表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
15章 作られる未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

528/570

527話 フィリスの祈り

 私の魔法は、レックスが頼るに足るだけのもの。それは、現状が証明している。師であるからといって、実力が不足する相手には任せない。そう判断するのが、レックスだから。


 つまり、今でも私はレックスの師として立つだけの価値があるだけの存在。無論、それに甘えるつもりはないけれど。


 どこまでも成長するレックスの先を見るためには、私だって成長しなければならない。完全に置いていかれた時点で、師としての権利は失うのだろうから。


 いつまでも、尊敬してくれるとは思う。それでも、私が教えることはなくなる。だから、まだまだ立ち止まるつもりはない。


 そのためにも、くだらない争いに時間をかけていられない。研鑽のために、私は魔法を追求したいのだから。


 レックスの魔法で、私は敵陣の前に転移した。それで、すぐに終わらせることに決めた。


「……殲滅。時間をかけるつもりはない。五曜剣(チェインブレイド)


 五属性の魔力を収束させて、刃を作る。敵陣に叩きつけて、魔力同士の反発を解放させる。それだけで、敵陣もろとも爆発で吹き飛んでいく。


 私の切り札とも言える、最強の魔法。私の代名詞。レックスが使う魔法の、基礎になったもの。


 ただの一撃で、敵陣は更地になった。それでも、まだ終わっていないと私の勘が告げていた。


「……感覚。闇魔法の気配。あるいは、邪神の」


 闇魔法を使って、私の魔法を防いだのかもしれない。だから、まだ生きている存在が居るのだろう。


 だとしても、負けることはない。レックスほどの気配は感じないし、問題なく対処できる範囲ではある。


 もっと威力を高めれば、あるいは連撃を叩き込めば、いずれは防御が尽きる。ただ、もっと良い手段を私は持っていた。


 レックス以外の人間がたどり着いた、新しい可能性。私の知らなかった世界。


「……対処。私には、新しい手札がある。無謬剣(カオスブレイド)


 五属性の魔力とひとつになって、空間ごと敵を切り裂いていく。魔力の結合も、阻害しながら。


 それだけで、簡単に敵の防御を貫くことができた。もはや、ただの闇魔法使いは私の敵ではない。レックスほどの規格外でなければ、問題ない。


 だからこそ、私の胸はざわついていた。抑えなくては、暴れ狂いそうなほどに。


「……死亡。ただ、何も終わっていない。レックスに、手が回るかもしれない」


 そう。レックスは圧倒的な才能を持っている。それゆえに、邪神の土台としてふさわしいのかもしれない。


 あるいは、レックスこそが狙いなのではないか。そんな予感があった。事実に近いと、確信していた。なぜなら、闇魔法使いが敵にいるという情報はなかったから。


 闇魔法使いというのは、国によって監視されている。そう簡単に、逃れられるものではない。つまり。


 手が震えるのを感じた。私の中で、感情が膨らみ続けていた。


「……不安。そう、私は不安。レックスを、奪われないか」


 邪神がレックスを狙っているのなら、闇魔法に頼ることは危険極まりない。むしろ、私のような存在こそが鍵になるはず。


 おそらく、だからこそ引き離す策が取られた。ただの妄想とは思えないほどに、芯を突いていると感じた。


「……転移。レックスと、遠ざけられてしまった。まずい」


 レックスが転移を使わなければ、私は戻ることができない。少なくとも、一瞬では。


 最悪の場合、転移で火山の中に移動させられる可能性もある。現状では、警戒しすぎて損とも言い切れない。


 仮に私が死ぬようなことがあれば、それこそレックスは堕ちる。最悪に備えるのは、必然だと言えた。


「……対応。通話だと、見抜かれるかもしれない。どうすべきか……」


 通話の魔法も、闇魔法によるもの。警戒しろと告げれば、邪神の行動を加速しかねない。そもそも、伝わらない可能性もある。


 私にできる最善は何か。全力で、頭を回し続けていた。結論は、単純なもの。


「……移動。できるだけ早く、レックスのもとに」


 私にも、移動に使える魔法はある。空を飛ぶことも、容易。転移と比べれば数段落ちる移動手段だというだけで。その差が、致命的な差になりかねないだけで。


 どうか、ただの警戒し過ぎであってほしい。無駄だと分かっていて、願った。少なくとも、邪神の眷属は今回の戦いに関わっている。それは間違いないのだから。


 他の仲間は、闇魔法使いに当たったのだろうか。だとすれば、情報はどこまで伝わっているのだろうか。


 本気で対策を考えるほど、私がレックスに頼ることが危険だと理解できてしまう。なにせ、邪神は闇魔法使いを誘惑する。それができる程度に、精神に干渉できるのだから。


 つまり、レックスに対策を知らせないまま、どうにかしないといけない。それが答え。


「……思考。邪神が居るとして、狙いは何なのか」


 あるいは、ミュスカを狙っている可能性もある。王家、あるいはミーアが狙いの可能性もある。


 けれど、おそらくは違う。仮に2つのうちどちらかだとしても、対処は必要ではあるけれど。レックスにとって、仲間を失うことは耐え難い苦痛。それが、邪神に意思を奪われるきっかけになりかねない。


 そう。やはり、ひとつの狙いに収束するのだと思う。それが、私の出した答え。


「……本命。レックスの体を奪おうとしている可能性が、高い」


 邪神が誘惑して、レックスが受け入れる。そうなってしまえば、終わり。


 無論、レックスはそう簡単に誘惑に落ちたりしない。ただ力を求めさせただけでは、何も起きないはず。


 けれど、邪神だって無策ではありえない。レックスほどの才能を前にして、ただ他の相手と同じ手段を使うだけなんてこと。


「……不覚。いま手を出されては、生み直すこともできない」


 レックスの肉体も魂も、私は手に入れられない。子宮に取り込むことは、今からではできない。


 つまり、レックスが乗り越えないことには、どうにもならない。厳しい現実が、私の前に立ちはだかっていた。


「……無力。最高峰の魔法使いだとか、何の意味もない」


 今この瞬間にこそ、欲しい力。それを持ち合わせていないのだから。ただ、だからといって何もしないなんてことはありえない。


 できることを、全力で。そうした先の未来で、レックスの力になれる可能性があるのだから。


 無駄に終わる可能性が高いとしても、関係ない。私は、レックスだけは失いたくない。それだけのこと。


「……加速。とにかく、レックスに会わないと」


 全力で、魔力を放出していく。たどり着いた先で戦闘できる、ギリギリまで。


 そうでなければ、間に合うことはない。レックスがどれだけ抵抗したとしても、結果は出ている。


「……警戒。レックス、気を付けて。何か、策があるはず」


 邪神の考えることは、分からない。それでも、確実にレックスを手に入れる算段を整えているはず。楽観視なんて、できるはずもない。


「……誘惑。力を求めるだけの状況を、作り出すこと」


 レックスが力を求める理由なんて、決まりきっている。私にも分かる。誰にだって分かる。


 だったら、敵のやることは単純。私自身も、気をつけないといけない策。


「……危険。レックスの守りたいものに、必ず訪れる」


 そして、失う危険を感じさせるのだろう。力さえあれば、守りきれると。心に隙ができた時、邪神は呼びかける。万全の準備を整えて。


 全力で飛んでいくけれど、分かっていることがあった。現実を、突きつけられていた。


「……祈願。どうか、負けないで。私は、間に合わない」


 そうだとしても、何かできないか。そう、頭を回す。軽く、思い浮かぶものがあった。


「……合一。レックスに私そのものを送り込めば、可能性はある」


 魔力と合一することで、レックスの体に侵入する。闇の魔力を侵食するのに近い形で。


 レックスの魂さえ残っていれば、それだけを奪い返せば良い。他のものなんて、どうでもいい。


「……憤怒。誰が相手でも、レックスを奪わせたりしない」


 けれど、私が守ることはできないのだろう。


 レックス。あなたのいない未来に、価値なんてない。だから、お願い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ