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夫の美貌は妖にも通用してしまうらしい

「……暇だわ」


今夜は百合姫様主催の蛍鑑賞会が大盛況です。

私もその前座で蛍にまつわる物語をひとつお話ししたりして活躍したわけなのですが、それが終われば特にやることもなく。


「暇すぎる」


蛍鑑賞会って何よ。

みんなでしみじみ蛍を愛でるものらしいけど、いや、光ってる虫を見てるのも飽きたのよ。風情がないと言われましてもね、どうせ光らせるなら蛍の尻より美男子の尻の方が良いタイプなもので。


とか思っていたら。


『助け……ぅわあぁあ!?』

「は?」


ぶーーーんっとすごい速さで飛んできた紙蝶が私の目の前で絶叫をお届けした後に、パラパラと紙屑になって絶命した。


「ちょちょちょ、待っ、何があった!?」


式神のこんな変化は見たことがない。いつもは役目を終えたらパラリと床に落ちてただの紙に戻るのだ。それなのに、()()()()()()こちらの紙を握りつぶすだなんて。


「嘘ぉ!なに、向こうの術者の方が強いとか、そういうこと!?」


雪也とのやりとりに使っている紙蝶は、雪也が己のピンチの時に送ってくるSOSである。たいてい男に襲われてアハン♡なラブイベントなのであるが、今回は明らかに異常事態だ。


「待て待て待て、これは一人では対応出来ないかも……ッ」


私は慌てて、ひとまず持てる限りの紙蝶を飛ばした。


「雪也を探して!あと、オタクも!」


トラブルメーカーの我が夫と、便利なオタク陰陽師を捜索開始である。




***




「勘弁してくださいよぉー薔薇式部ぅー」

「うるさいわね!キビキビ働きなさい!」


書庫室の奥で隠れるように仮眠していたオタクを耳元で絶叫して叩き起こし、私たちは今、陰陽寮の片隅にいる。


「僕三徹明けなんですよぉ……」

「それどころじゃないの!雪也が超絶技巧の野良陰陽師に襲われてるかもしれないのよ!?」


私が必死に危機感を煽るが、オタクは全然やる気が出ないようである。


「なんですかそれ……他人の式神を遠隔で握り潰せる陰陽師なんていませんよぉ……」

「でも紙屑になったのよアンタの紙蝶」

「見間違いでは?僕、一応都で一番の式神使いなんですけど」


うんざりした顔で、のろのろと陰陽師占いセットを準備するオタクに、私は苛立ちが募る。


「だったらアンタより上のやつが(ココ)にいるんでしょ!もう!早く占って!」

「……もぉおお〜」


先ほど使い果たした紙蝶は全て役目を果たさず、力尽きて土の上に落ちたようである。雪也の現状は全く不明だ。さすがに焦る。

急かしに急かす私にため息をつきながら、オタクが陰陽師らしく占術を始めた。ピンと張り詰める空気に、私も邪魔をしてはいけないとじっと黙る。

しばらくして。


「あれ?」

「何か分かったの!?」


不思議そうに首を傾げたオタクが、眉を落としながら私を振り向く。


「えっと、雪也様は……すぐ近くにいらっしゃるみたいです」

「へ?近くってどこ!?」

「ちょっとお待ちを……」


そう呟き、オタクは更に占術を勧め、そして。


「……は?上?」


結果を睨んで固まった。


「上?天井?屋根の上?」

「いや、そんな馬鹿な。そんなことしたら、一瞬で衛士たちに弓で射殺されますよ……え、まさか」


オタクの顔がじわじわと青褪める。


「ちょっ、と、薔薇式部。これはまずいかもしれません」

「は?どうしたのよ」


尋常ではない顔色に、私も冷や汗が出てくる。私にはちっとも読めない結果を前に、オタクに詰め寄れば。


「雪也様を()()()のは、たぶん……()()じゃなさそうです」

「……え?」


どういう意味?そう声もなく呟けば、オタクが青い顔のまま、小声で答えた。


「占いが言うには、(あやかし)……おそらくは鬼だ、と」

「……えええぇっ!!」


そんな展開あるの!?さすが平安風異世界!……じゃなくて。


「穢らしい野獣系か美貌の悪魔系か、そこだけとりあえず教えて!」

「いやそこじゃないでしょ!?」


分かってるわよ、腐った思考を通して、一度心を落ち着けようと思っただけよ!


ちなみに穢らしい野獣系の鬼でも美貌の悪魔系の鬼でも、私はどっちでもおいしく頂けます。


いや待て。


「え?それ、もしかしなくても、雪也が鬼さんにおいしく()()()()()()カモってこと?」

「たぶん」


真顔で頷くオタクに、私も顔を引き攣らせる。


「性的に?食的に?」

「わかりません」

「……前者の場合どうなるの?」


真面目に答えてくれるオタクに、とりあえず気になる方から聞く。


「鬼と交わると人間の気が変わってしまい、界跨ぎで生きることが難しくなるので、妖界もしくは界の狭間で生きる鬼の情人にでもなるしかないのでは」

「ふぁっ!?きゃー見たいッ!……じゃないわ、冗談よ!」


あまりにロマンチックなお話をされて思わず興奮してしまったが、オタクの冷たい眼差しに我に帰る。


「ち、ちなみに後者の場合は?」

「骨も残らず喰われてお仕舞いだと思われます」

「うそぉおおおお!?それはヤバいじゃないのっ」


性的に頂かれるのであれば、待望の人外×人間をぜひとも生鑑賞させて頂きたいところであるが、さすがに友にして夫たる男が、鬼に骨まで残さず完食されちゃうのを見過ごすことはできない。


「こうしちゃいられないわ!早く助けなきゃ!」


私は憤然と立ち上がって叫んだ。


「雪也救出大作戦よ!」

番外編を試しに書き始めたら筆が進んだので、明日までに3話ほどで完結させる予定です!

毎度ながらゆるいお話ですがお付き合い頂けると幸いです。

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