98話 正しい道は
いつも通りに過ごしていると、集会のようなことで、広場に呼び出された。クラスだけではなく、多くの人間が集められている。ということは、何かあるな。
原作では、モンスターの討伐や素材の採集など、ファンタジーっぽいクエストが多かった。大きな事件以外にも、敵との戦いの機会はあった。まあ、ゲームなんだから当たり前だが。
レベル上げのために色々と依頼を受けたり、絆を深めるために活動したり、とにかく色々なことができたんだよな。
そんな事を考えていると、フィリスが前に立つ。やはり、こういう場では彼女が表に立つんだな。
「……課題。あなた達には、盗賊団を討伐してもらう。メンバーはこちらで決めたから、それぞれ動いて」
ということで、メンバーが張り出された紙の前に集まっていく。掲示板のようなものがあり、そこに貼られている。クラス別に見に行って、それから分かれる感じだな。
「レックス君と私達は、一緒じゃないのね。リーナちゃんとは一緒だけれど。頑張ってね、レックス君」
「面倒ですね。どうせ私達の敵じゃないんですから、勝手に死んでほしいくらいです」
「まあ、勝てるだろうからな。とはいえ、気を抜いて無様をさらすなよ」
王女姉妹だけではなく、もし怪我でもされたら、大変なことだからな。油断されない方が良い。というか、俺も気をつけないとな。知り合いは同じ組にはならなかったとはいえ、安全は大事だ。
ちゃんと、全力を出さないとな。さっさと盗賊たちを倒して、みんなとまた会うために。
「僕達もレックス様と離れ離れだね。でも、ちゃんと活躍するからね!」
「ジュリアやサラ、ラナ様とは一緒ですから、安心してくださいね」
「良い結果を出して、レックス様に褒めてもらう」
「この学園に送り出してよかったと思ってもらえるように、頑張りますね」
「あたし達なら、しっかり協力できますよ」
「ああ。俺のかけた手間の分くらいは、今後も活動してもらわないとな」
今後もということは、今回は生き延びてもらうべきだ。そういう意図があることくらい、分かるはずだよな。学校もどきでの時間で、お互いの理解は深まっているはずなのだから。
どうしても勝てそうにないなら、逃げてほしいものだ。それで恥ずかしいだなんて、思うことはない。
「同じチームじゃないのは、残念かな。同じ闇魔法使いどうし、相性が良いはずなのにね」
「俺が居るのなら、盗賊なんて敵ではないだろうな。どうとでもできるだろうさ」
ミュスカが本性を表すことは、きっとない。というか、状況的に何の意味もない。だから、今回は素直に信じて良い。というか、無事で居てほしい気持ちは、普通にある。心から信じきれていないとはいえ、友達くらいには思っているんだ。
本当に、敵になってほしくないものだ。お互いに楽しく過ごせたのなら、それが最高のはずなのだから。
「あたくしの成果、見ていることね。絶対、あなたに勝ってみせてよ」
「わたくしめとしても、王女様方に誇れる戦果を出したいものですね」
「レックスさん、盗賊を口説いてはいけませんわよ?」
「うるさいやつらだ。さっさと行くぞ」
俺をライバル視してくる2人はともかく、フェリシアは本当に。いや、冗談だと分かっているのだが。幼馴染として、俺で遊んでいるのだろう。まあ、悪い気分ではないのだが。本気で悪意を持たれるなんて、想像できないからな。
ということで、分けられたチームで移動していく。教師の引率のもと、ある程度自由に動ける。ただ、死ぬような事態でもない限り、フォローは入らないようだ。原作と似たような感じだが、恐ろしい話だ。
「レックス君、君はどうするのかね? 盗賊団は、目の前であるぞ?」
アイクは、教師としてしっかりと仕事をしている。なら、俺のやるべきことも簡単だ。軽く盗賊達を片付けて、落ち着いて帰ろう。
「簡単なことだ。闇の刃!」
ということで、盗賊達の中心で爆発が起こり、巻き込まれた彼らはバラバラになっていく。楽な話だったな。
「ふむ。あっけないものだね。流石だよ。私が見てきた生徒の中でも、飛び抜けているな」
ということで、後は帰るだけだ。そう考えて振り向くと、数人の生徒が、一歩下がった気がした。どんな意味なのか分からないでいたが、すぐに理解することになる。
「おい、あんなにあっけなく皆殺しに……」
「やっぱり、ブラック家の人間なんだ!」
そう言われて、ハッとした。俺は当たり前みたいに盗賊を殺していた。ただの作業みたいに。アリを潰すくらいの感覚で。いつからだ? いつから、俺は人の命を軽く扱うことになった?
ただ、今の感情を表に出すことはできない。いつも通りの仮面を被り続けるしかないんだ。
「チッ、わずらわしいな。さっさと帰るぞ」
「同感だよ、レックス君。盗賊ごときに手間取るべきではないからな」
ということで、学園へと帰って成果を確認していく。俺達のクラスの教室に集まって、フィリスの話を聞いていく。
「……戦果。やはり、私のクラスの生徒が活躍している。あなた達の、努力の証」
まあ、当然だよな。俺達のクラスは、実力で一番だと見込まれているんだ。それが、さらにフィリスに鍛えられていたのだから。ただの盗賊だと、相手にならないのは当然だよな。だから、簡単に殺せてしまった。
「これなら、そのうちレックス様のお役に立てるよね!」
「ちゃんと、全員倒せましたからね」
「レックス様、褒めて」
「あたしも頑張って、安全を確保したんですよ」
「よくやった。お前達を拾った価値があるな」
ちゃんと、褒められているだろうか。どうしてジュリア達は恐れられなかったのかと、気になってしまう。やはり、俺1人で全てを倒したからだろうか。あるいは、俺がブラック家だからか。考えたくないが、俺は楽しそうにしていたのか?
試験の時は、恐れられても、どうでもいいと考えていたはずなのにな。理由が違うだけで、ここまで変わるのか。
「私達も、しっかり倒せたものね、リーナちゃん!」
「全く。王族にさせることじゃないでしょうに。兵士の仕事なんですよね」
「貴族の方が強いからな。ある程度は仕方ないだろうさ」
人を殺して、こうも明るくいられる。どうしてなのだろう。俺と王女姉妹と、何が違うのだろう。同じように、平和を祈っているはずなのに。
「レックス君は、大丈夫だった? 私は、問題なかったかな」
「ミュスカさんと近いですわね、レックスさん?」
「フェリシアは、細かいことを気にしすぎなんだよ」
ミュスカを悪役かもしれないと警戒していた俺も、結局は同じところに堕ちていたのかもしれない。あるいは、俺の方がひどいのかもな。大切な人を守るために殺していたのが、ただ殺せるから殺すに変わったのだから。
「あたくしは、たやすく討伐できてよ」
「わたくしめも、楽に終えられましたね、最初の課題だけのことはあります」
羨ましいことだ。今の状況を楽しめているなど。いや、違うな。落ち着いているだけだ。楽しんでいる訳じゃない。つまらない邪推をするな。
結局、それからの1日は、同じ考えが頭の中をグルグルと回っていた。部屋に帰った頃には、どこか胃が重くなったような気がしていた。
「ご主人さま、何かありましたかっ? ちょっと、悲しそうです」
「気にしなくて良い。俺には、何も問題はないんだからな」
「私達は、何があっても他の方には言いません。ですから、言いたくなったら言ってくださいね」
「同感でございます。レックス様が望む未来を、必ずや実現させていただきますゆえ」
みんなを守るためにも、沈んでなんかいられない。分かっているはずなのに、心はついてこなかった。




