表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/19

幸せなおしどり夫婦でした

さて、誰も興味ないかもしれないけど、その後の私と雪也の話もしておきますか。




私は身分差にも関わらず、無事に雪也の親友かつ唯一の妻として、一生安泰に暮らしました。


契約結婚した当初は、全然恋愛感情はなかったんだけれど、なんか情が湧いてしまってね。一、二年経つ頃には、普通に同衾してそれなりに夫婦としても過ごしていました。


だから、私と結婚して二年後。

一人目の娘が生まれたあたりで、雪也に新しい結婚の話が出た時は、わりと複雑でした。





「……良い話じゃない。皇女様なんて」

「…………そうだな」


帝からの直々のお話だ。契約結婚の相手で、しかも大した後見もない私に、反対なんてできるはずもない。

しかも、私よりよほど暗い顔をしている雪也を前に、私は励ますより他になかったのだ。


「大丈夫よ!あなたも私と一緒にずっといて、もう女性と触れ合うことも怖くないでしょ?」

「……どうだろうか」

「大丈夫よ多分!たぶん!」

「…………説得力がない…………」


空元気に笑い飛ばし、どんよりと落ちた肩を無責任に叩きながらも、私は胸にチクチクと棘が刺さったような気分だった。




しかし結局、雪也が実は女性恐怖症が完治していなかったことが、大々的に発覚した。

妹宮との相性を確かめたがった帝が一計を案じて、妹宮と語らっているところへ、何も告げずに雪也を呼ぶという暴挙に出たからだ。最高権力者の思いつき怖すぎる。


「ただいま御前に……うわぁ!?」


なんでもその時、帝は屏風の影に姿を隠していたらしい。帝に呼ばれて参上したら、そこにはいとやんごとなき気配を漂わせる女君がおひとり。雪也の衝撃はいかほどであったことか。


「……な、あの、え、あ、き、貴女は、あの、え?」


まったく心構えができていなかった雪也は、情けなくも腰を抜かした。

しどろもどろに狼狽える雪也に、帝も想定外の事態を察して、すぐ姿を見せてくれたらしい。助かった。


「……その者は、我が妹の四の宮だ」

「あ!主上!」


あからさまにホッとしてしまった、あまりに不調法だったと雪也は落ち込んでいたが、まぁ、仕方ない話だろう。

普段は、いつ知らない男女に押し倒されるか分からないと、決死の覚悟を携えて参内し、気を張って過ごしている雪也だ。突如見知らぬ女とふたりきりの場で、意図も読めず、さぞ怖かっただろうからね。

男女関係では非常に咄嗟の出来事に弱く、アドリブがきかない男なのだ。


「あ、えと、主上、そして、四の宮さまには……た、たいへんな、ご無礼を」


動揺しながらも必死に取り繕う雪也に、帝はしばらく無言の後に、深いため息をついたという。


「そなた、(おな)()が苦手なのは治ったかと思っていたが、……違ったようだなぁ」


以前、男色の噂がたった際に、雪也は帝に

「女性が苦手なだけで、男を恋愛対象とするわけではない」

と伝えていた。


私と結婚して熱愛の話を流したことで男色の噂も去り、女と結婚して子まで儲けたということで、女性が苦手というのも治ったのだろうと周囲からは思われていた。

しかし帝は、ご自分の思い違いに気づいて力なく首を振ったらしい。


「薔薇式部が特別だったのだな。……まぁあの女子は変わり者ゆえ、特殊だものな」


妙な理由とともに私だけが例外だったのだと納得した帝に何度もため息をつかれて、降嫁の件は流れた。ついでに帝のご温情で、雪也が重度の女性恐怖症であることは露見せずにすんだのだが。


「な、情けない……」

「どんまい」


肩を落としてしくしく嘆く雪也に、私は複雑な面持ちでしょげかえった肩を抱いた。


「別に姫宮様と結婚したかったわけでは全然ちっともまったくないのだが……帝にはまるで濡れ鼠でも見るような目で、たいそう憐れまれてしまった……」

「あなたも大概不敬よね」


色々とあまりにもな発言に思わずツッコミを入れつつ、私は安堵の中で笑った。


「でも私も、あなたに他の奥様ができなくて良かったわ。言わなかったけれど、ちょっと複雑だったもの」

「そりゃそうだろう。俺だって君に他の男ができたら複雑というか不快だからな」

「あははっ」


雪也の言葉にじわじわと湧き上がる喜びは、きっと愛というものだったのだろう。

私は、その時に初めて、きちんと夫婦になったような気がしている。子供を産んだ後に、何言ってんだって話だけれどね。


私たちは、なんだかんだ時代には珍しく一夫一妻で通して、おしどり夫婦として有名になった。


あ、何気に子供も五人産みました。

私には身分というか後ろ盾もないしね、子供くらい産んで妻として雪也の出世にも貢献しとかないとね。……ってのは建前で、一人産んでみたらめちゃくちゃ可愛くて、ついつい励んで五人産んじゃった。

こんな諸々未発達な世の中なのに、みんな無事に成長してくれて母は感動ですよ。子供が推しになっちゃったので、育児期間は創作も少し控えめになりましたね。


もちろん百合姫様のところへの出仕も続けました。

受け受けしくてカワユイ旦那様と、天使の如くお綺麗な主人に仕えて幸せな一生でしたね!





あ、もちろん腐女子としての道も貫きましたよ!


実に充実してましたね。

いやぁ、良いモノがいっぱい見れて、最高の人生だったわ。


雪也は色んな男たちに言い寄られてくれるので、そばに居たら本当に退屈しなくて済んだのよ。妄想を超えた現実が全速力でやってくるのだもの。鴨ネギどころじゃないわよ。


そんなわけで、人生で遭遇した全ての萌えと滾りを、私は一本の長編小説に纏めたんですよ。


それが、歴史に残る傑作

「薔薇物語〜男ふたりの愛と悲しみのものがたり〜」

ってわけ。


後世には、どうやら小説好きな名もなき女が、暇な暮らしの中で夫の周りの人間関係からヒントを得て執筆されたとか言われているらしいです。ほぼその通りですね。本人自らネタを探し回ったってこと以外はね。


まぁそんな名作を著しちゃった私なんですけれど、後世では「小説の主人公のモデルは夫なのか、もうひとりは男性化させた自分(つまり私)なのではないか」などと喧々囂々議論されているらしくて、あの世で爆笑しています。


違う違う!

作者はどのキャラのモデルでもありませんよ?


だって私、薔薇に挟まる趣味はありませんので。





連載版にお付き合い頂きありがとうございました!

主人公は後世の人間が「作者の男女不平等への不満や、男性のように社会進出し栄華を極めたいという願いが込められているのではないか」みたいな解釈を見かけては、あの世で腹を抱えて笑ってるタイプです。なんにも考えてません。


新キャラの牡丹姫がお気に入りなので、牡丹姫絡みで陰謀術数が巡らされたり、秋霧院とゴタゴタしてもらったり、オタ友になった牡丹姫と薔薇式部にBL談義(全年齢)してもらったり、なんなら陰陽師クンが上司に迫られるBLシーンを二人で目撃したり(際どいシーンになると薔薇が慌てて目を塞ぐ)させたかったのですが……あとは雪也とのドタバタ夫婦生活や雪也が妖怪に性的に襲われる話も書きたかったのですが……

あまり欲張ると筆が止まるので、とりあえず書き切りました。

また思いつき次第、のんびり番外編で続けようと思いますが、ひとまず完結です。

ありがとうございました〜!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ