559話 ラナの奉仕
あたしは、レックス様に望まれた戦いに向かいました。ジュリアさんと共に、順調に敵将を討ち取ることができました。
最低限の役割は、こなせたと言っていいでしょう。これからも、レックス様はあたしを頼ってくれるはずです。強さは、確かに示せましたから。
五属性でも打ち破れる戦力となれば、レックス様は手放せないでしょう。まだ完全ではないにしても、十分な実力を持てているはずです。
無論、まだ満足するわけにはいきませんが。レックス様に頼られなくなった瞬間が、あたしの終わりなんですから。
「あたしは、しっかりとレックス様のお役に立てていますね」
少なくとも、今回の戦いでは。頷きながら、手応えを確かめます。魔力との合一は、大きな手札となりましたね。五属性にも通用するのであれば、多くの敵を殺せるでしょう。
カミラ様には、感謝しないといけません。あたしに、道を示してくれたんですから。一属性であっても、きちんと戦力になれる道を。
とはいえ、厄介な強敵でもありますけれど。レックス様への執着は、あたしにも分かりますから。それに、戦力としてもあたし以上になりうる存在ですからね。
ただ、今回のように複数人で戦いを分担する場面もあるでしょう。必ずしも、敵となるわけではありませんね。
あたしのやるべきことは、レックス様に仕えることです。足を引っ張ることでは、ありませんから。
「この調子で、まずは帝国に勝つところからです」
戦い以外にも、できることはあるはずです。レックス様の調子を整えるためにも、支えていく必要がありますからね。
水の魔法は、癒やしにも使える。ならば、レックス様のために鍛えることも大事でしょう。何度も何度も戦うのですから、身も心も落ち着かせるために。
とりあえず、あたしで実験してみましょうか。適当に傷でもつけて、治してから。あるいは、限界まで動いた疲れを抜くことができるかもしれません。とにかく、試してみるべきです。
どうせ、痛みには慣れていますからね。魔力を毎日吐き出し続けたことは、今も活きています。
「あたしにできることを、全力で。それに、迷う理由はありません」
レックス様のために尽くすのが、あたしの生きる意味なんですから。ご恩返しという意味でも、あたしの感情という意味でも。
自分でも、分かっています。きっと、恋心なんて呼べるほど綺麗なものではないのだと。だとしても、構いません。レックス様は、必ず受け入れてくれますから。自分を嫌う理由なんて、どこにもないんです。
だったら、迷わず支え続けるだけでいい。これまで以上に、尽くし続けるだけでいいんです。
「レックス様は、皇帝などたやすく打ち破るでしょう」
所詮は、ただの人間ですからね。邪神の眷属とも違う、普通の存在。集めた情報からしても、叶うはずありません。
そして、レックス様の実力は、一度見たものでなくては信じられないでしょう。なまじ力を手に入れていると、報告を嘘だと判断してしまうほどに。
きっと、皇帝は油断するのでしょう。そして、あっけなく死ぬのでしょうね。五属性程度では、どうあがいてもレックス様には勝てませんから。
あたしは、ただ待つだけでも良いんです。隣で支えることが、理想ではありますけれど。
「その先にできること。あたしだけに、達成できること」
ただの戦力としては、あたしの限界はとっくに見えていますからね。まだ強くなる道はあるにしても、レックス様と対等になれるほどではありません。
ですから、戦い以外の道も大事なんです。とはいえ、その方向性も先駆者が居るんですけれど。サラさんやシュテルさんが、分かりやすいところですね。ジャン様やミルラさんも、きっと同じことでしょう。
となると、独自性が大事になってきます。あたしにあるものは、当主としての立場でしょうか。
よく考えて、効率の良い手段を取らないといけません。当主だって、他にいますから。あたしが持っているものを組み合わせて、効果的に相乗効果を発揮させなければ。
「やはり、レックス様の支配を深めることでしょうか」
サラさんやシュテルさんが、目指していることでもあります。そして同時に、あたしが優位に立てることでもあります。
権力や名声は、確実にふたりを上回っていますからね。だからといって、他では負けている部分もありますけれど。サラさんやシュテルさんは、レックス様に近い。そして、供をする機会も多いのですから。
だからこそ、帝国という場所であることは利用できます。敵国に干渉するには、間違いなく権力が活きてきますからね。
「地元ではありませんから、名声も何もありません。あたしにも、レックス様にも」
名前が伝わるほど大きなことをしているのは、レックス様だけでしょうし。そして、必ずしも良い評判につながるとは限りません。
ですから、あたしの出番になるんです。レックス様の名声を高める手助けをできる。あたしは、民衆の心理を操るすべも、ある程度は分かるんですから。
帝国との戦争後に動くことを考えると、できることはおのずと定まってきますね。
「そうですね……。間違いなく、民は傷つくでしょう。なら……」
今の王国のように、苦境におちいる民も居るでしょう。そして、救いを求めもするでしょう。
誰も彼もを救う必要はありません。名声につながる相手を、的確に選べば良いのです。嫌われ者をわざわざ救っても、むしろ逆効果でしょうし。
人格的に問題がなく、発信力もある。そんな相手を優先的に選ぶのが、大事でしょうね。
「あたしの手で救うことで、あたしの名を上げる」
あたし自身は、名声には興味なんてありませんけど。ただ、名が大きくなれば利用できますからね。インディゴ家で、よく学べました。
誰かに好かれるということは、力になるんですよ。今、あたしがレックス様のために生きているように。
「レックス様にも、ある程度は手伝ってもらいましょう」
しっかりと、美味しいところを持って行く形になるようにですね。丁寧に調理して、美味だけを味わってもらうんです。
最大限の名声を得られる相手を、あたしが譲る。とっても良い尽くし方でしょう。
「その先で、レックス様を信頼できる方だと伝える。心に刻みこむんです」
レックス様の名声が広がれば、言葉にも説得力が出るでしょう。実際に助けられた人の存在が、多ければ多いほど。
そして、あたしの名声とも相乗効果を発揮する。あたしを信頼する人が、レックス様を素晴らしい人だと思うようになるんです。
「インディゴ家の物資だけで実現するのが、理想ではありますが……」
一国ともなると、さすがに難しいでしょう。意図的に潰す人間を作って徴収するにしても、まだ足りないはずです。
となると、あたしだけで実行するのは効率が悪いですね。仕方ありません。
「やはり、王家にも手を貸していただきましょう。レックス様の名声は、必要でしょうから」
王家の動きを見ていれば、レックス様をどう扱いたいかは見えてきます。少なくとも、レックス様の名が高まるように動いている。それだけ分かれば、最低限の協力はできるでしょう。
お互い、思うところもあるでしょう。だからといって、必ず潰し合う必要はないんです。
「あたしたちは、お互いに邪魔をしない。それで良いんです」
ミーア様もリーナ様も、レックス様が大好きみたいですからね。それが分かっていれば、誘導もできるでしょう。
あたしたちが傷つけ合っても、レックス様は喜ばない。それは、誰でも分かることなんですから。
「いずれ、レックス様のものになる。その瞬間を、待つだけですから」
仮に誰と結婚しようと、構いません。あたしは奴隷でもなんでも良い。とにかく、お役に立てるのであれば。必要とされるのであれば。
「あたしは、なんだってしますよ。レックス様のために」
誰を救うこともしましょう。誰を殺すこともしましょう。あたしのすべてを、ただ捧げましょう。
レックス様が喜んでくれることなら、あたしは迷いません。
「だから、あたしを大切にしてください。それだけで、良いんです」
簡単なこと、ですよね。
ねえ、レックス様。




