560話 ジュリアの努力
僕は、レックス様の手助けをするために剣を取った。帝国の敵たちと、戦うために。不意打ちのようなものを食らって、少しだけレックス様に心配をかけちゃったみたいだけど。
ただ、問題なく倒すことはできていた。レックス様は、少し不安を感じている様子ではあったけれど。実際、五属性の敵とは出会ってこなかったからね。もっと強い敵も居るのかもしれない。だから、仲間が傷つくのが怖いんだと思う。
なら、僕たちの強さを証明しないとね。心配しなくても、勝てるんだって。レックス様ばかりに負担をかけないように、僕は強くなるって誓ったんだから。
レックス様のお父さんを殺させた時みたいに、泣かせたりしない。それだけは、絶対に果たさないとね。
「一応、今回はレックス様の手をわずらわせなかったと思っていいかな」
最初だけ、防御魔法をかけてもらいはしたけれど。後は僕たちだけで倒せたからね。無駄な魔力を使わせることも、無駄に手を汚させることもなかった。
レックス様は、僕とは違う。殺すことが嫌いで、できれば避けたいと思っているんだ。そんな人に、あまり戦わせられないよ。転移やら何やら、闇魔法が便利で強いのは分かるけど。
だけど、頼り切りになるのはダメ。レックス様が傷つくのは、分かりきっているんだから。
別に殺すのが嬉しいとまでは思わないけれど、レックス様のためなら何人でも殺せる。特に、夢見が悪くなったりもしない。そんな僕が殺す方が、良いに決まっているんだよ。
「僕たちは助けに来ているんだから、助けられるわけにはいかないよね」
レックス様に余計な負担をかけるのは、絶対に避けるべき。僕じゃなくても、誰だって言うことだと思うよ。
ラナ様だって、間違いなく賛成してくれる。そこは、疑う理由はないかな。レックス様に好かれたいからって、わざわざ苦しめるような人じゃない。ちょっとは、黒いところがあるけれど。
まあ、フェリシア様やラナ様の気持ちも分かるんだよね。レックス様は、何の根拠もなく人に優しくしている。それがいつ失われるのか、不安になっちゃうんだろうね。理由無く優しくされるのなら、理由無く捨てられるのかもしれないって。
僕は違うって分かっているし、みんなも理性では納得しているんだと思う。でも、保証が欲しいって気持ちも浮かび上がってきちゃうんだよ。レックス様は、本当に変わっているからね。
でも、僕は信じるよ。今日まで生きてこられたのは、レックス様のおかげなんだから。裏切られたとしても、納得して死んでいけるよ。レックス様にもらった人生なんだから、彼になら奪われても良いって。
だったら、僕のやるべきことは単純だよね。迷う理由なんて、どこにもないよ。
「レックス様が苦しまなくて良いように、少しでも僕が殺さないと」
僕が殺した分だけ、レックス様は殺さずに済むんだから。だから、殺し続けるのが大事だよ。少なくとも、レックス様の敵はね。
だからといって、僕が苦戦してしまったらダメなんだけど。レックス様が、自分で手を下す覚悟をしちゃうから。余裕を持って殺せるように、ちゃんとやらないと。
「皇帝が障害になるというのなら、やるだけかな」
一応、強いとは言われているけれど。フィリス先生には確実に負ける程度。だったら、僕にだってやる手段はあるよ。先生の手管は、よく知っているんだから。
とはいえ、レックス様は自分が何もしないことも望まない。僕たちに全部任せることを、嫌うんだろうね。
優しい人。だから好きなんだけど、困っちゃうところもあるかな。どうせなら、僕に全部委ねてくれても良いんだけど。レックス様が甘えてくれるのなら、それはそれで嬉しいんだけどな。
でも、答えは分かりきっている。ちょっと、悲しいね。ため息をつきたくなっちゃうよ。
「たぶん、皇帝とだけはレックス様が戦うんだろうけれど」
レックス様の責任感を考えても、最大の強敵は自分で担当しようとするよね。でも、どうにか着いていけないかな。
たぶん、あっけなく勝つとは思うけれど。でも、邪神の眷属に苦戦したこともあったみたいだから。絶対に負けないとは言い切れないよ。
僕は、レックス様を信じている。けれど、それは何の対策も取らないこととは違うんだから。
「もしレックス様が苦戦でもするようなら、不意打ちでも何でもしよう」
正々堂々なんて、知ったことじゃないよ。レックス様を傷つける存在は、死ぬべきなんだから。どんな手を使おうが、心は傷まないかな。
卑怯だなんだってわめかれるのなら、目撃者ごと殺せばいいだけ。そうすれば、レックス様の名誉は傷つかないよね。
だから、迷うことなんて何も無い。ただ、殺せば良いんだ。
「僕にとって大切なことなんて、分かりきっているんだから」
レックス様を大事にする。それだけが、僕の生きる理由なんだよ。友達だって居るし、大切な人だって居るけれど。でも、レックス様が一番だから。
もちろん、シュテルやサラみたいな仲間をレックス様も大切にしてくれる。そう信じているからでもあるんだけど。僕の幸せを、心から望んでくれる人だからね。だから、好きなんだ。
「もう、二度とレックス様を悲しませたくない。それで、良いんだ」
レックス様がお父さんを殺した日、泣いていた。僕は知っているんだから。悲しい涙なんて、流させやしない。僕は、守ってみせる。レックス様の心を、絶対に。
そのためなら、どれだけの敵だって怖くないよ。誰に恨まれようと、知ったことじゃない。
「魔力との合一に成功できたら、もっと殺せるよね」
カミラ様やフェリシア様、ラナ様はとても強くなったからね。僕にも、同じ効果が期待できるはずだよ。
もっともっと強くなれば、もっともっと頼ってもらえる。その先に、いずれレックス様が苦しまなくて済む未来があるはずなんだ。
だから、僕は努力を続けるだけだよ。
「あまり心配をかけないように、慎重に訓練しないといけないけれど」
レックス様は、魔力との合一は危険だって言っていた記憶があるし。失敗したら、大変なことになっちゃうよね。
もし僕に何かあれば、絶対にレックス様は泣く。僕の誓いを考えても、妙な失敗はできないよ。
「僕は特別な力を持っているんだ。その分、しっかりと仕事をしないとね」
そのために、僕は力を手に入れたんだろうから。サラやシュテルの代わりに、直接的な力で助けられるように。
僕は力で、ふたりは別の形で、レックス様を支える。それだけだよね。
「レックス様の前に立ちふさがる敵は、みんな殺せるように」
僕はいくらでも殺せる。わざわざ嘆いたりしないんだから。レックス様は傷ついちゃうんだから、誰が適任かは明らかだよ。
レックス様の力に救われている身で言うのは変だけど、力が無い方が幸せだった人なのかもしれないよ。力を持つものの責任を、強く抱えてしまう人だから。
でも、僕にもできることがある。なら、迷っている時間はないよね。
「まずは、一歩ずつ。魔力を収束する練習からだね」
魔力との合一には、高い密度の魔力が必要。それは、見ていたら分かるからね。ひとまず、しっかりと訓練をしていこう。
仮に合一ができないとしても、役に立つ。だから、効率は良いはずだよ。
「他の技にも応用できるだろうし、悪くないんじゃないかな」
僕の魔力は、ただ威力を高めるだけの技になる。収束すればするほど、強くなっていくんだからね。
なら、絶対に無駄にはならない。迷わずに進んでいけるよ。
「この調子で、どんどん頑張っていこう。シュテルやサラも、頑張っているんだから」
いろいろと、勉強したりしている。情報を集めたりとか、工夫もしているみたい。僕は苦手な分野だけど、サラやシュテルはうまくできるのかもね。
とにかく、みんなが得意分野で協力する。それも、レックス様の理想ではあるんだから。
「僕たちの手で、必ずレックス様を幸せにする。それが、一番大事なんだよ」
みんな、それだけは同じ願いだと思うよ。レックス様の幸せが無いなら、僕たちは幸せになれないんだから。
例え打算だとしても、関係ない。結果だけがすべてだよ。レックス様の感情がどうあれ、僕たちが救われたように。
「レックス様にもらった幸せを、倍にして返さないとね」
全力で、頑張っていくから。
見ていてね、レックス様。




