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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
15章 作られる未来

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520話 カミラの優しさ

 あたしは、バカ弟の転移を使って敵陣に移動する。その先には、男が座っていたわ。物音がしたみたいで、こちらを向いてくる。目をひん剥いて、口をパクパクさせていたわね。


「な、何者だ!」


 とにかく、困惑が見て取れる。つまり、作戦は成功だったということ。周囲の様子や服装からして、将でしょうね。陣地の中でも重要な場所なのは、すぐに分かる。それに、儀礼用という趣の強い服装だったもの。


 転移用の魔道具を運んだ人員は、かなりうまくやったみたい。ちゃんと将の居場所に設置できるあたり、相当な手練れでしょうね。


「なるほどね。ま、楽なものか。迅雷剣(ボルトスパーク)!」


 魔法を発動して、加速しながら剣を振り抜く。それだけで、敵の首は落ちていったわ。


 あまりにも手応えがなくて、影武者かと思ったくらい。だけど、決済に必要な印もあるし、服に勲章も着いている。実務をこなしていたと見るのが、妥当よ。


「あっ、が……」


 そんな声を、残していたわ。顔には、最後まで困惑が張り付いていた。結局のところ、何一つとしてできないまま死んでいった。哀れなものね。


 まあ、どうでも良いのだけれど。敵の人生なんかに、興味なんてないわ。私が切って、それで終わりというだけ。


「さて、大将首は取れたけど。ま、もう少し片付けていきましょうか」


 戦力を削るという意味でも、ひとりの将だけを暗殺する程度なら足りないわよね。頭をすげ替えれば、それで済むのだから。


 変わりの将が出せない程度には、削っておかないと。あたしの役割を達成するためにも、執務室らしき場所から出ていったわ。


 門番らしき兵は、あくびをしていた様子。こちらを見て、目を白黒させていたわね。


「ど、どうしてそこから!」

「迎え撃……」


 敵が声を出し切る前に、首を落とす。ただ単純な、流れ作業。防御どころか、反応すらできていない有様。笑えそうったら、ありゃしない。


 こんな雑兵がいくらいても、王家に対抗なんてできないでしょうに。バカ弟かフィリスが居れば、それで済む程度の話よ。


 とはいえ、バカ弟は被害を抑えたいのでしょうし。ま、やるしかないわね。


「ほんと、遅すぎるわね。退屈すぎて、あくびが出そうよ」

「何があった! 報告を!」

「なっ、何事……」


 騒ぎを聞きつけてやってきた兵も、あっけなく殺してしまえる。あたしの顔すら見られていないような相手も、いたみたい。


 本当に、何も考えなくて良い。工夫すら必要なくて、ただ剣を振っているだけですべてが終わる。内容の分かりきった本を読むより、よほど退屈な時間と言えたわ。


「……はぁ。虫を潰す方が、まだやりがいがありそうね」


 ため息が出たけれど、まあ仕方ないわ。仕事っていうのは、楽しめるとは限らないんだもの。予行練習と思うべきよね。


 退屈だろうとも、給金相応の仕事をする。そういうものだって聞くもの。今回のは、良い慣らしかもね。


 一応、バカ弟の様子を確認する。あたしとバカ弟のつながりから。でも、まだ戦っているような雰囲気だったわ。つまり、転移で別の場所にはいけない。


「さて、どうしましょうか。バカ弟は、まだ動けなさそうだし」


 あたしとしては、どう進んでも良いのだけれど。次の場所に向かうとしても、この場で残党狩りをするにしても。どちらにせよ、そう変わりないでしょうし。


 昔みたいに苦戦したいとは思わないけれど、どうしてもつまらない部分はあるわ。これが、バカ弟の感じているものでもあるのでしょうね。だからこそ、退屈に負けるわけにはいかない。バカ弟に置いていかれるなんて、許せない。


 ほんと、仕方ないわ。あたしの選ぶべき道は、もう決まっちゃっているのよね。なら、少しでもバカ弟の負担を減らしてあげますか。


「ま、良いか。適当に、皆殺しにすれば」


 剣を手に、ひたすら駆けていく。目に入った敵を、ただ切り捨てながら。それだけのことで、みんな倒れていく。


 あたしの剣に、誰も抵抗できない。何をしたところで、あたしには通じなかった。


「に、逃げ……」

「た、助けて……」


 逃げようとする相手も、命乞いをする相手も。ただ殺すだけ。慈悲なんて、向けたりしない。


 そうしたら、敵の心は折れていったみたい。なにひとつせず、死を受け入れるだけの存在まで生まれた。


 膝から崩れ落ちて、ブツブツ言っているだけのやつとか。目を閉じて、ただ震えているだけのやつとか。


「せめて、まともな抵抗をしてほしいものね。これじゃ、あたしが悪役じゃない」


 そんなこんなで、ほとんどの敵は片付いていったわ。後は、残りを探して殺すという段階。もはや、勝ち負けの段階は終わったわ。


 誰一人として、あたしに逆らえるものはいない。それだけの、単純な話。


「ま、別に良いけど。どうせ、バカ弟の敵になるんだし。なら、あたしの敵だものね」

「みんなのかた……」


 剣を向けてきた相手も、あたしの剣に反応すらできなかった。ただ、首を落とされるだけ。何も残せず、ただ同じところに行っただけ。


 本当に、呆れるくらい弱い。かつてのあたしと比較してすら。


「バカ弟なら、反撃くらい返してきたんだけどね。ほんと、どうしようもないやつら」


 バカ弟なら、迅雷剣(ボルトスパーク)程度で倒れることなんてなかった。それどころか、今では通用しないでしょうね。


 なのに、その程度の技で全滅させてしまえる。あたしの乾きは、深まるだけよ。


 やっぱり、あたしにはバカ弟が必要。それを、あらためて理解する羽目になったわ。あたしの全力をぶつけられる相手って、貴重だったのよね。


「まだ、バカ弟は終わらないのね。もう、こっちは片付いたわよ」


 通話も飛んでこない。転移の準備も、始められていない。苦戦しているわけでもないのに。また、ため息をついたわ。


 どうせ、バカ弟のこと。虐殺だなんだと言って、手を緩めているんでしょう。ほんと、仕方のないやつよ。


 それに、わざわざ戦力を集めたことも。どこに、必要だったというのかしらね。


「この程度の敵なら、いくらいても関係ないわ。バカ弟も、過剰なものね」


 同時に攻められないって言ったって、そもそも通話はできないんだし。伝令を飛ばすにしても、限度はある。バカ弟の転移を繰り返すだけで、終わったでしょうに。


 ミーアやリーナには、何か意図があるんでしょうけど。付き合わされる方は、たまったものじゃないわ。


「ま、良いわ。弟の頼みを聞いてあげるのが、お姉ちゃんだもの」


 まだ時間はあるし、バカ弟の役に立つことでもしておきましょうか。まったく、優しい姉だこと。頼まれていないことまで、わざわざしちゃうんだから。


 どこを探したって、あたしほどの姉はいないでしょう。その弟に生まれた幸運を、よく噛みしめることね。


「そうね。一通り、ちゃんと焼いておきましょうか。そっちの方が、後始末も楽だものね」


 死体の処理って、案外面倒だものね。雷があれば、燃やすなんて簡単だし。ひとまず、軽くこなしておきましょう。


 そう考えて、あたしは動き始めたわ。


「ほんと、良いお姉ちゃんを持ったものね。泣いて感謝しなさいよ、レックス」


 そうしたら、しっかりと抱きしめてあげるわ。あんたが、あたしの体温を忘れられないくらいに。

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