515話 考えられる策
ミーアのもとに転移するにも、やはり最低限のすり合わせは必要だ。ということで、ある程度具体的なことを言わずに、転移のタイミングだけを指示してもらった。そして、転移していく。
今回は、ミーアの私室みたいだな。ベッドに座ったミーアとリーナが出迎えてくれた。前よりも隠している感じは少ないが、まあ動き出すタイミングが近いことも考えれば妥当だろう。どうせ、動けば気づかれるのだから。
ひとまず、うながされるままに俺はベッドに座る。そして、3人でゆっくりと話していく。
「レックス君、とりあえず途中経過を報告するわね」
「近衛騎士とアストラ学園の関係者には、協力を取り付けました。ひとまず、最低限の戦力は整ったかと」
つまり、カミラとエリナにハンナ。そしてセルフィとミュスカにフィリスは協力するということだろう。そうなってくると、俺の知り合いではひとりだけ参加していない人がいることになる。ルースだ。
まあ、敵に回っているということはありえない。何かしら理由があって参加できないのだろう。ちょっと心配になるところだ。トラブルでも起きていたりするのだろうか。
とにかく、まずは確認だな。考えるのは、それからでいい。
「ルースはどうしたんだ? こっちに協力できない事情はあるのか?」
「状況が状況だから、自領を守ってもらうことにしたわ。そっちの方が、結果的には良いはずよ」
「そうか。王家とも近しい家だからな。狙われたとしても、おかしくはないのか」
俺の言葉に、リーナが頷く。王派閥の公爵令嬢で、領地も王都に近い。王家に攻め入ってくる相手から狙われる可能性は、かなり高いだろうな。
だったら、参加できない理由としては納得できる。むしろ、手助けが必要ないかが心配なくらいだ。
とはいえ、こちらにも余裕は大きくない。よほどのことがない限り、大きくは動けない。本当に、悩ましい。
まあ、通話もあるのだから、本気で危ないのなら連絡してくるはず。そう信じよう。少なくとも、ミーアとリーナに話を通す程度の余裕はあるのだから。
「戦力が欠けるのは痛いですけど、それで味方を失うのは愚かですからね」
「確かにな。まあ、こっちは一通りの戦力を集めているんだが」
「ありがとう、レックス君。それで、相談があるのだけれど。作戦を考えるのを、手伝ってほしいの」
「レックスさんの右腕である、ジャンさんやミルラさんにもですね。万全を期したいですから」
ふむ。本格的に作戦を練るとなれば、確かに力を借りたい相手ではある。俺としても、相談できるのならありがたい。
今回は全面的に協力してくれる予定だし、ありだな。よし、やろう。
「分かった。じゃあ、呼んでみるよ。今すぐで良いんだよな?」
「ええ。できるだけ早く、作戦を考えたいもの」
ということで、軽く連絡だけして呼び出していく。ジャンとミルラは、相変わらず落ち着いた様子だった。ふたりは軽く一礼だけして、すぐに話し始める。
「ふむ。僕たちの力が必要ということは、魔道具を運用した策をということですかね」
「そうね。私たちは詳しくないから、それを固めてほしいの」
どういう頭をしていたら、呼び出しただけで状況を理解できるのだろうか。俺にはまったく分からない話だ。とはいえ、頼りになることは間違いない。
しかし、魔道具か。色々と種類もあるし、使い方にも幅がある。そう簡単に有効活用できるものではないだろう。今後、配備されて訓練に取り入れられれば話は別だが。
いきなり銃を渡して戦わせたって、間違いなく誤射とかで大変なことになるからな。十字砲火みたいな基本すら守られないことは間違いない。どう考えても、被害が大きくなる。魔道具だって、似たようなものだろう。
「とはいえ、単純なものがよろしいでしょう。複雑な運用には、無理がございますから」
「渡してすぐに使いこなせるかと言われれば、間違いなく違いますからね。まったく、面倒なものです」
ミルラとリーナも、同じ見解みたいだ。なら、話は早いな。使える使えないで押し問答する時間が無くなる。
「こちらでも想定していたので、策はあります。兄さんが中心になるんですけど」
「ふむ。つまり、闇魔法を使うということか?」
「その通りでございます。闇の魔力を込めただけの魔道具を用意し、転移の目印とするのです」
「なるほどね。運びさえしてしまえば、レックス君の転移で戦力を運べるわね」
確かに、単純極まりない。そもそも道具として使いすらせず、魔力が入ったものとしてだけ運用する。とても分かりやすく、それでいて有効だろう。
闇の魔力があれば、そこを軸に転移できる。だから、運んだ時点で勝ちというのも良い。本当に、良い策だ。俺には思いつかなかったが、正直感心した。
「問題は、どうやって運ぶかということですけど。そこまで、考えているんですよね?」
「もちろんです。個人として潜り込めさえすれば、そこに転移できるようにします」
「サラさんやシュテルさん、セルフィさんに任せるのがよろしいかと存じます」
「そうね。いざという時に戦える力は、必要だもの。とはいえ、3人では少ないわね」
まあ、敵陣に潜り込むわけだからな。決死隊を送り込むという手も無くはないが、できれば避けたいことのはずだ。というか、みんなが死ぬ前提の策なら賛成なんてとてもできない。
とはいえ、手段はいろいろとあるだろう。魔法を使って隠れるとか、身分をごまかすとか。俺でも思いつくくらいなのだから、ジャンやミルラならもっとだ。
なら、まあ成功の目算はあるということになるはずだ。どの道、転移は有効活用したかったし。
「一応、王家からも人員を出しましょう。失敗したとしても、最低限の役割は果たせます」
「まあ、敵陣の中に転移できるか近くに転移できるかの差だからな」
「そういうことです。特に兄さんの仲間は、いざとなれば兄さんが呼び寄せられますから」
「失敗への備えもしてこそ、策というものでございます」
なるほどな。最悪の状況にはならない。そういう策を練ってくれたわけだ。みんなが魔道具を設置していなくとも、魔道具だけ転移の対象から弾くという手もある。壊されようが、関係ないのだから。
そう考えると、どこまでも有効な手だという感じがするな。流石はミルラとジャンだ。策を考えさせたら、右に出るものはいないだろう。
ミーアも頷いているので、納得してくれたみたいだ。
「分かったわ。じゃあ、それで行きましょう。みんなを集めて、話をしないとね」
さて、何事もなければ良いのだが。ひとまず、今回の策が成功するかどうかで大きく状況は変わるだろう。成功することを、祈っておくとしよう。




