63話 力こそが証
カミラから魔力を受け取ったことで、メアリの属性を増やすための道筋ができた。メアリは、五属性になりたいと言っていた。その夢を叶える手伝いができるのなら、とても嬉しい。
ということで、メアリを探す。贈った杖があるので、簡単に居場所を知ることができる。闇魔法の力は、どこまでも悪用ができそうだな。今やっていることも、考え方によってはストーカーのそれだし。
ただ、この世界は物騒だからな。大切な誰かが安全かどうかを確認できるのは、かなり重要なことだ。何か事件が起こった時に、すぐに親しい相手の様子を探れる。それが、どれほど手段を広げてくれるか。
というか実際、相手の位置を探れなかったら、カミラは以前の事件で死んでいた。そう考えると、悪いと思っていても捨てられないんだよな。使い所は、間違えないようにしないと。プライベートを調べるためには使えないよな。
メアリはすぐに見つかったので、すぐに話を持ちかけていく。
「メアリ、ここに居たか。ちょっと、俺の魔力を受け入れてくれないか?」
「分かったの、お兄様。メアリに会いに来てくれたの?」
まあ、会いに来たのは確かだな。なんとなく、メアリは嬉しそうに見える。やっぱり、甘えん坊って感じだよな。これからも、こまめに会いに行きたい。
とはいえ、本題はそれじゃない。メアリの使える属性を増やすことだ。ということで、魔力を送り込んでいく。定着したのを確認して、異常がないか確かめて、処置は終わった。
「これで、どうだ? 雷の魔法は、使えるようになったか?」
「試してみるね。……うん、使えるようになったの。お兄様、なにかしてくれたの?」
「一応、そうだな。ついでに、メアリに贈り物があるんだ。受け取ってくれ」
「魔力だけじゃなくて、チョーカーまでくれるの? お兄様、ありがとう」
素直に喜んでくれる姿を見ると、俺まで嬉しくなる。この道具が、メアリの身を守ってくれることを祈るばかりだ。一番いいのは、何も起こらないことではあるが。
もう、敵対することなんて考えられないからな。大切な家族で、大事にしたい相手なんだから。メアリが悪の道に進まないように、配慮していかないとな。
俺の手で殺すことになったりしたら、悲しいなんて程度じゃ済まない。どれほど嘆いても足りないだろう。だからこそ、味方につけるための努力は欠かさない。
「メアリは可愛い妹だからな。当たり前のことだ」
「やっぱり、お兄様、大好き! ずっと一緒に居てね!」
「まあ、学園があるから、1年は離れてしまうんだが。それ以外は、ずっと一緒にいるよ。家族なんだからな」
「うん、分かってる。お兄様は、当主になるんだもんね。学園も、大事だよね」
当主になるのは、まだ先の話ではあるが。アストラ学園で優秀な成績を残せば、箔にはなるだろうな。魔法で多くが決まる国だからこそ、大事なことだ。
この国の価値観を変えるなんて大仕事は、俺には難しいだろう。だからこそ、手の届く範囲だけでも守りたい。ウェスやミルラのような人が、苦しまなくて良いように。
俺の望みは、親しい人と楽しい時間を過ごす。それだけだ。ただ、とても大変なのだろうな。原作からして、事件は多いから。
だからこそ、アストラ学園には必ず通う必要がある。原作の事件を乗り越えて、平和な日々をつかみ取るために。苦難は嫌だが、遠ざけたところで未来は決まっているからな。
「俺も、お前と離れ離れになるのは寂しいよ。でも、仕方のないことだ」
「ありがとう、お兄様。メアリを大切にしてくれて」
メアリは幸せそうに笑っている。そんな顔がこれから先も見られるように、努力を続けていかないとな。
ということで、次に向けて一旦メアリと別れる。
「とりあえず、後はフェリシアに依頼すれば、メアリは五属性になれるはずだ」
そうすれば、もっと喜んでくれるはずだ。その顔を見れたら、俺も嬉しいだろう。ということで、フェリシアの元へと向かう。
「フェリシア、また悪いが、俺に魔力を注ぎ込んでくれないか?」
「また、わたくしの前で他の女のために尽くせと言う。レックスさんは、罪な人ですわね」
フェリシアの言葉は、どこまで本気なのだろうな。嫉妬のような言葉だが、からかうためだろうか。あるいは、本音も混ざっているのだろうか。フェリシアが好意を向けてくれるのなら、それは嬉しいことではあるが。
とはいえ、俺もフェリシアも、自分の意志で結婚できるかどうかは怪しい。婚約者がどこかから連れてこられる未来が、一番可能性が高いように思える。
まあ、原作の主人公とミーアが結ばれるルートもあったから、希望を失ってはいけない。俺だって、好きな人と結ばれる可能性はあるんだ。
そもそも、俺が誰のことが好きなのかは、今は分からないが。大切に想う相手はいるが、恋愛感情とは思わない。前世がある身としては、周囲は幼すぎるんだよな。10代の前半なんだし。
「お前の頼みなら、よほどのことがなければ聞くが。それじゃあダメなのか?」
「その言葉が聞けただけで、良しとしておきますわ。さて、どんな頼みをしましょうか。楽しみですわね」
フェリシアは、とても楽しそうに笑う。どんな無茶な頼みをされるか、かなり不安だ。これまでの言動からして、本気で悪意は無いだろうが。だからこそ、無茶ぶりが怖い。
「死ねと言っても聞く気はないし、誰かを殺せと言われても聞かないからな」
「そんなつまらないことに、レックスさんを使いませんわよ。もっと、素敵なことですわ」
その素敵なことは、俺にとってというより、フェリシアにとってだろうからな。恐ろしい話だ。まあ、本気で嫌がることはされないとは思う。その程度には信じている。
ただ、俺の困る顔を見て楽しんでいるのは間違いないからな。つまり、頼み事も、俺を困らせるために使う可能性はある。その辺が、覚悟が必要なところだ。
メアリに送るための魔力を送り込まれて、後は頼みを聞くかどうかだ。先延ばしにするのは、ちょっと恐ろしくはあるが。ただ、今すぐは聞けないからな。少なくとも、メアリに魔力を送るまでは。
「じゃあ、考えておくと良い。俺は、メアリに会いに行く」
「ふふっ、聞かなかったことにしておきますわ。メアリさんの属性を増やすだなんて」
ヒントを与えすぎたか。気づかれてしまった。とはいえ、どこで知ったのだろう。属性を増やすなんて手段を。いや、シュテルが魔法を使えるようになった時期を考えれば、容易にたどりつける答えだ。
「まったく、フェリシアには敵わないな。だが、悪くないと思える俺も居る。難儀なことだ」
振り回されているし、見透かされている。それでも、関わっていて楽しいんだよな。親しい相手だということもあるが、それ以上に、彼女の配慮を感じるからだろうか。
まあ、今はメアリのことだ。ということで、彼女の元へと向かう。
「メアリ、またで悪いが、俺の魔力を受け取ってくれ」
「もちろんなの、お兄様」
「これで、炎属性も使えるようになるはずだ。試してくれ」
「うん、使えるの。これで、メアリは五属性なの! お兄様のおかげ!」
そんな事を言いながら抱きついてくる。頭を撫でると、とても心地よさそうにしていた。やはり、喜んでくれるのなら、多少の手間くらい、どうということはないな。
「メアリは五属性になりたいって言っていただろ? 良い手段が手に入ってな」
「ありがとう、お兄様。覚えていてくれて。お兄様の妹に生まれて、良かったの」
「メアリが良い子だからだ。ただの妹なら、ここまでしようとは思わなかった」
「そんなに良い子じゃないよ? でも、お兄様のためなら、良い子になれるかも」
まあ、原作では、お世辞にも良い子とは言えなかった。魔法を使えない人間を軽んじて、怒ったらすぐに人を攻撃していたから。
ただ、今のメアリなら、原作みたいにはならないと信じられる。だからこそ、全力の愛情を注ぐんだ。
「ありがとう、俺を大事にしてくれて。お前と出会えて、本当に良かった」
「お互い様だよ、お兄様。ずっと、離さないからね」
そう言われて、強く抱きしめられる。その力強さこそが、メアリの情の証に思えた。少しは痛かったが、それでも心地いいと思えるくらいに。
絶対に、メアリを悪の道に進ませはしない。傷つく未来も訪れさせない。改めて、そう誓った。




