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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
3章 アストラ学園にて

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83話 迷いを抱えて

 今のところは、学園内で警戒すべき相手は2人。ミュスカと、後は教師のアイク。片方を注視すれば、もう片方への注意が甘くなる。『デスティニーブラッド』の流れならば、先の行動を起こすのはアイクではあるのだが。


 とはいえ、原作知識に頼り切りだと、予想外の行動を取られた時に対応できない。だからこそ、ミュスカを軽視するのは論外なんだよな。できれば、信じたいものではあるが。


 アイクにしろ、優秀な教師だと評価されていたからな。何も悪事を起こさないのなら、それが一番ではある。次が、事件を未然に止められること。とはいえ、どちらも実現は難しい気はする。だからといって、何もせず待っているなど、あり得ないが。


 ということで、手を打つことにする。まあ、人任せなんだがな。自室にいる間に、指示を出すことにする。


「ミルラ、アイクという教師について、調査することはできるか?」

「もちろんでございます。レックス様が望むのならば、いかようにも」

「なら、調査しろ。ただ、気づかれないようにな。最悪の場合でも、俺ならどうとでもできるからな」

「かしこまりました。貴方様を支える役目がある以上、命を粗末にはいたしません」


 実際、ミルラが死んでしまえば、何の意味もないからな。俺の目的は、事件が発生しても犠牲が少なくなること。だから、無理をされないのが一番だ。


 そもそも、力技でアイクを殺そうと思えば、いつでもできる。俺の倫理観と、俺自身の立場と、様々な問題を無視すればの話ではあるが。


 とはいえ、他の解決策もあるのだから、ミルラに命をかけてほしいとは思わない。そこまでする意味はない。原作の知識の限りでは、死人は出ても数人だろうからな。出ない確率の方が高いくらいだ。


 正直に言ってしまえば、顔も合わせたことのない他人が死ぬくらいなら、悲しくはあるが、割り切れると思う。だから、ミルラが死ぬのが最悪のシナリオだと言って良いんだ。


「それでいい。お前が失敗しようとも、俺なら挽回できる。それを忘れるなよ」

「もちろんでございます。偉大なるレックス様を、疑うことはいたしません」


 さて、どうなるだろうな。ミルラの身に危険が迫るとすれば、事件の直前だろうが。アイクは教師の立場だから、俺がミルラを連れてきたと知っている。だからこそ、安易にミルラを殺しはしない。


 それが理解できているから、調査を頼むことができたんだ。言ってしまえば、事件が起こりそうなタイミングを割り出せれば、それで良い。ミルラに解決してほしいとは思わない。


 原作の知識がある以上、アイクの目的も、その被害の規模も分かり切っているんだからな。全く別の目的を持つのは、考えにくい。


 ということで、ミルラに動いてもらった。残りの問題は、ミュスカの方だ。とはいえ、できることは少ないんだが。


「さて、ミュスカは俺が確認して、アイクはミルラが調査する。それで、学園の脅威は減るだろうな」


 減るだけで、無くなりはしないだろうが。学園内部の敵が2人だったというだけで、外部からも問題が持ち込まれるからな。それにも、注意は必要ではある。ただ、学園の内側からできることは、実質的には存在しない。事件が起こった段階で、それに合わせた動きをする以外の道はないだろうな。


 考えるべきことが多くて、休み時間には、いつも今後の対策ばかり考えてしまう。できることならば、学生生活を楽しむ余裕も持ちたいものだが。


「レックス君、何か悩み事? 私になら、何でも相談してくれていいよ」

「ミュスカか。仮に俺が悩んでいたところで、他人の協力なんて必要ない。俺は天才なんだからな」


 本音のところでは、警戒しているから言えないというのが正しいのだが。というか、ミュスカはよく俺の悩みに気がついたな。流石は、周囲を騙し切る女というだけのことはある。


「そんなことないよ。言葉にするだけでも、楽になるからね。それに、私だってレックス君の力になりたいんだから」

「なら、もっと強くなることだな。少なくとも、今のお前は頼りにならない」


 こうして突き放していても、ミュスカは笑顔を続けている。俺が同じ立場なら、顔を歪めてもおかしくないのだが。こういう一面は、悪く思えないんだよな。ミュスカの演技は、とてつもない努力に支えられている。それが理解できるから。


 というか、後で裏切るという流れさえなければ、普通に良い子だと言えると思う。内心に何かを隠していても、誰かを気づかった動きをできるのだから。ミュスカが最後まで演技を続けるのなら、それは聖人のレベルなんだよな。


「レックス君の強さなら、そうかもね。でも、人の価値は、強さだけじゃないんだよ。例えば、私は仲が良い相手が多いから、情報を集めたりもできるんだ」

「物好きも多いものだな。それで? どんな相手なら、秘密を暴けるというんだ?」

「例えば、アイク先生とかね。どうしても知りたいなら、ジュリアちゃんとかシュテルちゃんの秘密だって、聞いてきてもいいよ」


 俺が分かりやすいのか、ミュスカの人間観察が優れているのか。どちらにせよ、内心が理解されているのはまずい。俺はブラック家やその周囲を敵に回すことはできない。だから演技を続けているんだ。それが崩壊してしまえば、俺の命が危うい。


 とはいえ、その感情を表に出すことはできない。いつも通りに、傲慢なレックスを演じ続けるだけだ。


「なら、何があるんだ? 聞くだけ聞いてやろう」

「アイク先生ってね、悪い噂がいっぱいあるんだよ。人体実験をしているとか、邪教の人とよく会っているとか」


 多くある悪い噂のうち、いくつかは事実で、いくつかはデマ。とはいえ、本気で引き返せないラインの行動は、原作での事件まで無かった。だから、うまく動けば、敵対せずに済む可能性もある。もちろん、原作通りに悪事を働くのが、一番高い可能性ではあるのだが。


「それで? 噂だけなのか? 何か、証拠でもつかめたのか?」

「ふふっ、実はね? アイク先生って、学校に隠し通路を用意しているんだよ。どこにあるのか、教えてあげようか?」

「知っている。地下に繋がる道だろう。確か、図書室の本棚の裏だったか?」


 この情報を知っていると伝えるのは、おそらくは軽率なのだろう。だが、ミュスカを疑っていると表に出せば、いずれ味方にできる可能性はゼロになる。それを捨てきれなかった。


「そう。正解だよ。ね? 私、ちゃんとした情報を持ってきたでしょ? あなたの役に立ちたいのは、私の本心なんだよ。心配なんだよ、レックス君は。ひとりで何でも抱え込んでしまいそうで」

「好きにしろ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」

「私も、やりたいようにレックス君を支えるよ。何でも言ってね。ちょっと後ろ暗いことでも、手伝ってあげるから」


 明るい笑顔と優しげな声と言葉の内容を考えれば、ミュスカは俺の味方になろうとしてくれている。だが、原作の知識から、どうしても信じることができない。どちらが正解なのだろうな。相手を信じることと、疑うことの。


「俺に後ろ暗いことなど無い。期待しているのなら、諦めることだな」

「それならそれで良いんだよ。私も、できればやりたくないし」


 優しくて気づかい上手なミュスカの顔が、本物になってくれれば。その幻想を、捨てきることができない。甘いのだろうな、俺は。


 とはいえ、まだ敵になった訳じゃない。排除しようと行動するのは、仮に彼女の本心がどうであれ、悪手だ。少なくとも今は、みんなから信頼されているのだから。


 結局、俺は中途半端なままだな。解決しないと、いつか間違いを起こすだろう。そんな気がした。

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