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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
14章 抱え込むもの

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509話 ウェスの行き先

 わたしは、ご主人さまのメイドです。ですけど、元奴隷でもあります。その関係もあって、噂話には敏感なんです。周囲の機嫌を損ねないために、情報を集める。それが、日常でしたから。


 かつてのブラック家では、ちょっとした失言で命を奪われることもありました。ですから、情報を集める意識というのは、とても大事だったんです。


 もうひとつ、私は奴隷という言葉に敏感になっていました。自分の立場そのものでしたから。その結果として、とある情報を得ることになります。


 それは、ご主人さまの敵として潰れた家で、かつて雇われていた奴隷の話。当主が居なくなって、仕事を無くした人たちの話でした。


 わたしは、良い機会だと思ったんです。


「奴隷の行き場がなくなっているのなら、ちょうどいいですっ」


 同情の気持ちも、あったんだと思います。昔のわたしを思い出したことは、事実でしたから。ただ道具として使われて、捨てられる運命だった時を。


 けれど、それで本気で心を痛めるようなことも無かったんです。だって、言ってしまえば他人ですから。可哀想だと思って、それで終わる程度の話でした。


 ただ、頭の中で、何かがつながったような気がしたんです。だから、わたしはご主人さまにお話をすることに決めたんです。


「ご主人さまは、人が足りなくて困っていましたからっ」


 奴隷が行き場を無くしているということを、ご主人さまに話す。そうすれば、未来が決まる。そんな気がしていたんです。


 ご主人さまは、これまでずっと誰かを助けてきました。わたしのような奴隷も、学校もどきの人たちも。アカデミーの人たちも。その他にも、多くの人たちを。


 だから、分かっていたんです。ご主人さまが、胸を痛めるだろうことは。


「きっと、ご主人さまは皆さんを助けちゃいますよねっ」


 知ってしまったからには、手を伸ばそうとするでしょう。そして救われた奴隷たちが、ご主人さまに心から仕える。そんな未来を目指していたんです。


 ご主人さまは、信頼できる相手の少なさを嘆いていました。どうしても、敵が多いと。疑われてしまうと。なら、恩で感情を塗りつぶしちゃえば良いんじゃないかと考えました。


「お互いにとって損のない関係って、こういうことだと思うんですっ」


 奴隷たちは、安心して仕事ができる環境を手に入れられる。ご主人さまは、労働力と信頼できる相手を手に入れられる。


 もちろん、すべての人がご主人さまを信じるわけではないでしょう。それも、分かっていました。


 けれど、わたしの気持ちは、とっくに固まっていたんです。


「ご主人さまを裏切るというのなら、それはただの敵ですねっ」


 だから、ご主人さまの魔力を侵食させてあげればいいんです。裏切りに、すぐに気付けるように。ミルラさんやジャンさまが、即座に処分できるように。


 もちろん、わたしも手を下すつもりではありました。ご主人さまが悲しまなくて済むように、こっそりと。わたしの武器は、黒曜(ブラックバレット)は、そのためにあるんですから。


「ひとまず、ご主人さまに提案しましょうっ。ダメなら、その時ですっ」


 実際に話をすると、ご主人さまはすぐに動き始めました。奴隷たちをどうするか、ほとんど悩まずに。


 ご主人さまは、とっても優しいです。それを、あらためて知ることになりましたね。わたしを助けてくれた時から、ずっとそうでした。


「やっぱり、ご主人さまは助けようとしますよねっ。そんな人なんですっ」


 集められた奴隷は、一部は使用人として、一部は学校もどきの職員として、一部は魔道具工場での作業員として仕事をこなしていくことになりました。


 わたしやアリアさんは、使用人たちの教育も担当することになりました。大事な仕事ですから、手は抜けません。


 ご主人さまの素晴らしさをちゃんと伝えることは、欠かせませんでしたから。


「だからこそ、絶対に裏切らせたりしませんっ。わたしの幸せは、奪わせませんよっ」


 そのために、しっかりと体制を作っていきます。不穏な兆候を、ちゃんと見つけられるように。必要な時には、ちゃんと処分できるように。


 もちろん、ご主人さまのために尽くす人には、相応に良い目をみせることも考えていました。まあ、ご主人さまの優しさに直接触れられるのなら、それで十分だとは思うんですけれど。


 ただ、お給料やお食事なんかで差をつけるのも大事なことでした。より励めば、しっかりと報われる。そう示すことも、ご主人さまのお優しさですから。


 だから、それでも真面目に仕事をしないというのなら、もう見捨てるつもりでした。


「ご主人さまのものになる幸せが分からないのなら、その程度なんですっ」


 ご主人さまは、どこまでも大切にしてくれます。わたしたちの気持ちを、しっかりと尊重してくれます。わたしたちの幸福を、自分の幸福だと思ってくれます。


 そんな人を大事だと思えないような人は、どうしようもない存在。分かりきったことなんです。


「まずは、しっかりと教育していきましょうっ。お仕事と、ご主人さまの魅力を」


 ということで、使用人たちとしっかり話していきました。ご主人さまをどう思っているか、探りながら。


「あの人の魔力で満たされるためなら、あたしは……」

「だったら、頑張ってくださいねっ。きっと、ご主人さまは願いを叶えてくれますっ」

「そうよね……。あれだけの方なんだもの。釣り合うように、ならないと……」


 そんな風に、ご主人さまのために努力できる人も居ました。その人が報われるように、しっかりと注目していましたね。成果を出せるのなら、いずれ本当に魔力を侵食させる機会もあるかもしれません。


 とにかく、努力や成果次第ではありますけれど。ご主人さまの時間も有限ですから、ただ慕うだけでは会わせられません。


 逆に、ご主人さまの優しさに答えられない人も居ました。


「どうせ、くだらない偽善なんでしょう。見え見えなんですよ」

「そうですか。あなたは、そう思うんですねっ」

「な、なんですか……? 私は、間違ったことは言っていませんよ……?」

「間違っていないと思うのなら、ご主人様からは遠ざかっていいですよねっ」


 そんな人には、大事な役割は任せないと決めていました。だから、ご主人さまの目に留まる機会はないでしょう。その優しさに触れられる機会も、ないでしょう。


 ですが、構いません。美味しい食事とちゃんとした休憩、そして役割に応じた給料。それらを受け取っておいてご主人さまを否定するのなら、価値のない存在でしかありませんから。


「ご主人さまに感謝できないのなら、別に大事にする意味はありませんっ。それで、良いんですっ」


 ご主人さまに、余計なことを言われても困ります。ですから、ずっと雑用で終わるでしょうね。認められる機会など、与えることはありません。


 そう。ご主人さまと、彼を大切にする人たち。それだけが幸せであれば良いんですよ。


「もっともっと、幸せを広げていきますよっ。ご主人さまのメイドとして、ですっ」


 ご主人さまに尽くすのなら、ちゃんと幸せになる権利があります。それを、わたしたちが認めます。ですから、がんばって下さいね。


 もしかしたら、わたしやアリアさんみたいに側仕えになれる人も居るかもしれません。それだけの忠誠があるのなら、少なくともわたしは認めますよ。


「ご主人さまのために、いっぱい教育していきますからねっ」


 そして、ご主人さまの幸せにつなげるんです。わたしの幸せにつながるんです。


 どこまでも、あなたについていきますからね。わたしは、ご主人さまと一緒にいるだけで良いんですよ。

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