70話 優先すべきこと
状況を確認するために、学校もどきへと向かう。いい加減、事態を解決したいからな。そのためには、色々と確かめていかないと。
ということで、ミルラやラナと相談するつもりだった。俺1人で進めては、問題になる気もしたから。いくら犯人が分かっても、勝手な動きだと思われたら、まずいからな。いや、俺が雇い主だから、良いのか? そんなことはないか。相手だって、感情を持つ生き物だ。
俺が勝手に全てを判断するのなら、他の人と協力する意味がない。方針を決めることや、指示することとは別の問題だ。2人にだって、自分なりの考えがあるはずなのだから。
それと同時に、学校もどきの様子も見ないとな。立て続けに事件が起こっているから、あまり良い感情は持てないだろう。そこを、どうにかしないと。なんとか、落ち着かせられると良いのだが。
「あ、レックス様! 今日も来てくれたの?」
「また様子を見に来てくださったんですね。ありがとうございます」
「お前達が無様を見せないか、気になっていたからな」
いつも通りに、ジュリアとシュテルが出迎えてくれる。もう、今みたいな光景にも慣れたものだな。完全に、生活の一部になっているのが、よく分かる。今となっては、欠かせない日常だ。
だからこそ、今回の事件は必ず解決しなくてはならない。2人にもしものことがあったなら、苦しいでは済まないのだから。
まさか、主人公とレックスが、今みたいな関係になるなんてな。生まれ変わった頃には、想像もしていなかった。だが、心地いいものだ。
「あたし達は、問題ないですよ。今のところは、うまく進んでいます」
「事件の調査も、進めさせていただいております。今のところは、順調でございますね」
とりあえず、最悪の事態にはならないだろう。誰が犯人か分からないまま逃げられることには。2人が順調と言うのだから。ただ、油断はできない。次の事件が起こる可能性は、十分にある。追い詰められた犯人が変なことをするのは、おかしな流れじゃない。
「お前が、俺達に毒を飲ませたんだろ!? 俺達が邪魔だから!」
「……クロノ。あたし達の恩人に言うことですか? その態度を続けるのなら、考えがありますよ」
「レックス様、こんなやつの言う事、気にしないでね。僕達みんな、レックス様には感謝しているから」
「そうですね。私達は、レックス様に救われたのよ。そのご恩を、返すべきなんだから」
クロノが疑う気持ちは、分からない訳では無い。ブラック家の人間は、あまり良い目で見られていないからな。ただ、みんなが俺を信頼してくれているのは嬉しいな。今の疑いが、どうでもよくなってしまいそうなくらいには。
結構、クロノは本気で疑っているように見える。なんというか、声を荒らげている感じとか、にらみつけている感じとか。とはいえ、冤罪であるからな。思うところはある。今の状況では、無言でいる方が効果的かもしれないが。
うまくやれば、吊るし上げるところまで持っていけると思う。ただ、そこまでしてクロノを排除したくはない。嫌われていたとしても、あまり悪意は持てないからな。一応、それなりに会話してきた相手なのだし。
「ラナ様、なんで……」
「ブラック家が疑われやすい立場であることくらい、理解している。大した事じゃない」
「バカにするなよ! 俺の機嫌を取ろうとしても、無駄なんだよ!」
クロノは足音を立てながら去っていく。まあ、疑っている相手にかばわれたら、おかしな反応ではない。どうも、俺は嫌われているみたいだからな。それもあるのだろう。ただ、どうしたものか。
「あー、行っちゃったね。でも、ちょうど良いかな。正直、邪魔だったし」
「そうね。レックス様に良いところを見せる機会を奪われたんじゃ、たまったものじゃないわ」
「あたしも、いい加減に見過ごせないですね……。どうも、あたしを尊敬しているみたいですけど。迷惑なんですよ」
ああ、尊敬しているラナが、俺に売られたみたいな噂を気にしているのか? なら、嫌われる理由としては分かる。それなら、俺にかばわれるのが嫌な理由にも通じるな。あるいは、ラナが好きだったりするのだろうか。いずれにせよ、結ばれる目はないだろうが。どう見ても脈なしだ。
「レックス様ほどの方は、存在しておりません。私の環境を考えれば、よく分かることでございます」
「まあ、有象無象の言う事など、気にしていないが」
「いい加減、ここから追い出しても良いんじゃないですか? あたしは、必要だと思います。このままだと、不和を招きかねませんから」
そこまで言うのか。クロノは、完全に嫌われているのだろうか。あるいは、効率の面で見て、邪魔だと判断されているのだろうか。どちらにせよ、哀れなことだ。クロノの思いは、何も通じていないのだからな。
「レックス様のお優しさを軽んじていますからね……。そこまでだと、レックス様は慈悲深すぎますよ」
「まあまあ。クロノだって毒で苦しんでいたんだから。八つ当たりしたい時もあるでしょ」
「だからといって、相手を選ばないようでは、示しが付きません。少なくとも、レックス様を悪く言う人は、貴族としては邪魔じゃないでしょうか?」
「ここから出ていけば、レックス様がいかに慈悲深いお方であるか、思い知ることになるでしょう」
とはいえ、どうしたものか。今の状況で、誰かを追い出して良いものか。色々なことがあって不安な生徒も多いだろうに、ここから追い出される可能性も想像させるんだよな。ジュリアやシュテルの状況を考えるに、恵まれていない人が多そうだが。
自分で生活する当てが無いような人が、ここに集まっている。そうなると、追い出したら追い出したで困りそうだが。放り出したら、そこらでのたれ死にそうな気もするし。流石に、死なれたら寝覚めが悪いんだよな。
「考えておく。アストラ学園に生徒を送り込む邪魔をされたら、困るからな」
「レックス様は、本当に甘いんですから。あたしは、嫌いじゃないですけど」
「助けられた身で、あれこれ注文はできませんからね」
「あなた様が命ずるのであれば、いかようにもいたします。それは、間違いのないことでございます」
「レックス様と一緒なら、なんでも良いけどね」
まあ、方向性のひとつとしては、考えておくか。あまり俺に対する疑いをまき散らされると、面倒なのは確かだ。俺としては、子供が反発するくらい、大目に見ても良いとは思っているが。
何にせよ、最も大切なのは、大事な人達が無事に過ごすことだ。そのためになら、切り捨てることも必要なのかもしれない。今後のために、何が一番なのか。よく考えるべきだろう。




