528話 ミュスカの信頼
私は、ミーアさんに協力を求められて、闇魔法を活かして戦うことになったよ。といっても、レックス君ほど多方面に動くことはない役割なんだけど。
できるかできないかで言えば、できるんだけどね。私にとっては都合が良いから、レックス君に任せることにしたんだ。
私には、やりたいことがある。一時的にレックス君を苦しめることになるんだけど、それでも。
だから、準備をしないとね。最高の部隊を整えて、私の望みを叶えるために。
転移した先は、あまり手入れされていない砦みたいな場所。ここを利用している相手が、狙い目。
「さて、始めようか。私がここを選んだおかげで、ちょうど良い実験ができそうだね」
大事なのは、私がどこまで自分の性能を発揮できるのかを確認すること。かなりブランクがあるから、慣らし運転は必要なんだ。
私は、闇魔法使いで最強になれる。それは、単なる事実。別に、強くなることを求めているわけではないけれど。
レックス君を超えたいという目標も、昔はあった。けれど、今はどうでもいいからね。もっと大事なものを、見つけたから。私の、本当の願いを。
だから、なんだってできる。とても、単純な話だよ。
砦には、門番みたいな人がいた。そこから、まずは始めていくよ。
「こいつが、やってくる敵とやらか? ただの小娘じゃねえか」
あざけるような笑いを浮かべながら、私に近づいてくる。どうせ末路は決まっているけど、処分を早める理由になるかな。
私は、レックス君以外の男になんて触れられたくない。それを、思い知らせてあげないとね。
「試させてもらおうかな。闇の刃」
レックス君がよく使う魔法。魔力を刃の形に凝縮して相手を切り裂き、それから抑えを解き放って爆発させるもの。フィリス先生の魔法を参考にした技。
剣技が関係する魔法は、今の私には真似できないんだけど。でも、他の技術は再現できそうだね。
「なっ、やみまほ……」
それだけ言い残して、最初の敵は死んじゃったみたい。まあ、多少強かったところで、私の前では関係ないし。
仮に五属性使いだろうと、私の敵にはなり得ない。ただの兵士がどうなるかなんて、明らかだよね。
闇魔法の本質に、私はたどり着いた。いつか、レックス君にも教えてあげたいな。きっと、驚いた顔が見られると思うんだ。
とりあえず、今は目的を達成することが先だけれど。敵は闇魔法だって気づいたみたい。それなら、いけそうだね。
「分かるあたり、闇魔法を見たことあるみたいだね。うん、予定通りかな」
まあ、気配を探れば闇魔法使いが居るかなんてことは分かるんだけど。でも、どういう使い方をしているかも分かったし、情報としては十分。
ということで、闇魔法使いの場所まで進んでいくよ。立ちふさがる敵を、皆殺しにしながら。
その先には、偉そうな顔をした男がいた。私の姿を見て、腕を組む。道化にふさわしい姿で、ちょっと笑いそうになっちゃったよ。
「この俺の偉大な力を、授かりに来たのか?」
闇魔法を、最近手に入れた人。邪神の眷属によって、与えられた人。それを言わない見栄は、どこから来ているんだろう。不思議なものだよ。
まあ、どうでもいいんだけど。私のやることは変わらないし、相手の末路も変わらない。
せっかくだから、軽く遊んであげても良いかな。どんな風に踊るのか、見せてもらおう。
「ふふっ、与えられているものとも知らずに、単純だね」
そもそも、闇魔法は邪神によって与えられているもの。今となってはおとぎ話のようなものだけれど、確かな現実。
私の言っている意味は、邪神の眷属によって得た力を振り回すことを笑っているだけなんだけどね。
実際、敵はすぐに顔色を変えてきた。真っ赤になって、分かりやすい。次あたり、私に攻撃しようとしてくるのかな。無駄だとも知らずに。
「貴様……何を知っている!?」
ほんと、単純だよね。この程度の知性じゃ、情報を隠すことすらできないんじゃないかな。
まあ、仮にどれだけ演技がうまくても、私の目からは逃れられないんだけど。そういう意味では、無駄な努力をしなくて済んだのかな。
別に、どっちでも良いんだけど。目の前の人に、そんなに興味なんて無いんだし。
ひとまず、さっさと終わらせちゃおう。これ以上遊んでいても、得るものはなさそうだから。
「なんでも、かな。急に湧いてきた力に溺れていることも、他者に与えられるのがあなたじゃないことも」
目を白黒させて、私を見ていたよ。図星なのが、見るからに分かる。レックス君なら、不敵に笑うくらいはするはずだけど。
とはいえ、レックス君が何を考えているかなんて、いつでも読めるんだけどね。もし敵対したら、たぶん簡単に殺せちゃう。絶対にしないけどね。
ただ、目の前の相手を殺すことには、何の抵抗もないかな。私は、レックス君が思う以上の悪女だから。
「知っているのなら……死ね!」
魔力を集めて、敵は攻撃しようとしてくる。それを見てから私が動き始めても、先手を取れた。
「魔力奪取。私に闇魔法で抵抗するなんて、無駄なのにね」
相手の魔力を奪うのは、もう息をするようなもの。その気になれば、遠くにいるレックス君からも奪えるくらいなんだし。やる意味はないけど。私は、レックス君には闇魔法を思う存分に使ってほしいし。
だけど、目の前の男は違う。闇魔法には、ふさわしくないんだよ。
「あっ、魔力が……俺の……力が……」
そう言って、枯れ果てていく。あっけない最後だったね。降って湧いた力に溺れて、ろくに研鑽もしなかったんだろうし。
せめて、いろんな応用を見つけ出すとかしてほしいものだよ。せっかく、便利な魔法なんだから。
「じゃあね。あなたの仲間も、すぐに同じ場所に送ってあげるよ」
何も答えないまま、相手は事切れた。用心棒をしていたみたいだから、特に抵抗もなく進んでいけるはず。
そういうことで、私は砦の奥へと突き進んでいく。そして、最奥の部屋にたどり着いた。
「なっ、あいつがやられたのか!?」
「に、逃げ……」
「闇の刃。うん、やっぱり便利な技だね。さすが、レックス君」
雑兵なんて、草を刈るより簡単に殺せる。むしろ、草刈りの方がよほど大変なくらい。
そのまま部屋の奥に向かうと、闇が膨らんでいくのを感じたよ。そして、黒い獣が飛び出してくる。
「邪神の眷属……。今の私に、逆らえるはず無いよね? お願いだから、自害してね」
私が命じるだけで、簡単に事切れる。以前とは大違い。レックス君に助けられた時もあったっけ。あの時は、力にも目覚めていなかったからね。でも、それで良かった。
私は、助けられることで初めて自分の想いを知ることができたんだ。誰かを好きになる幸せを、教えてもらえたんだ。
だから、私のすることは単純。最終的には、レックス君だって喜んでくれるよ。そうなる運命だから。
「ふふっ、楽しみだな。レックス君が、もっと私を求めてくれる瞬間が」
今の力では足りないとなれば、もっと力を求める。その瞬間に、私は手を差し伸べるだけ。
もちろん、ミーアさんやリーナさん、他の仲間を傷つけさせたりなんてしないよ。悲しませたいわけじゃないからね。
でも、レックス君は気付くかもしてない。そうしたら、何を選ぶのかな。
「私の全部を知ったとしても、受け入れてくれるよね? そうじゃなかったら……」
私は、おかしくなっちゃうかもね。でも、きっと大丈夫。
だって、私はレックス君を信じているからね。




