531話 訪れる危機
みんなと俺は、転移で次の敵の元へと移動した。また別々ではあるが、きっと大丈夫だろう。いざとなれば、転移もある。贈ったアクセサリーもある。最悪の事態にはならない。そう信じている。
というか、そもそも俺がちゃんと勝たないと、誰かを助けることもできない。まずは自分のこと。そうだよな。ミュスカだって、気をつけるようにと言っていたのだから。
俺が誰かに助けられるような状況になってしまえば、元も子もない。しっかりとやろう。
「さて、やるか。何が出てくることやら」
「お前……レックス・ダリア・ブラック!? どうして、こんなところに……」
集団のリーダーらしき相手に見つかった。なんか、あごが外れそうに見える。ちょっとだけ面白いと思ってしまった。戦いの場で緩みすぎると、良くない。
さて、敵がどうあれやることは同じだ。徹底的に叩き潰すだけ。とはいえ、ちゃんと段階は踏んでおくべきだよな。
「俺を知っているのか? 一応聞いておくか。今すぐ投降するのなら、悪いようにはしない」
「ブラック家の人間なんかが、信じられるものかよ! やれ!」
そういうわけで、皆が武器を向けてくる。まあ、いつもの流れだ。いつも通り、皆殺しにするしかない。
ため息をつきたい気分ではあるが、ついている暇はない。さっさと終わらせないとな。
「仕方ない、か。闇の刃!」
魔力の刃で正面の相手を斬り飛ばして、爆発を引き起こして巻き込んでいく。それだけで、目の前の相手は半分以上倒れていった。
良くも悪くも、力でねじ伏せているだけ。まあ、気にしても仕方ないか。殺しにかかってくる相手に、手を抜くのは良くない。俺に何かあれば、みんなが悲しむんだから。最悪、俺のいないところで犠牲になる可能性すらある。
そうなるくらいなら、どれだけでも殺そう。どの道、手段を選べる状況でもないのだし。
「ぎゃあああっ!」
「ば、化け物……!」
こちらに怯えた目を向けてくる相手もいる。だが、関係ない。敵に容赦をすれば、俺の仲間が危なくなる可能性があるんだ。
俺が失敗して被害を受けるのは、おそらく俺ではない。だからこそ、残酷な手段だろうと。そういうものだよな。
「そっちから攻撃しておいて、なんて言い草だ。いや、攻めてきたのはこっちか」
適当なことを言いながら、魔法を放ち続ける。そうしたら、大将らしき相手が出てきた。なんというか、明らかに衣装が違う。
そのまま、俺を睨みつけてきた。俺は、魔力を練り込んでいった。
「貴様ごときに、好きにはさせんぞ! 我が魔法、受けてみよ!」
そう言って、闇魔法が飛んでくる。といっても、ただ魔力をぶつけてくるだけの魔法ではあるが。洗練とは程遠い、つまらない技だ。
とはいえ、油断は禁物。しっかりと叩き潰すつもりで、魔法を返す。
「闇の刃!」
「なっ、こんなことが……。負けるものか!」
奮起している様子で、更に魔力を高めてくる。中々大きな魔力で、サラとかシュテルよりは明確に多いと分かるレベル。
ただ、振り絞ってその程度だというのなら、俺の敵ではないと感じるレベルでもあった。
ひとまず、やることは変わらない。ただ正面から打ち破れば良い。
「じゃあ、もう一発だ。闇の刃!」
「まだまだ……! なっ、体が……! あががが……」
敵が更に魔力を引き出そうとしていた。それと同時に、段々と体が膨れ上がっていき、黒く染まる。形がだんだん歪んでいって、崩れかけの獣みたいな姿になった。
闇をまとっている獣。それはつまり。
「これは、邪神の眷属? いったい、なぜ……。いや、そうか。ミュスカが言っていた……」
「ギャアアアア!」
邪神の眷属は、激しく吠える。それを受けて、俺は構え直す。とにかく、倒さないことには何も無い。
眷属というのは、言葉が通じる相手じゃない。こうなってしまえば、問答することもできない。より悪い変化をすることも想定して、素早く倒さなければ。
「いや、考えるのは後だ! 闇の刃!」
魔力の刃を叩きつけて、それから爆発を引き起こす。土煙が舞い上がり、少しして晴れる。その裏に、無事なまま生きている眷属の姿が見えた。
ところどころに傷はあるものの、こちらに向けて歩いてきている。普通の敵なら、一撃で倒せるような魔法を直撃させたにもかかわらず。
「通じていない……? いや、無傷ではないか。なら、別の技で! 無音の闇刃!」
今度は剣に魔力をまとい、斬撃とともに叩きつけていく。剣が当たると同時に、魔法が安定しなくなった。
敵は前足のようなものを叩きつけてくる。魔法で受けることはせず、全力で避けた。
「これは……。魔力操作を乱されているな……。さて、どうしたものか」
敵は攻撃を続けてくる。魔力を乱されるということは、防御を貫かれる可能性があるということ。剣で弾いたり避けたりしながら、対処を考える。
とにかく、情報を集めないといけない。がむしゃらに当たっていっても、負けるかもしれない。
「俺が担当して、正解だったみたいだな。もう少し、検証するか。無音の闇刃!」
何度か魔法の形を変えつつ、いろいろとぶつけていく。圧縮してみたり、薄くしてみたりしながら。
圧縮すると乱れは少なくなるような感覚があり、薄くしたら奪われかける瞬間もあった。ひとまず、何の対策も打てない相手ではない。それが分かっただけでも大きいな。
「次はこっちだ! 闇の刃!」
とりあえず、圧縮しながら刃を叩きつける。まだ、完全には通じない。おそらくは、同じことを続けていても勝てる。
だが、今回で対策をできれば、次から同じような相手と戦う時に楽ができる。そうすべきだと、俺の直感が告げていた。
ひとまず、魔力の密度分布を変えた魔法を放ってみる。すると、明らかに敵の対応が遅れた。
「なるほどな。エリナを相手にする時と同じ感じで良さそうだ。なら……。闇の刃!」
あえて魔力に揺らぎをもたせたものを、叩きつけていく。ひとまず、大きな傷跡を残せた。ジュウジュウという音を立てながら修復しているのも見える。
たぶん、持久戦に持ち込んでも良い。だが、もっと素早く消耗を抑えて倒す手段が、俺にはあった。
魔力に干渉されるのなら、最悪の事態を考える必要があった技。それを、遠慮なく撃てるのだから。
「よし、見えた。後はいけるな。剣魔合一!」
魔力との合一をして、空間全体を切り裂いていく。これに干渉されると、俺自身が元に戻れなくなる可能性があった。それどころか、死んでいたかもしれない。
だが、魔力の乱れを意図的に作ることで、相手からの干渉を抑える。それだけで、真っ二つにすることができた。そして、敵はだんだん崩れ落ちていく。
「ふう、なんとか片付いたか。一体でこれとなると、複数は厳しいか……?」
少しだけ、息をつく。そうしていると、通話が届いた反応があった。すぐに出る。
「レックス君! 大変なことになっているの! 私の部下たちが、邪神の眷属になっちゃって!」
「なんだって!? 分かった、すぐ行く!」
王女姉妹に、とんでもない危機が訪れている。今すぐに飛んで、助けに行かないと。
剣を握る手に、力が入る。どこか、震えているような気がした。




