛が見つかるから。ね!」

「見つかってたまるかっ!」


クワッと目を見開いて反論されるが、私は慈愛の笑みで頷く。


「大丈夫よ、誰の元にも平等に愛はやってくるわ」


誰とでも良いから早くくっつけ。そして私の前でラブラブしたり惚気たりしろ。真実の(BL)を見せてくれ。


「恋バナならいつでも聞くから、また声かけてねぇ〜!」


バイバーイと片手を振りながら、私は落ち込んでいる男を放置して歩き出した。

なにせ私はお仕事の途中でしたので。



ユキヤにするかユキナリにするか迷いましたが、ユキヤにしました。

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