532話 決意を込めて
ミーアたちが、いま大変な状況になっているらしい。ということで、即座に転移してミーアのところに向かった。
すでに邪神の眷属は多く現れていて、ミーアとリーナに迫っている。これは、判断に迷っていたら終わっていたかもしれない。
「レックス君! 来てくれたのね! お願い、手伝って!」
「私たちだけでは、手が足りません。もちろん、私たちも戦いますが」
ミーアもリーナも魔法を撃ちながら対抗している。だが、囲まれていることもあって倒したりはできていない。
そうなってくると、俺が全部を倒すことも難しいだろう。協力して倒すしか無い。
だが、戦略を練っている時間もない。急いで方針を決めないと、終わりだ。なら、即座に動けるものを。
「分かった! この状況だと、それぞれに戦った方が良さそうだな」
「ええ! 私はこっちを! 神の裁き!」
「では、私はこちらを。失墜する星!」
俺たちは3人で三角形のようなものを作り、お互いに背中を守る形になった。
ミーアは光の柱で敵を飲み込んで、リーナは隕石を落として敵にぶつけている。ダメージこそ与えられているものの、致命傷にはなっていない。
やはり、出し惜しみしている余裕はない。すぐにでも、全力で倒さなければ。
「すぐに片付ける! できるだけ耐えてくれ! 剣魔合一!」
魔力を込めた剣を振り抜き、魔力との合一をしていく。そのまま、俺は斬撃となった。まずは一体、倒すことに成功する。
とはいえ、まだ敵は残っている。すぐに、次を倒さなければならない。
「さすがは、レックス君ね! 一撃で倒すなんて!」
「姉さん、無駄口を叩く余裕はありませんよ。失墜する星!」
「そうね! 神の裁き!」
ミーアたちは引き続き攻撃しているようだ。敵は倒せているようだが、まだまだおかわりがある。
四方八方から眷属がやってきており、とにかくジリ貧になっていきそうな雰囲気。ミーアやリーナの方にも、敵が引き続き向かおうとしていた。俺から回り込もうとする相手すら居る。
「まったく、次から次へと! そっちへ行くんじゃない! 剣魔合一!」
もう一度魔法を使って、今度は2体を倒していく。今回は敵同士が近かったからなんとかなったが、次はきっと無理だ。
範囲を広げるという選択肢もなくはないが、魔力が離れることのリスクは大きい。最悪、元に戻れなくなる。それに、向き次第ではミーアたちを巻き込みかねない。使える技にはならないだろう。
「ありがとう、レックス君! こっちは、まだ大丈夫よ!」
「私もです! レックスさんは、自分のことに集中してください!」
そんな声が飛んでくる。みんなも頑張ってくれている。だから俺も、全力で魔力を振り絞っていく。少しでも早く、再び魔法を使えるように。
魔力との合一は、ずっと使っていることは難しい。俺自身が霧散してしまえば、終わりだからだ。ある程度の期間で元に戻らないと、魔力同士の結合がほどけていきかねないからな。
だからこそ、一度元に戻ってからもう一度使うという手順が必要になってくる。絶大な威力を持った技だと思っていたが、こんな形で弱点が明らかになるとは。
それでも、俺はやらなくてはならない。そうしなければ、勝てないのだから。
「分かった! まだまだだ! 剣魔合一!」
また魔法を撃って、また敵を倒す。倒しているはずなのに、あまり数が減っている気がしない。次々とやってきている感じだ。
なんか、味方が邪神の眷属になったと言っていたな。つまり、自陣の人間がかなり変化しているということ。最悪の場合、全員ということすらあり得るわけだ。
ちょっと、気が遠くなりそうになった。一体一体を倒すだけでもかなり気合いを入れなければならないのに、何体居るんだ?
だが、やるしかない。俺はただ、魔法を使い続けるだけだ。
「生半可な助けは、むしろ邪魔になりそうですね。私たちで、なんとかしないと」
「というか、レックス君に余裕がないわ! 転移を使う隙なんて、無いのよ!」
本当に、言われた通りの状況だ。ミーアとリーナという最高クラスの戦力ですら、なんとか敵を倒せるという程度。ちょっと強い程度の魔法使いでは、足手まといになりかねない。
そして、細かい判断をして味方を呼べる状況じゃない。そもそも、合一の魔法を何度も使うだけで精一杯だ。ギリギリまで振り絞っているんだから。
「悔しいが、その通りだな。もう一発だ! 剣魔合一!」
「神の裁き! 神の裁き!」
「失墜する星! 失墜する星!」
全員で魔法を撃ち続けて、それでも倒しきれない。むしろ、増えているんじゃないかという気すらした。
実際にどうなっているのかは、よく分からない。とにかく、目に入った敵に全力で魔法を撃つことしかできていないんだ。
「くそっ、どこまで湧いてくるんだ……! 明らかに、量がおかしい……!」
「原因を探る余裕もないのよ! なんとか、この場を切り抜けないと!」
「まったく、災難なものです。でも、今こそ力の見せ時ですね!」
魔法を撃ちながら、励まし合っている。こういうことも、大事になってくるはずだ。実際、俺はやる気になった。何が何でも、ミーアたちの気持ちに応えなければと。
そうだな。俺はみんなのために戦うだけ。それ以外のことは、どうでもいいんだ。少なくとも、今は。
「ええ! 助けられたお礼を、しっかりと返さないと!」
「それで無理はするなよ! お前たちの安全が、一番大事なんだからな!」
「もちろんよ! レックス君こそ、無理はしないでね!」
「そう言っても、どうせ無理はするんでしょうけど。本当に、悔しいです」
否定できない部分はある。というか、今の状況で無理しないのは難しいだろう。
だからといって、弱音を言っていられない。士気にも関わるんだから。心を奮い立たせろ。笑顔を抱えて戦え。そう。苦しい時こそ前向きに。
俺は勝つためにこそ、しっかりと息を吸い込んで宣言していく。
「なら、無理しない範囲で勝たないとな! さっさと終わってくれよ!」
「ふふっ、レックス君らしいわね! じゃあ、頑張りましょう!」
「そうですね。負ければ、みんな終わりです。何が何でも、勝ちましょう」
みんなも張り切って魔法を撃っている。よし、鼓舞することには成功したみたいだ。俺も、引き続き魔法を撃ち続ける。
邪神の眷属は、まだまだ現れ続ける。だが、俺は戦い続けるだけ。全力を出し続けるだけだ。
「ああ! どこまでだってやってやるさ! お前たちとならな!」
「嬉しいわ! 絶対に、勝ってみせるわよ!」
「まったく、暑苦しいことです。でも、悪くありません」
「さあ、どれだけでも来い! どれだけでも、倒してやるさ!」
その声に、大きな返事が返ってきた。絶対に諦めるものか。俺は必ず、みんなで勝ってみせる。




