514話 いずれは出すべき答え
今の俺がやるべきことは、転移を活用して戦力を集めること。その成果次第で、取れる戦術から結果まで、大きく変わってくるはずだ。
ということで、まずはブラック家の人間に声をかけていく。
「サラ、シュテル。お前たちには、後方支援を手伝ってもらいたいと考えている。構わないか?」
「なでなでと抱っこが待っているのなら、それで十分」
「私は、レックス様のお心に従うだけです! どのようなことでも、お命じください!」
いつも通りのサラとシュテルで、なんだか安心できる。願わくば、単なる日常で同じことを感じたいものだが。そのためにも、みんなが無事に勝てるようにしないとな。
とにかく無事であってくれさえすれば、他のものはいくらでも取り返せる。だから、命が一番大事。
とはいえ、最善を目指す努力だって忘れてはならない。みんなの力も借りるんだから、なるべく良い結果を残さないとな。
俺はふたりに感謝しながら、まずは強く頷いた。
「ありがとう。お前たちの想いには、必ず応えてみせる。みんなで、最高の未来を手に入れよう」
「もちろん。私にとっては、戦うより気楽。レックス様は、よく分かっている」
「レックス様の敵を葬れないことは、残念ではありますが。身の程は、わきまえているつもりです」
サラは淡々と、シュテルは強い眼差しを向けて語る。やはり、気を使ってくれている部分もあるのだろう。もちろん、それが悪いということではない。自分の意志を引っ込めるほどではないだろうからな。
ただ、しっかりとモチベーションを管理するのも大事なことだ。できるだけ、ふたりの心に寄り添っていきたい。
「後方支援だからといって、必ずしも安全ではない。気をつけてくれよ」
「分かっている。レックス様を、悲しませたりしない」
「お任せください。決して油断などいたしません。レックス様のために、全身全霊を尽くします」
強い意志を込めているのが、見て取れる。この調子なら、きっと大丈夫なはずだ。俺は少しだけ安心しながら、次への動きに移っていく。
今度は、ブラック家の外。まずは、王家から遠いところだ。近衛騎士とかアストラ学園の関係者は、王都に居るわけだからな。そこなら、もう動いている可能性もある。
通話に制限があるから、分かる情報にも限界があるが。とはいえ、まずは今の動きだ。フェリシアのもとに転移すると、たおやかに微笑みながら出迎えられた。
「フェリシア、お前のところには、伝わっているか?」
「いえ、直接は。ですが、動きから察することはできますわよ」
なるほど。ブラック家の動きか、あるいは敵の貴族たちの動きか。まあ、両方か。状況が分かっているのなら、まっすぐ伝えるだけでいい。フェリシアと目を合わせて、ゆっくりと話していく。
「なら、話は早い。王家に対する反乱を止めたい。力を貸してくれないか?」
「ええ。レックスさんの頼みであれば、是非もありませんわ。パートナーですもの」
「助かる。お前がいてくれるなら、大きな力になってくれるだろう」
「ふふっ、どんな対価をいただきましょうか。楽しみですわね」
そんな事を言いながら、悪い笑みを浮かべている。まあ、言葉でお礼だけするよりもいいとは思う。実際、必要な対価ではあるはずだ。
ただ、こういう笑顔をしているときのフェリシアは怖いんだよな。そこが、どうにも不安になる。
「できる限りのお礼はするが、無茶は言わないでくれよ……?」
「それこそ、結果次第ですわよ。ねえ、レックスさん」
「まあ、それもそうか。どれほどの負担になるかで、変わってくるものな」
「負担が大きければ、レックスさんの未来をいただきましょうか。ね?」
からかうように、小首を傾げている。楽しそうな笑顔が、大きく目に入ってきた。
俺は額に手を置いて、何度か首を振る。ちょっと、頭が痛い。
「ほんと、勘弁してくれ……」
「冗談ですわよ。今のところは、ね」
含み笑いを見せているのが、よく分かる。どう考えても、隠れた意図がある。だが、いま触れてしまうとまずい。爆発させるにしても、もっと後じゃないと。
今は逃げるのが正しいだろう。いずれ、逃げられない瞬間はやってくると分かっていても。答えを引き伸ばすだけの、安易な手だとしても。
「これ以上は突っ込まないぞ。まあ、よろしく頼む」
「ええ。私の力を、存分に見せて差し上げましょう」
そう言って、優雅な笑みを見せてくれた。きっと、本当に活躍してくれるだろう。戦場なんてまだ先の話だが、それだけは分かった。
ということで、フェリシアの協力は得られた。次の相手は、もちろん決まっている。そこに向けて、俺は転移していく。ラナは、薄くはにかんでくれた。
「ラナ、力を貸してほしいんだが、構わないか?」
「他の女のために、手を貸せと言うんですね。ひどい人です」
目の辺りに手を当てながら、ちょっと悲しそうな声を出される。反論もできない。
実際、ラナの気持ちが分かっていないとは言えない。そんな状況で、王女姉妹のために手を借りるわけだからな。ひどい男と言われても、仕方のないことだろう。
「そ、それは……。その……」
「ふふっ、冗談です。あたしが同じ状況になったなら、きっと同じことをしてくれますよね?」
ラナはそっと微笑む。俺のことを信じてくれているというのが、強く伝わってきた。
まあ、質問に関しては悩むまでもない。どんな状況だろうと、俺の答えは決まりきっている。
「ああ、もちろんだ。ラナのことは、大切な人だと思っているんだからな」
「それで許してしまうあたしも、あたしですね……。でも、良いですよ」
「助かる。ラナなら、きっとうまく敵を倒してくれるだろう」
「これまで、しっかりと鍛えてきましたから。他でもない、レックス様のために」
まっすぐな目で、見つめられる。ラナはこれまで、何度も俺を支えてくれた。だからこそ、しっかりと応えたいところだ。
俺だって、ラナのためにも頑張っていきたい。そうすることが、お互いのためになるはずだ。
「ありがとう。できる限りのお礼は、させてもらう」
「サラさんのように、抱っことなでなでをお願いしてみましょうか。それとも、もっと……」
唇のあたりをなでながら、色っぽい笑みを浮かべている。意図は分かるが、ちょっとまずい。もし他の誰かに伝わってしまえば、とんでもないことになる。
ひとまず、今回も先延ばしをするしかない。答えを出すのが誠実な態度なのだろうが、本当に自分でも分からないんだ。申し訳ないとは思うが、待ってくれとしか言えない。
もし仮に他の人を好きになるというのなら、それは仕方のないことだろう。当然の報いとして、受け入れるべきこと。
だから、今は俺のことを許してほしい。
「あんまり、厳しい要求はしないでくれると助かる……」
「まあ、今はまだ早いですね。あたしも、分かっています」
「そうか……。手加減してくれると、ありがたいな……」
「レックス様を困らせるのは、本意ではありませんから。ちゃんと、わきまえますよ」
そう言って、ラナはニッコリと笑った。
ひとまず、ブラック家に近いところの戦力は集められた。どうにかしてミーアに報告しつつ、状況を確認していきたい。
さて、どうなっているか。それによって、今後の対応が変わってくる。拳を握って、俺は気合いを入れ直した。




