547話 セルフィの目標
私は、いや、私たちは計画を成し遂げた。レックス君は英雄になった。少なくとも、レプラコーン王国においては。
もちろん、ただ純粋に喜べば良いというものじゃないんだけど。結局、レックス君はギリギリまで苦戦することになったわけだから。ミュスカさんの演出とはいえ、苦しかっただろう。
ただ、結果的には良かったのかもしれない。レックス君は、誰かに頼ることを覚えたみたいだから。ミュスカさんは、特に嬉しそうに話していたかな。私としても、悪くないと思う。
どの道、レックス君に謝ることはできないからね。私たちの計画を、レックス君が知ることはないんだから。墓まで隠し通せないと、誰も彼もが不幸になるんだし。一番傷つくのは、レックス君だし。
つまり、ひとまずは成功と言って良い。反省点があることは否定しないけれど、それも含めて悪くない。私は、ひとり頷いたんだ。
「うん、これでレックス君の名声は高まった。みんなに、感謝しないといけないね」
もし本当のことが知られたら、レックス君には恨まれるのかもしれないけれど。でも、全員が意地でも隠すだろうね。誰かが落ちてしまえば、みんな引きずり出されるんだから。
そうならないように、相互に警戒を挟むことにもなるのかもしれない。結局のところ、潰し合う意味は誰にもないとはいえ。レックス君が何を一番嫌うか。みんな、彼の大切な人が傷つくことだって分かっているんだから。
だからこそ、お互いを排除するという選択は誰も取れない。良くも悪くも、レックス君がいるから成り立つ関係だということ。
とはいえ、みんなの気持ちは同じではある。レックス君の幸せを望むことには、変わらない。どこまで自分を優先するかという違いはあれど。
ミーア殿下は、レックス君と結ばれたいみたいだった。ミュスカさんも、強いつながりを求めているようだった。私はどうだろうか。よく分からない。
ただ、今は満足しているんだ。レックス君が周囲に褒められて、嬉しそうにしていた顔だけで。少しだけ、腹も立ったけれど。手のひらを返した人も多かっただろうし。
「レックス君には、最初から必要だったものなんだから」
ずっと、周りの人を助けてきたのにね。レックス君の家族たちも、ミーア殿下やリーナ殿下も、同じクラスだった人たちも。
それなのに、レックス君はずっと遠ざけられていた。どこまでもくだらない理由で。私にとっては、絶対に許せることじゃなかったんだ。
誰も、レックス君を見ようともしない。ただ肩書だけで、恐れ、見下し、バカにする。愚かなんて言葉じゃ、とても言い表せないような人たち。
「本当に、偏見の目ばかりで見られて……。可哀想なレックス君」
つい、胸を抑えたよ。私が支えてあげなかったら、もっと苦しんでいたはずだから。
もう分かったことなんだけど、他者に理解を求めるなんて、ほとんどの場合は無駄になるんだ。無理矢理にでも受け入れさせることが、最善なんだよ。
もちろん、善人と言える人も居る。レックス君が代表格だけど。人をまっすぐに信じて、手を伸ばせる人。けれど、そんな人は1割どころか1分もいないんじゃないかな。
だから、レックス君は無理解に苛まれ続けた。人々から、拒絶されてばかりだった。
「でも、もう大丈夫だからね。レックス君への悪意が排斥されるように、手を打つから」
一度英雄として名を残せば、そこは楽になるから。私は、よく知っている。人は、自分とは違う意見の人を排除したくなるものだって。
だからこそ、レックス君を持ち上げる人が多くなってしまえば、そこからは手が打ちやすいんだ。
ミーア殿下は、本当によくやってくれたよ。王都の人々を助けたという事実も、ちょうど良い取っ掛かりになるはずだから。
「噂話も同調圧力もサクラも、なんでも使うよ」
私個人では限界があるから、他の人たちと協力しながら。特にミーア殿下は、レックス君の名声を高めたいみたいだから。良い味方になってくれるはずだよ。
追加して、ミュスカさんやルースさんとも手を取り合えると良いかもね。いずれはもっと和を広げたいけれど、急ぎすぎても良くないから。
まずは、王都から。アストラ学園をうまく使って、一歩一歩進めていこう。
「レックス君にちゃんと感謝するのが、どれだけ大事か」
そもそも、アストラ学園の生徒たちはレックス君に助けられているのにね。邪神の眷属が初めて目覚めたのは、学園でなんだから。
感謝もせずに、ただ悪意をぶつける人たち。どれだけ見苦しかったか。これからは、周囲に悪意をぶつけられる恐怖を教えてあげるから。私のことを慕う人も、確かにいる。しっかりと、使っていかないとね。
「これで、レックス君の笑顔が増えるといいな。私が見られると、もっと嬉しいけれど」
一番大事なのは、レックス君が笑顔でいられること。私がそれを見たいというのは、単なる欲望だからね。それに、あんまり私の気持ちを表に出しすぎると、レックス君は演じちゃうかもしれないから。
だから、必ずしも見たいとは思わない。レックス君が幸せなのが、本当に大切なことだから。
そのためにも、しっかりと策を練る。私の闇を、隠し通す。どっちも、完璧に達成しないといけないね。他ならない、レックス君のために。
「やっぱり、何もせずに見ているだけではダメだったんだ」
こうして動いて、初めてレックス君は認められた。なら、もっと広がるようにしないと。
今までの私は、遠くから見ているだけだった。相談に乗るとか、そんな小さなことで満足していては足りなかった。本気でレックス君を想うのなら、行動に移すべきだったんだよ。
でも、もう分かったから。間違えたりしないよ。
「これからは、もっといろんな手を打っていかないとね」
ひとまずは、さっき決めた方針でいいと思う。とはいえ、次の策も考えておかないとね。失敗した時の別の手段も。
うまく行けばいいなと祈っているだけでは、何も変わらない。それを知ったんだから、立ち止まってなんていられないよ。
「そう。私にできることを全力で。誰かの手を借りてでもね」
私だけで達成することに、意味はない。以前、レックス君に言ったこと。そして、私自身も示すべきこと。
今回だって、ミュスカさんとミーア殿下の手を借りたから成功した。これからだって、他の人の手を借りないと難しいだろう。
だからこそ、誰と手を組むべきなのか、しっかりと考えないとね。基本的には、レックス君の仲間になるだろうけれど。そうじゃない他人を信用するのは、まだ難しいから。
「レックス君の敵は、ちゃんと排除する。味方だって、しっかりと増やす」
そうなってしまえば、後は一色で染め上がっていくだけ。盤面を整えたチェスみたいに、詰めまで一直線になるように。
レックス君の敵が少なくなればなるほど、敵で居続けることは難しくなる。同調する人も、少なくなっていくだろう。
私は、そうなるように盤面を操作しないといけないんだよ。
「次に利用できそうな組織とか、あったりしないかな」
今すぐには、思いつかない。けれど、考えるのは大事なこと。どんな相手が都合が良いか、調べて策を練る。そうして初めて、私の願いは叶うんだから。
まずは知り合いと協力して、情報を集めてみよう。どこが取っ掛かりになるのか、よく考えないとね。
「レックス君の味方になるならよし。敵になるのなら、名声の糧になってもらおう」
悪として、レックス君に撃たれる。そうなるように、情報を操作する。私の目指すべき道は、よく見えているよ。
後は、確かに進んでいくだけ。それだけなんだ。
「私も、もっと手を広げないとね。いろんなところに手を回せるように」
そのためにも、善人を演じるのが大事だね。誰かの願いを叶えるのも、良いのかもしれない。
なら、以前の私も役に立つということだよ。一人ひとりの相談に乗って、慕われて、レックス君への好意を吹き込む。
私がかつて苦しんだ時間も、無駄じゃなかったんだ。都合よく利用されるだけじゃない私を、導き出せたんだ。
「強くなるのは、難しい。それでも、できることはあるんだ」
私は、レックス君に教わったんだよ。自分を肯定できる道を。だから、レックス君だって自分を褒められるようにしてあげるよ。
もう、誰かに傷つけさせなんてしない。そんなこと、許さない。
「そうだね。まずは情報を集めて、噂を流していこう。そこから、一歩ずつ」
今でも私を慕っている人を、集めていこうかな。色んな人を紹介してもらって、落としていこう。
盤面を一手一手塗り替えていく。その先に、私たちの幸せはあるんだから。
「レックス君が笑顔でいられる時間を、絶対に増やしてみせるからね」
絶対に、約束するよ。私の人生をかけて、果たしてみせるからね。




