66話 一時の憩い
アリアとウェスにもアクセサリーを渡したいが、良い口実が浮かばなくて困っていた。いや、隠れて渡せば良いのかもしれないが。ただ、隠れる場所も問題になる。急に呼び出して2人にアクセサリーが増えていたら、露骨すぎるからな。
それに、学校もどきを襲った黒幕の存在もある。考えることが多くて、大変だ。だが、その大変さに負ける訳にはいかない。俺は周囲を守るために、手を尽くすべきなんだ。そうじゃなきゃ、納得できない。
ただ、答えに近づいている感覚がなくて、苦しくもある。袋小路に迷い込んだような、あるいは暗闇の中にいるような。そんな風に思えた。
それでも、立ち止まるなんて論外だ。俺の周囲の中で、俺が一番強い。その事実があるから、誰が活躍すべきなのかなんて、言うまでもない。
とはいえ、名案は思いつかない。同じところをグルグル回っている感覚があって、とても悩ましい。
そんな時だった。アリアとウェスが俺のところを訪ねてきた。
「レックス様、お食事を用意いたしましたので、休憩にしませんか?」
「ご主人さま、最近疲れてるみたいですからっ。少し、休みましょう?」
「俺に問題は無いんだが。まあいい。食事だな。案内しろ」
ということで、食事が用意された部屋に連れて行ってもらう。アリアやウェスも席について、同じものを食べていた。他の人間がいない状況は、心地良いし、ちょうど良い。今なら、アクセサリーを渡せるかもしれない。
俺の魔力を込めたものは、いつでも転移で呼び出せる。その事実があると、とても楽だな。本当に、応用の幅が広い。何にでも使えるな。
「レックス様、お味はいかがですか?」
「悪くないんじゃないか? よくやった。褒めてやろう」
「ありがとうございます、ご主人さま」
ウェスは上目遣いでこちらを見ながら、軽く笑う。今回は、ウェスが作っていたのだろうか。味で誰が作ったか、理解してやりたい気もするが。今の俺には難しいな。まだ、そこまで舌が肥えていない。
「ウェスは、レックス様を心配していたんですよ? しっかり、褒めてあげてください」
そう取れるセリフを食事前に言っていたし、確かな事実なのだろう。胸が暖かくなるな。とはいえ、態度を崩すのもな。できれば、全力で褒めたい気持ちはある。だが、演技が壊れる可能性を考えると、親しい人だけの空間なら大丈夫とは言えないんだよな。
ただ、感謝を形にしたいのは本音だ。そうだ。ちょうど良い物があるじゃないか。
「まあ、いいだろう。褒美をくれてやる。ほら、2人とも。こっちに来い」
「分かりましたっ、ご主人さま」
「私にもいただけるのですか。感謝します」
ということで、2人にチョーカーを付けていく。ウェスはくすぐったそうに、アリアは満足げに、俺が付ける姿を眺めていた。
「ほら、俺が手ずから付けてやったぞ。どうだ?」
「ご主人さまからの贈り物、大切にしますねっ」
「そうですね。レックス様には、とても感謝しています」
大切にしてくれるなら、ありがたい限りだ。2人を守るための道具でもあるので、ずっと付けていてくれた方が良い。他にも、俺の贈ったものを大切にしてくれるのなら、笑顔になってしまいそうでもある。
やはり、メイド達は大事な存在だな。今後も良い関係で居られるように、努力を続けていかないと。俺は口が悪いキャラを演じているから、しっかりと行動で意思を伝える必要がある。
「当たり前だな。俺という最高の主人を手に入れたんだから」
「ご主人さま以外の人に、仕える気はありませんよっ」
「私は、あなたの子々孫々まで、見守っていきたいですね」
「お前達は俺の物なんだから、初めから自由なんてないのだがな」
なんて、本音とは程遠いのだが。一緒に居てほしいのは事実だが、相手を縛り付けたいとも思わない。幸せに過ごしてくれるのが、一番なんだ。
とはいえ、メイドに心を砕く姿は、父には見せられない。そう考えると、普段から演技を続けていくしかない。
「そう言って、守ってくださっているんですよね。ありがとうございます」
「ご主人さま、ずっと、わたしをあなたの物にしてくださいっ」
まあ、アリアの言うことも間違ってはいない。俺の物に勝手な扱いをしたら許さない。そんな建前を使うための言葉でもある。それを理解してくれるのは、とても嬉しい。同時に、ウェスが、俺のメイドであることを幸福だと感じてくれていることも。
流石に、本気で道具みたいな扱いをされたい訳ではないだろう。だからこそ、これからも、しっかりと大事にしていきたい。守っていきたい。俺の望みは、親しい人と楽しい時間を過ごすことだから。
「始めからそう言っているだろう。お前達は、あくまで俺の道具なんだから」
「はい。好きに使ってくださいっ。それが、道具の喜びなんですっ」
「だったら、これからも俺に尽くすことだな。そうすれば、道具としての喜びくらい、与えてやる」
「もちろんです、レックス様。あなたならば、きっと良き当主になるでしょう」
「ご主人さま、あなたのそばに居ることが、わたしの喜びなんですよっ」
2人は、俺に尽くしてくれている。その分を、必ず返していきたい。今回だって、悩んでいる俺に気を使ってくれたんだから。よく見てくれているし、大事にされているのも伝わる。だからこそ、俺も相手を大切にするんだ。
まあ、利益があるから2人が大事な訳では無いが。彼女達に限らず、親しい人は、ただ傍に居てくれるだけで幸福なんだ。その感情も、できれば伝えたいのだが。レックスのキャラからすると、おかしいよな。
「まったく、物好きなことだ。だが、それならば、好きに使わせてもらおう」
「はいっ! ご主人さまに貰った幸せは、絶対に大事にしますからっ」
「レックス様は、道具を大切にされる方ですから。あなたの道具も、悪くありません」
「そういえば、ウェス。これが新しい黒曜だ。ついでに、受け取れ」
「ありがとうございますっ! 新しい武器まで……。絶対、今度は奪われませんからっ!」
ウェスの目を見ていると、黒曜を大事にするあまり、無理をしないか心配になった。陶酔というか、熱情というか、そういう強い感情が見えたから。
当たり前だが、道具なんてウェスの命に代えられるものじゃない。それは、なんとしても理解してもらわないと。
「その程度のもの、またくれてやっても良い」
「あなたのために、絶対に死にませんっ。約束しますっ」
その言葉は、本気に見える。だから、大丈夫なはずだ。ウェスが無事であるのなら、他のことなんてどうでもいいのだから。黒曜が奪われようが、俺の手間が増えようが。
だからこそ、何が何でも生きていてほしい。もちろん、アリアにも、他の人達にも。それだけで、俺は幸せで居られるのだから。
「やはり、レックス様はお優しい方です。ずっと、そのままで居てください」
「俺は、俺の好きなようにするだけだ。これまでも、これからもな」
俺のやりたいように、みんなを守ってみせる。その上で、幸せな未来を過ごしてみせる。必ずだ。
これから先、どれほど俺の手が汚れようとも、絶対に達成すべき誓いなのだから。全身全霊をかけるなんて、当たり前だ。
原作での事件は、とても大変だろう。その前に、いま起こっている事件の黒幕も探るべきだ。前途多難だな。それでも、未来をつかみ取ってみせる。




