513話 必要な判断
王家に対して起きた反乱。それを収めるためには、かなりの戦力が必要だろう。あちこちから敵が来ているということもあって、多方面で戦うことも求められる。
ということで、まずはブラック家から戦力を集める必要があった。必要な相手を呼び出して、話をしていく。
「メアリ、ジュリア。手伝ってほしいことがあるんだ。良いか?」
「お兄様が困る原因は、みんなやっつけちゃうの!」
「レックス様が望むのなら、それだけで十分だよ。任せて」
メアリは元気いっぱいに両手を上げて、ジュリアは握りこぶしを突き出している。どちらも、俺の意見を素直に受け入れてくれるつもりらしい。
だからこそ、真実をしっかりと話すべきなのだろう。俺のためというより、正確には王家のためだからな。そこを理解させずに戦わせようとするのなら、俺は人でなしだ。ただ人を利用するだけの存在でしかない。
少なくとも、大切な人相手にはまっすぐに向き合うべきだ。
「実は、王家に対して、大規模な反乱が起きているらしくてな。それで、戦ってほしくてな」
「分かったの! いっぱい殺せばいいだけなら、簡単なの!」
「ミーア様もリーナ様も、レックス様の友達だもんね。大丈夫だよ」
とりあえず、ふたりとも納得してくれているようだ。それなら、十分だろう。戦わせることは、避けられないだろうし。結局のところ、この世界で戦わずして何かを得ることはできない。なら、仕方ない。
ただ、絶対に守れるようにする。アクセサリーの防御魔法も、転移魔法も、それ以外も、最大限に活用して。どんな敵が来ようとだ。それだけは、譲れない。どんな手を使ってでも、達成すべきこと。
まあ、メアリもジュリアも実力者だから、そう簡単には問題にならないだろうが。
「ありがとう。まあ、まだ作戦も決まっていないんだが。どうするかは、未定だな」
「どんな作戦でも、やることは変わらないの! メアリの魔法で、片付けるの!」
「僕はそこまで器用じゃないからね。メアリ様と同じかな」
俺も、大して器用ではないんだよな。闇魔法の幅が広いだけで、そこまで考えて行動しているわけでもないし。いつも、敵を倒して終わっている。
理想を言えば、別の解決をすることなのだろう。だが、俺には理想に近づくための手段なんて思いつかない。だから、俺のやり方は決まっている。曖昧な未来のためにみんなを危険にさらすくらいなら、殺し続けるだけだ。それで良い。
「分かった。じゃあ、戦いの時になったらまた呼ぶよ」
ということで、ブラック家から直接出せる戦力についてはまとまった。後は、残りのブラック家がどう動くかだ。それに関しては、適任が居る。ということで、話に向かった。
「ミルラ、ジャン。他の方針は、決まったか?」
「僕たちも、手を貸すことになりそうですね。といっても、策を練るくらいしかできませんけど」
「魔道具に関して、こちらでも運用を考えてございます。それらを利用することも、手かと」
ジャンにしろミルラにしろ、戦力として期待するのは間違っている。強みは頭脳なんだから、それを最大限に活かしてもらうのが筋だ。
ということで、ふたりの役割を完璧に果たしてくれている。俺から言うべきことは、ほとんどない。
「実際、いろいろできそうだよな。こういう時のために作っていた部分はあるし」
「とはいえ、あまり多くは作れません。一般兵に配備することは、難しいと存じます」
「必要なのは、兄さんたちの動きを補助することです。その役割は、果たせますよ」
まあ、魔道具はまだ兵器として運用できるレベルには、なっていない。だったら、それを前提に策を練るべきなのは当たり前だ。
そして、今すぐ運用できる範囲でいうと、俺や仲間たちが使うくらいが限度だろう。そもそも、使い方を全員に覚えさせるだけで一仕事だ。量産面を抜きにしても、今すぐ一般兵が使えるものではない。
「まあ、そうだな。ジャンたちが思いついた運用も、必要になるかもしれない」
「できれば、使った段階で破壊したいところではあります。敵に奪われることは、避けたいですから」
「構造の分析は、容易ではありません。それでも、備えて損はないと存じます」
ふたりの意見は、とても先進的なものだと思える。実際、敵兵の持っている銃や戦車を奪って解析するというのは、よくある話らしいからな。それにたどり着く存在が居る前提で、対処すべきだ。
俺たちは、まだ抑制的に使える方ではあるだろう。だが、限度を知らない相手に技術が渡ることは避けたい。少なくとも、こちらで対抗できる手段を手に入れるまでは。
「民間人でも強い武器を持てるようなものだからな。お前たちの言うことは、正しいよ」
「はい。マリンさんたちにも、頑張ってもらう必要がありますね」
「どこまで稼働率を上げられるかの実験は、まだだよな。そうなると、あまり無理はさせられない」
「設備や人員に問題が出れば、通常時より遅れる可能性があるからでございますね」
「そのあたりは、マリンさんたちに任せましょう。言い含めておけば、無茶はしないはずです」
マリンたちにいきなり量産を命じたところで、設備も人員も整っていない。そんな状況で無理を言えば、当然のように破綻するだけだ。そして、信頼も失うだろう。
どの道、量産は難しい。なら、今は信頼や安全を取るべきだ。危機的状況ではあるものの、間違えてはいけない。
無理を命じれば量産できるというのなら、話は変わってくるかもしれないが。まあ、ないものねだりだ。
「無茶をして勝てるものでもないからな。なら、普通に頑張るのが妥当だ」
「そうですね。後は、サラさんとシュテルさんをどうするかですね」
サラもシュテルも、そこまで強くはないからな。直接戦闘を任せるには、不安があるところ。
とはいえ、ふたりを無視することは、運用面でも感情の面でも良くないだろう。なんだかんだで、優秀だからな。何を任せるかで、采配の腕が出てくるだろう。
「俺としては、直接戦わせたくはないな。正直、荷が勝つだろう」
「僕としても、同感です。主に補助的役割を持たせるのが妥当かと」
「魔法の運用次第では、罠を仕掛けたりもできるでしょう。そのあたりが無難と存じます」
まあ、そんなところだな。俺も、似たようなことを考えていた。具体的に何を任せるのかは、まだ定まっていないが。とりあえず、直接戦場に出さなくても、役割はある。それが分かっているだけで、意味がある。
例えば、伝令とか。そういう役割の人がいるだけで、大きく状況が変わるだろう。通話があるとはいえ、必要になる局面は否定できない。そもそも、アクセサリーを渡していないと使えないのだし。
まあ、今すぐ決めるべきことでもない。急いだ方が良いだろうが、急ぎすぎてもダメだ。しっかりと判断しないとな。
とはいえ、ジャンやミルラに任せるのが妥当ではあるはずだ。俺の役割は、あくまで話をつけること。それと、実際に戦うこと。そのふたつのはずだ。
「そうだな。じゃあ、ブラック家の役割は決まったということでいこう」
ふたりにも、しっかり話をしよう。そして、他の家に協力を依頼しないといけない。忙しいことこの上ないが、しっかりとやらないとな。




