554話 戦いを前にして
帝国からの宣戦布告を受けて、王女姉妹を始めとした仲間たちは大きく動いていた。そして、反撃のための準備は整ったらしい。
詳しいことは知らないが、聞こえてくる情報からして敵の動きを読めたみたいだな。同時に、俺達の戦力をぶつけるだけの余裕もできたと。
俺たちは呼び出されて、みんなで集まっている。メンバーは、おそらく直接反撃をする人員だ。
王女姉妹は、どちらも笑みを浮かべている。ミーアは穏やかに、リーナは不敵に。これから始まるのだろう。そんな予感に、つばを飲み込みそうになった。
「さて、みんな集まったわね。今回の策は単純だから、戦える人だけを呼んだの」
俺の予想通りだったらしい。となると、すぐにでも反撃をするのだろう。転移という手札があれば、準備はかなり減らせるからな。
人員の輸送も物資についても、ほとんど何も考えなくて良い。あらためて思うが、反則過ぎる。敵が持っていたら、頭を抱える程度じゃ済まない。
こちらのアドバンテージは、正直に言って大きすぎるくらいだ。これで負けてたら、情けないよな。
「早く本題に入りなさいよ。どうせ、あたしたちが戦うって話でしょ?」
「その通りですね。帝国にある拠点に転移して、それぞれに潰していく形です」
「どういう組み合わせにするかを、まずは決めないといけないわ」
いきなり帝都に攻め込む手もあるのだろうが、それで終わるとは思えない。前世でいうところの玉音放送みたいなことがしたくとも、そもそも情報が伝わるまでのタイムラグがあるのだから。
少なくとも、王国に攻め込むために動いている軍は潰さなければならない。最低でも、敗走に持ち込むべきだ。
皇帝だけ殺して終わらせるのは、現実的ではない。悲しくはあるが、今回も大勢を殺さなければならないな。
「……提案。ある程度親しい相手と組むのが妥当と判断する」
「その通りだな。連携の邪魔になる関係では、我々の力は発揮しきれないだろう」
フィリスが提案し、エリナが賛成する。俺も、同感ではある。即席のコンビでうまく連携するのは、どうしても難しい。戦場も敵地であることだし、ひとりというのも避けたいところ。
となってくると、ある程度組む感覚が分かっている者同士でコンビになるのが妥当か。まあ、そうなるよな。
「あたくしであれば、ハンナさんが妥当でしてよ。ミュスカさんとも、組めるでしょうけれど」
「組める人が少ない相手を、優先的に決めるべきでありましょう。わたくしめは、広範かと」
ルースと仲が良かったのは、ハンナとミュスカだったからな。逆にハンナは、近衛騎士とも組めるだろう。なら、確かに組める相手が限定される組み合わせを先に決めた方が良いな。ハンナみたいな相手を後で決めるのは、納得できる。
俺としては、まあこの場にいるメンバーとなら合わせられると思う。他の人なら、厳しいかもな。
「なら、あたしはフェリシアさんかジュリアさんが良いと思います。そのどちらかですね」
「わたくしは、カミラさんとでも構いませんわよ。ねえ?」
ラナは即座に返答して、フェリシアも合わせる。まあ、近いところという感じだな。ブラック家を中心にできている関係だから、よく知っているところ。
学校もどきのメンバーだと、ジュリアだけが戦闘要員になっているな。だから、ジュリアは優先的に決めた方が良いかもしれない。
まあ、まずは一通りの意見を聞いてからだな。意外な組み合わせがあるかもしれないし。普通はないが、ある可能性は想定しておこう。
「僕は、メアリ様とでも組める気はするね。どうする、メアリ様」
「メアリ、ワガママは言わないの。ちゃんと、大事な仕事をするもん」
「じゃあ、メアリちゃんは私に任せて。たぶん、それが良いかな」
ジュリアはメアリとも仲が良かったか。確かに、メアリの相手も大事だな。まだ精神的に未熟なところもあるのは、否定できないし。
まあ、ミュスカに任せておけば安心ではあるか。暴走されたとしても、闇魔法でフォローできそうではある。関係性そのものは、あまり近くもないにしても。
俺が直接見るのが理想ではあるが、役割的には厳しい。転移を何度も使うことになるだろうからな。
「意見は、一通り出たわね。ふむ、レックス君とミュスカちゃんには、重要な役割があるわ」
「俺達だけが、転移を使えるわけだからな。どうする、ミュスカ?」
「前回、フィリスさんは呼び出せなかったよね。念の為に、レックス君が一緒になるのはどうかな?」
フィリスは俺が呼び出してもやってこなかった。たぶん、邪神が妨害していたんだとは思うが。今回の敵に邪神が居るかはともかく、実際に打てる対策は打っておくべきだな。
それなら、俺は常に転移で動き回ることになる。全力で戦うのは、避けた方が良いか。
最悪の場合でも、俺が逃げ場を確保する。その戦術をキープできるのが理想だろう。
「なるほどな。分かる話ではある。ミュスカのところに飛べるようにってことだな。じゃあ、メアリは……」
「ちゃんと、ミュスカちゃんを守ってあげるの! それで良いでしょ、お兄様?」
元気いっぱいに、メアリは俺に宣言する。まあ、ひとまずは安心だな。メアリは確かに強いのだが、どうにも不安要素でもある。
間違いなく成長もしているとはいえ、慣れていない環境でどこまでできるのかは断言できない。だから、ミュスカと一緒に待っていてくれるのはありがたい。
それに、メアリくらい幼い子に人殺しに慣れさせるのは、どうにもな。まあ、他の人なら良いのかって話でもあるが。
「組む相手の案は、私がまとめてみました。これで、どうですか?」
リーナが、俺達の前に紙を差し出す。一通りの組は書かれているみたいだ。さっきの条件は、満たされているように思える。
「あたしとフェリシアね。まあ、悪くないんじゃない?」
「そうですわね。お互い、いい張り合いになるでしょう」
カミラは獰猛な笑みを浮かべて、フェリシアは優雅に微笑んで向かい合っている。なんというか、微妙なライバル関係も感じるところだ。
だが、どちらも戦場でまでいがみ合うような人じゃない。そこは、安心して見ていられるな。
「……納得。エリナとなら、うまく連携できるはず」
「同感だな。フィリスとは、この中ではレックスの次に長い」
フィリスとエリナは、とにかく安定感がある。実際、今も落ち着いた調子だからな。この二人に関しては、何も心配することはないだろう。
「ラナ様が相手なのは、要望通りだよね。うん、大丈夫だよ」
「あたしもですね。ジュリアさんとは、長いですから」
ラナとジュリアは、学校もどきの頃から何度も協力している。手の内も性格も、お互いに理解しているはずだ。
まあ、このふたりも心配することは何も無い。助かるな。
「わたくしめは、ルース殿とでありますな。よろしくお願いします」
「さて、あたくしの力を見せる時でしてよ。腕が鳴ってよ」
ハンナとルースは、お互い切磋琢磨してきたからな。強みも弱みも、よく知っているだろう。
まあ、俺が出会う以前からの知り合いのはず。わざわざ分析するのも、無粋というものか。
「ひとまず、まとまったわね。後は、どの順番で戦うかだけれど……」
「まずは一当てしたいところですね。そうなると、腕を測りやすい人。カミラさん、お願いできますか?」
「任せなさい。あんまり詰まらないようなら、消し飛ばしてやるわ」
さあ、俺達の戦いがまた始まる。まずは、軽く一勝したいところだ。




