561話 心配する相手
今回も、戦いに向かう。連れて行く仲間は、ルースとハンナ。次の目標は、帝国にある要塞。攻め込んで落とすことで、これからの戦いで優位に進めるためらしい。
帝国内部にも王国の兵は潜入しているので、俺達が落とした後に占領する予定なのだとか。
まあ、王国の思惑は俺たちの考えることじゃない。せいぜい、占領できるように壊さないよう気を付ける程度だろう。戦いに余計な考えを持ち込めば、妙な被害が出るからな。
とにかく、俺たちは勝つことにだけ集中すれば良い。他のことは、占領する王国兵たちの考えることだ。
また、出撃前にルースたちの様子を確認していく。毎回だが、手を抜けないところだからな。
「さて、調子はどうだ? 問題なく勝てそうか?」
「五属性が相手であろうとも、打ち破れましてよ」
「フィリス殿ほどでなければ、ひとりでも倒せる目算でありますな」
軽い調子で話しているが、目からは慢心が見えたりしない。なんだかんだで、しっかりと警戒しているのだろう。
一応、五属性はルースとハンナにとっては格上だからな。ふたりは四属性なのだし。まあ、一属性であるカミラやフェリシア、ラナが倒している時点で今更ではあるのだが。
とはいえ、簡単に油断していい相手ではないことは確か。そのあたりは、ふたりの方が分かっているくらいのはず。
「なんというか、みんな強くなったよな。昔からは、信じられないくらいだ」
「レックス殿は、当時から規格外でありましたからな」
「あたくしたちなんて、視界にも入れないほどだったもの」
ハンナは腕を組みながら頷いていて、ルースはちょっと冷たい目で俺を見ている。かなり、心にくるんだが。
俺は仲間たちを見下したつもりもないし、視界から外したつもりもない。大事な友達だと思っているし、切磋琢磨する仲間だとも思っている。
というか、本気で視界に入っていないのならルースもハンナも無視していたぞ。たぶん。
俺はパタパタ手を振って、ルースの言葉を否定していく。
「いや、それは誤解だぞ……! ちゃんと尊敬していたんだからな!?」
「本心というのが、厄介でありまして……」
「見下している方が、可愛げはあってよ。まったくもう」
ハンナまで、じっとりとした目を向けてきた。ルースなんて、腰に手を当ててため息までついている。
完全に、俺の味方はいない。どう弁解したところで、追撃されて終わりだろう。ここは逃げあるのみ。
「よ、よし、そろそろ戦いに向かわないと、時間が……」
「逃げましたわね。情けないこと」
「ふふっ、同意でありますな。ただ、時間も大事なのは事実。乗りましょうとも」
なんとか助かった。一応、ハンナとルースの様子は確認しておく。戦いに向かうのだから、変なことがないかどうかを。
とりあえず、気力は充実しているみたいだ。さっきまでの問答で集中が乱れたりは、ないみたいだ。
「じゃ、じゃあ、行くか。問題は……なさそうだな」
ということで、転移していく。門の内側に入って、一気に敵将まで突き進む予定だ。こういう時に、転移の強さを実感するな。本来侵入が一番難しい要塞に、簡単に入れるのだから。
敵兵には武器を持っていない相手すら居る。もう、半分くらい決着はついているだろう。
「では、さっそくいきましてよ。爆殺陣!」
「わたくしめは、討ち漏らしを。閃剣!」
ルースが結界で包んだ範囲に爆発を仕込み、ハンナがその外側に魔力の剣を降らせていく。
あっという間に敵は半壊していって、ろくな抵抗もできていない。ただ、ルースの結界に包まれてなお生きている相手も居るようだった。
「防いでいるやつが居るな。やはり、敵将か?」
「五属性の力を、思い知らせてやろう! 五重反発陣!」
問答する間もなく、敵から魔力の塊が飛んでくる。そのまま、爆発しそうになっているのが見えた。
即座にハンナは魔力を剣に収束させ、一気に切り裂いていく。敵の魔力が爆発するのと拮抗し、最終的にはハンナが打ち勝っていた。
「四重剣! ルース殿、手助けは必要でありますか?」
「さっきのも、不要だったくらいでしてよ。爆殺領域!」
ルースの姿が結界に溶け込み、そのまま内部で何度も何度も爆発が起こっている。結界が解かれた頃には、敵は見るも無惨な姿になっていた。
「なぜ、俺の技が……あ、が……」
そのまま、ルースは敵の頭に爆発をぶつける。簡単に、吹き飛んでいった。それを横目でながめて、ルースはつまらなそうな顔をしていた。
「あっけないものでしてよ。レックスさんの、足元にも及ばない」
「わたくしめでも、十分殺せはしたでしょうな」
ふたりは軽く話している。実際のところ、これまで苦戦という苦戦はしていない。だが、それはみんなが信じられないくらいの成長をしたからだ。
五属性というのは、そう多く集まるようなものじゃない。原作でのネームドキャラですら、達していないことも多いのだから。
やはり、何かがおかしい。軽く倒せていることにも、原因があるのかもしれない。例えば、力を手に入れたばかりとか。まあ、考えて分かることかは怪しい。できることは、今後も出てくる前提で対策を取るという程度。
「だが、こうも五属性が出てくるのか……」
「心配でありますか? 皇帝に勝てないかもしれないと」
「みんなが傷つかないのなら、問題は無いんだが……。勝てているから、余計なお世話なのだろうか……」
「何を言おうと、レックスさんは変わらないでしょう。だったら、好きにすればよろしくてよ」
「ルース殿に、同意でありますな。レックス殿の気持ちは、嬉しいですから」
なんか、ルースの言葉は諦められている態度にも思えるんだが。そっぽを向かれていることもあるし。まあ、本気で嫌いな相手なら、そもそも近づきもしないタイプだとは思う。
実際、逆の立場なら心配のしすぎだと思うかもしれない。だから、分かる気はする。
「なら、良いんだが。俺の心配が邪魔になったら、本末転倒だからな」
「レックスさんは、気を使いすぎでしてよ。もっと、我を出しなさいな」
「そうでなくては、利用されてしまいますよ。悪い女に、でありますね」
ルースの言葉からするに、さっきのは本気で諦められていたというより、心配が形になったと見るべきか。俺が変わらないばかりに、妙なトラブルを起こしかねないみたいな。
ただ、本気で悪い女に引っかかりそうになったら、周りが止めてくれるだろう。その言葉を聞かないような俺じゃないはず。だから、きっと大丈夫。
「俺の周りには、悪い女なんていないと思うが……」
「付ける薬は、無いようですわね。まったく、レックスさんという人は」
「ふふっ、そういうレックス殿を気に入っているのでしょう?」
「まあ、そうですけれど……」
ルースは、顔を赤くして頬をかいていた。やはり、俺は周囲に大事にされている。その気持ちを、しっかりと返していかないとな。
皇帝がどんな手を使おうとも、俺は勝つ。その先の未来で、また楽しい時間を過ごそう。




