84話 自分にできることは
ミルラに任せた調査は、どの程度進んだのだろうか。一応、毎日帰ってきているから、無事なのは知っているが。自室でそんな事を考えていると、ミルラの方から話しかけられる。
「レックス様、現在の状況を報告いたします」
「わたしとアリアさんは、どこかに行った方が良いですか?」
自室で報告を受けるとなると、メイド達は一緒になるよな。はずせと命令してもいいが、あまり意味はないだろう。
「好きにしろ。聞かなかったところで、巻き込まれたも同然だろうからな。俺の従者である以上は」
「同感でございます。私が相手の立場ならば、レックス様の知り合いは、私の持っている情報を知っていると考えるでしょう」
ミルラの考えは、俺の考えと一致している。そうなるよな。誰にも報告せず、ひとりで捜査しているとは考えまい。そして、ミルラが俺の従者であることは知られている。そうなれば、ウェスとアリアが疑わしくなるのは当たり前だ。
ただ、それで人質か何かにされるとは考えにくい。アイクの目的は、学園地下に封印されている魔物を開放すること。そうすることで、魔物の実態を調査して、更に真理に近づくことだ。それが最優先だから、とりあえずは魔物に近づくことを優先するはず。
まあ、保険もあるからな。ミルラ達には、俺の魔法を込めたアクセサリーを贈っている。それの防御を抜いて、俺が彼女達のもとにたどり着く前に死なせることは、相当難しいはずだ。
総合的には、メイド達に何も知らないままで居させるより、どんな状況かを伝えた方が得だろうな。一応、アイクが俺に対して攻撃する可能性も、否定できないのだから。
「なら、聞かせてもらった方が良いかもしれませんね。誰に警戒すれば良いのか、ハッキリしますから」
「わたしは、ご主人さまに黙っていろと言われたら、何も言いませんよっ」
やはり、メイド達は俺のことを尊重してくれている。ありがたい話だ。こうして仲良くできる相手がいるのは、俺にとって大きな救いだからな。転生した時は、味方を作れないまま死ぬ可能性だって考えていたんだから。
さて、原作で起きた事件は、今でも起きるのだろうか。バタフライ効果的な何かで、実は善人になってくれていたりしないだろうか。
本音のところでは、人を疑うのも、敵対するのも、つらいんだよな。周囲を守るという目標があるから我慢しているだけで。みんなとただ平和に過ごせたのなら、どれほど幸せだろうか。そんな未来のために、頑張るしかないんだ。
「では、説明させていただきますね。まずは、アイク教授の動きですが、かなり怪しいかと」
「そうだろうな。何か出ると考えていたから、お前に調査を命じたんだ」
「まずは、図書室の本棚の裏側に、隠し通路が存在するようです。内側には入れていませんが、地下に繋がっていることは分かりました」
「ああ、それは知っている。だが、よくやった」
ミュスカも知っていたし、ある程度は知られていると考えて良い。とはいえ、俺の原作知識と、この世界での状況が同じだと知れるだけでも大きい。原作知識も役に立つ部分がある。そう確認できるからな。
原作知識という、俺の持っているアドバンテージをどこまで活かせるか。そこが大きく変わってくる。大事な事実が確認できただけで、ありがたいことだ。
「流石でございます、レックス様。続きますが、いくつかの魔導具を持ち込んでいるようですね」
「その中に、魔力を吸収できるものはあったか?」
「はい。レックス様の知恵には、感服するばかりですね」
つまり、地下に眠る魔物、灰の狼を目覚めさせようとしている可能性は、とても高いと考えて良い。というか、かなり最後の段階に近づいているな。やはり、アイクは敵になる運命なのだろうか。今から説得するのは、流石に難しいよな。
というか、相手のたくらみを知っていると伝えた時点で、敵対されるのが普通だろう。だから、俺には良い手段が思いつかない。諦めるしかないのだろうか。
「そうか。それが分かったのなら、最低限のラインは超えたと言っていいな」
「かしこまりました。では、更に調査を続けるべきでしょうか」
「深入りはするなよ。ここから先に得られるものが、手間に見合うとは限らないのだから」
というか、ミルラが犠牲になってしまえば、俺の目的は達成できない。傷ついたりしたら、大きな問題だ。だからこそ、無理をされたら困ってしまう。俺は、親しい人が幸せなら、それで十分なんだ。だから、アイクの事件にも対策したいのだし。
「もちろんでございます。レックス様のお優しさは、無駄にはいたしません」
「ご主人さま、やっぱり優しいですよねっ」
優しいと言われるのは嬉しいが、結果を出さないことにはな。みんなを幸せにするために、努力を重ねないと。俺が一番強いんだから、俺が一番頑張るべきなんだよな。
「ウェス、分からない話に深入りすべきではありませんよ」
「いえ、お気になさらず、ウェス様。これ以上に報告できる内容は、ほぼありませんので」
「わたしも、お手伝いした方が良いですかっ?」
「いえ、レックス様のお世話を放棄してまで、手を必要とはしておりません」
「それに、素人が手出しするべきではないですね。邪魔になってしまえば、2人とも危険になってしまいますから」
俺の言いたいことは、大体ミルラとアリアが言ってくれた。やはり、2人とも優秀で頼りになるよな。とはいえ、俺からも言葉を重ねておく必要はあるだろう。俺の意志をはっきりさせておくのは、大切なことのはずだ。
「ウェス、お前の役割は、俺に快適な衣食住を提供することだ。それさえ守っていれば、職責を果たしていると言える」
「そして、私の役割は、レックス様の定めた方針を現実にすることでございます。それぞれが、それぞれの仕事を達成する。それが、レックス様のお役に立つということでございます」
「同感ですね。レックス様は、よく分かっています」
「俺だからな。当たり前だろう」
「じゃあ、ご主人さまが気持ちよく過ごせるように、もっと頑張りますねっ」
「私も、レックス様のお役に立てるよう、もっと精進いたします」
これからも、みんなと仲良く過ごしたい。そのためにも、アイクの行動には注意しておかないとな。ミュスカにも。
これから先に生き残るために、みんなが無事で居られるために。俺のできることは、全てやるつもりで。
ただ、俺1人でできることは少ない。ミルラにも協力してもらっているが、もっと仲間を増やせないだろうか。そんな考えが浮かんだ。




