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条件付き契約結婚、受け入れましょう!

よほど切羽詰まっているのか、素晴らしく酷い言い草である。さすがに突っ込んでしまった。

だが雪也はまったく気にせず、謎の理論で私を口説き続けた。


「男はもちろん、女も信じられない!女にも何度も騙されて押し倒されかけたからな!」

「そうなの!?」


話によると、嘘をついて誘き出されて既成事実をつくられそうになったり、謎の変な匂いのお香、おそらくは媚薬的目的に使われるナニカを使われて気分が悪くなったりしたらしい。子供時代には、押し倒されて実力行使に出られたこともあったとか。


「俺には信頼できる人間が君しかいないんだ!」

「あんた、可哀想ね……」


切々と言い募る雪也に、わりと心から同情した。顔が良すぎるとこんなことになるのね……。


「住まいも用意する、上質紙も好きなだけ使っていいし、出仕したければ止めない!我が家の所蔵する唐の国の書籍も、古今東西の様々な書物も、好きに読んで良い!」

「ほぉ?」


さすが私のツボを分かっている雪也である。魅力的な条件を提示してきた。


「とりあえず俺の妻として振る舞って、俺の噂を払拭してくれれば良い!君、そういうの得意だろ!?」

「んん〜、まぁねぇ」


現在、中宮様の物語屋さんとして、流行の作り手となっている私である。

私と雪也のラブロマンスを、物語の衣を纏わせて語れば、すぐに広まるでしょうね。

身分差の純愛、とうとう成就!みたいな感じで。出会い・愛の告白・新婚生活の三話完結くらいでいけそう。女子たちが好きな感じでね。


「うーん、まぁ、引き受けてあげないでもない、けどぉ……あなたの家に住むの、なかなかハードル高いわね」


雪也からしたら荒屋と言っても差し支えない屋敷で生まれ育った私である。左大臣様のご子息とは住む世界が違いすぎる。しかも雪也に昔から仕えてくれている人たちがいるお屋敷に住むとか、怖すぎる。身の程を弁えろとか言って、いびられそう。

そう心配したのだが、雪也は自信満々で首を振った。


「大丈夫だ!気にしなくてよい!俺は三男で、父からもそんなに目をかけられていないし、俺自身に出世欲もあまりないし!俺に付き従ってくれている面々は俺が人間不信気味なことも分かっているから、女と結婚するだけで滂沱の涙を流して大喜びだと思うし!」

「そ、そう」


雪也って人間不信だったのか。

あまりにも悲しい説得力に、私は頷くしかなかった。


「あ、ただ……実はうちには一人、腹違いの兄が住んでいて」

「へ?あなたの家に?」


どうしようかなぁと思い悩んでいたら、思いがけない新情報が飛び出してきて、私はパチクリと瞬いた。

驚かせた自覚のある雪也は、多少気まずそうながらも説明を続ける。


「あぁ、俺とは幼い頃から仲が良いんだが、母君は身分が低い上に幼い頃にお亡くなりで、父との折り合いも悪いのでね。病弱な方で外で働くのも難しいから、俺が屋敷に引き取ったんだ」


なにその美味しい設定。


「え、そのオニイサマと、あなたの関係は?」

「え?だから異母兄弟だが?」

「……なるほど、変なこと聞いてごめんなさい」


ワクワクしながら尋ねたが、雪也はその異母兄に何一つ含むところはないようで、透き通った瞳で答えてきた。穢れた己を突きつけられた気がする。ちょっと反省した。しかし。


「で、でも彼は、本当に女に興味がないから、同居しても安全だから!」

「は?」


続いた言葉に思わず真顔で雪也の肩を掴んだ。


「なにそれ詳しく」

「え?そこに食いつくのか?」


困惑顔の雪也が、私の勢いに少し身を引きながら家族の事情を説明する。


「いや、兄は生まれつき恋愛対象が男らしくって。でも本人は別に女性になりたいわけではないんだけどね、純粋に男を恋愛対象にしているだけで。でもまぁ、そんな訳で君と同居しても安全だから、安心して欲しい」


真摯に私の身の安全を語ってくれた雪也には悪いが、私は全然違う方向に感動して幸運を噛み締めていた。


「ぜんっぜん知らなかったわ!」

「あまり人聞きが良いことではないものでな……病弱ということもあり、あまり外にはお出にならないのだ」


今の時代、同性愛はそこまで市民権を得ていない。左大臣家ともなれば、よけいに醜聞を気にして隠していてもおかしくはない。


「芸術好みの方で、君とは話も合うと思うよ。普段はずっと乳兄弟の夜光が付き従っているが、君もたまにお喋りしてやってくれたら嬉しい」


しみじみと言う雪也の横で、私はごくりと唾を飲んだ。なにそのピュアBLの気配。ブロマンス?私がうまく立ち回れば、嫉妬からの激しい一夜へと結びついたりもする?


「その話、乗った!」

「え?本当か!?」


今私は、目を爛々と輝かせている自覚がある。何せ私は、BLめづる姫君なのだ。


「あなたとそのお兄様たちとの同居を条件として、あなたと結婚してあげる!あ、でも出仕も続けるけど!」

「お、おお?や、まぁいいや、ありがとう!」


私が出した条件にハテナを浮かべつつも、雪也が嬉しそうに華やいだ声をあげる。本当に可愛い顔をしているな、この男。私と結婚したとしても、絶対私より男に人気だと思う。


「いや、構わない!全然問題ない!むしろ宮中で俺と君が仲良く夫婦してる感じの噂を流してくれたら一石二鳥だから」

「おっけー!」


嬉々として赤べこのごとく頷く雪也に輝く笑顔を向け、私はパチリとウインクをした。


「あなたのラブコメも親友として観察したいしね!ぜひ近くで見させてもらおう!」

「いやちょっと待って!?」


私の発言に、一気に顔を青くした雪也が私に縋りついた。


「違うからな!?ちゃんと妻として振る舞ってよ!?俺はあの二人を追い払って欲しいんだからな!?」

「追い払う?無理無理」


そんな無茶振りされても困る。私、荒屋出身のただの一介の女房だからね?そのお二人、口を聞くのも畏れ多いお方たちですよ。


「それは自分で頑張って?先帝と東宮相手じゃ、私には荷が重いわ。私とあなたの身分差恋物語を流行らせるくらいはしておくから」

「ええぇえ!?」


真っ青になってムンクの叫びのポーズをしている雪也は、一体私に何を期待していたんだ。いくら常識知らずの変人と名高い私と言えども、さすがに前の帝と次の帝に無礼は働けませんよ。


「ま、私の名前は好きに使っていいよ!適当に話は合わせるから」


私はにっこり笑って、床に両手をついている雪也の肩を叩く。


「でもどっちかに呼び出された時は教えてね?押し倒されてくれることを祈って、茂みの影から覗いてるから」

「非協力的すぎる!このひとでなしめ!」


涙混じりの詰り声がやけに扇情的で、本当にこの男はオトコゴコロをそそるなぁと感心した。


「あはは、冗談よ」


笑って誤魔化しながら、私は内心願った。

はやく誰か、雪也を押し倒してくれないかしら、と。


……まぁ結局、雪也は何度も危うい目には遭ったものの、()()の純潔は失わなかったんだけれどね。


チェッ。



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