535話 導かれた道
真っ暗な空間から、元の世界に戻る。俺の隣には、微笑むミュスカがいた。
さっきまでの問答が関係していることは間違いない。ということは、俺に力を貸してくれるということで良いのだろうか。
隣にいるミュスカは、どう見ても本物だ。なら、きっと大丈夫だとは思う。
とにかく、さっさと状況を整理しないと。ミーアとリーナを助けて、未来をつかむために。
「ミュスカ……。手伝ってくれるのか?」
「もちろんだよ。レックス君が、そう望んだんでしょ?」
そう言われて、俺は迷わないと決めた。ミュスカに背中を任せていれば良い。それで、今も組み付かれているミーアとリーナを取り戻さなければ。
「ああ、そうだな。すぐに、ミーアとリーナを助けないと!」
「ふふっ、任せて。私の魔力を、貸してあげるよ」
そう言って、ミュスカは俺の手をぎゅっと握りしめる。そこから、魔力が送り込まれてくるのを感じた。同時に、全身に感じていた痛みや吐き気などが薄らいでいく。
魔力欠乏によってでていた症状は、消えた。なら、後は突き進むだけ。どこまでも、力が湧いてくるのだから。
「これなら……。行くぞ、剣魔合一!」
ミーアたちに組み付いている邪神の眷属を、一気に切り裂く。さっきまでより、明らかに魔力制御が楽だ。
今なら、狙った敵だけを切り裂くことができるだろう。どんな理由でも良い。とにかく、活用していこう。
「ありがとう! 私も、まだ負けたりしないわ!」
「ミュスカさんには、助けられましたね。あまり、借りは作りたくなかったのですが」
ひとまず、ミーアとリーナは立ち上がった。土まみれになってこそいるものの、あまり大きな傷は見当たらない。少しだけ、安心できた。
ミュスカは、相変わらず微笑んでいる。そして、俺に向けてウインクしてきた。
「ふふっ、まだまだだよ。私は、まだ余裕だからね。行くよ?」
ミュスカが魔力を収束しているのを感じる。そして、一気に気配が膨れ上がった。
「あんた、なんてザマよ。やっぱり、バカ弟だわ。電磁融解!」
カミラが現れて、さっそく剣を横になぐ。それと同時にカミラが消え、雷の斬撃が敵を切り裂いていく。
そしてすぐに、カミラは元の姿へと戻る。俺のことを、少しだけ睨みながら。そこに、確かな心配を感じた。
「まったく、わたくしを頼ってくださらないのです? 仕方のない方ですわ。暁炎舞踏!」
フェリシアが杖を振ると、炎が激しく舞い上がる。うねりをもって敵へと向かっていき、飲み込む。そこには、何も残らず、ただ灰だけが舞っていた。
元に戻ったフェリシアは、とても優雅な笑みを浮かべていた。
「不甲斐ないです。今の今まで、レックス様の危機に気付けなかった。でも、挽回しますよ。水流乱舞!」
ラナが水へと変化し、水流が敵を飲み込んでいく。そして、段々と敵が溶けていく。最後には、骨すらも残らなかった。
水がラナに変わると、こちらに一礼してくる。そして、ゆっくりとはにかんだ。
「お兄様の敵なんて、みんな死んじゃえ! 凝縮岩竜巻!」
メアリは杖をタクトのように操り、竜巻を巻き起こす。敵に向かってまっすぐに進んでいき、岩や雷、炎と一緒にミキサーのようになっていく。
最後には、ドロドロになった何かだけが残った。メアリはこちらを振り向いて、弾けるように笑った。
「僕だって、こんな時のために鍛えてきたんだ! 収束剣!」
ジュリアは剣に無色の魔力を集めて、集めて、それを一気に叩きつける。あっさりと、敵はふたつに分かれていった。
そして、こちらに振り向いて元気いっぱいに笑う。
「わたくしめは、足止めを! 閃剣!」
ハンナは剣を多く生み出し、敵の目の前の地面に突き刺す。それを砕くのに、敵は少し手間取っていた。
その隙に、他の人達が魔法で眷属を葬る。いぶし銀の活躍が、そこにはあった。こちらに向けて、ハンナはまっすぐに頷く。
「私も、ひとまずは足止めに徹するか。神速!」
エリナは目で追えないほどの速度で剣を振る。邪神の眷属は、足を何度も弾かれていた。敵が動けない間に、カミラが一気に切り裂く。目も合わせずに、自然と連携している。
そして、エリナは不敵に笑っていた。
「……不覚。私では、間に合わなかった。だからこそ、ここで。無謬剣!」
フィリスは魔力を収束した刃へと変化していく。敵は、抵抗すらできずに切り裂かれ、そして倒れていく。
すぐに体を取り戻したフィリスは、俺に薄く微笑みかけてくる。
「みんな……! ミュスカが呼んでくれたのか?」
答えが返ってくる前に、次の動きがあった。
「あたくしも、居ますわよ。爆殺領域!」
ルースは魔力の膜のようなものに変化し、敵を包み込む。その中で、激しい爆発が起こっているのが分かった。膜が解除された頃には、敵は原型をとどめていなかった。
そして、ルースはニッコリと笑った。
「ルースまで……! これなら……! 行くぞ! 剣魔合一!」
俺も続けて、魔力を剣に込めて振り抜く。その魔力と一体化し、敵を切り裂く。
さっきまでより楽に、何度も発動できていた。敵の集団に、大きな空間ができる。
「これで、余裕ができたでしょ? さ、三人とも。今だよ」
3人というのが誰か、聞かなくても分かった。ミーアとリーナと頷き合い、お互いに魔力を収束させていく。
「そうね! 私たちの、魔力を重ねて!」
「ここに居る皆に、私たちの祈りを。そうですよね、レックスさん」
「ああ! 虹の祝福!」
集まった七属性の魔力を集めて、混ぜ合わせる。そして、混ざりあった虹色の魔力がみんなに降り注いでいった。
力が湧き上がるのが分かる。これなら、誰にも負けない。そう信じることができた。
「これは……今なら、私でも敵を斬れそうだな。神速!」
エリナは目にも止まらぬ速さで剣を振り抜き、敵を真っ二つにする。そのまま流れるように、次の敵も切り裂いていった。
「わたくしめも! 四重剣!」
ハンナは魔力を剣に込めて、一気に叩きつける。敵はあっけなく切り裂かれ、倒れていく。
もはや、ここに居るみんなが簡単に敵を倒せる。明るい未来しか、俺には見えていなかった。
「よし、あとちょっとだ! このまま、勝つぞ!」
そのまま、あっけなく勝負はついた。邪神の眷属をすべて倒し終えて、一息つく。
俺は、ミュスカの元へと歩いていった。
「ふう、終わったか。ミュスカ、本当にありがとう。お前が居なければ、今ごろ……」
「当たり前のことだよ。私たちは、これからもずっと友達なんでしょ?」
そう言って、ミュスカは嬉しそうに笑う。邪神がどうとか、気になることはたくさんある。だが、少なくとも今は聞かなくて良い。
俺は、ただミュスカを信じ抜くだけ。これまでと変わらない想いが、そこにはあった。
「ああ、そうだな。お前は俺の友達。それで、十分だ」
「……納得。レックスがそれで良いのなら、構わない」
フィリスは、ミュスカに何があったのか気づいているのかもしれない。それでも、見ないふりをしてくれている。
なら、話を蒸し返すことはない。ただ受け入れる。それが、俺のやるべきことだ。
「さて、戻りましょう! 犠牲は多かったけれど、それでも私たちの勝利よ!」
「ああ! みんなでつかんだ勝利だ!」
ミーアが拳を振り上げるのに合わせて、俺も剣を掲げる。みんなが、勝ちどきをあげていた。




