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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
14章 抱え込むもの

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504話 ミュスカの本当

 私とセルフィさんは、レックス君に個人として協力するという話をしたよ。それを、レックス君はとても喜んでくれた。やっぱり、気分がいいよね。誰かに、強く信じられるということは。


 ずっと、私はレックス君の心を読んでいた。その中でも、ずっと私たちの事を考えていたよ。


「レックス君って、やっぱり愚かなんだよね。私の本性を知っていて、あんな心配をするんだから」


 お茶会が始まる前だって、ちゃんと私たちが水分補給をしているか気にしていたり。私が何かを仕込むようなことは、少しも疑っていなかったんだ。


 もちろん、セルフィさんの目の前でレックス君に毒を盛ったりするメリットはないんだけれど。とはいえ、そういう理由で疑っていなかったわけじゃない。そもそも、私が毒をいれるというような発想が浮かんでいない様子だった。


 レックス君は、毒対策の魔法を覚えるくらいには、そういう手段を恐れていたと思うんだけどね。ブラック家に暗殺されないかと、ずっと気にしていたみたいだし。


 本当に、バカだよ。レックス君の原作知識通りの私だったなら、ためらわずに実行したはずだから。私のことだから、分かるつもり。私を疑わないってことは、そういうこと。


 レックス君の知っている世界で、私は恋人になった主人公を裏切った。この世界で、レックス君に同じことをしようとした。体を捧げて、信頼を手に入れて、その上で絶望をまねこうとしていたんだよ。


 結局、私はレックス君を好きになったんだけど。どうしてかは、今でもはっきりとは分からないかな。自己暗示が行き過ぎて本心になったのかもしれないし、ずっと優しくしてくれて絆されたのかもしれない。あるいは、邪神の眷属から助けられてかもね。


 いずれにしても、レックス君は私の気持ちを知らない。自分でも愚かだと理解していて、それでも私を信じてしまう。昔の私なら、鼻で笑ったと思うよ。


「でも、そんなレックス君だから、私は信じられるんだよ」


 そっと、胸に手を当てる。胸の奥から、私の気持ちが伝わってくるのを感じるよ。レックス君だけが、本当の私を含めて肯定してくれた。そんな人、きっと二度と現れないんだろうね。


 だって、体を捧げてまで誰かを破滅させようなんて心理、異常そのものなんだもん。自分でも分かるよ、それくらい。


 まだ、家族を殺されたとかなら納得はできると思う。でも、単なる嫉妬だったからね。同じ闇魔法使いなのに、私より好かれていることへの。いま思えば、冷静じゃなかった。


 けれど、そんな過去だって悪くないと思える。本当のレックス君を知るための道だったから。


「私は、レックス君を大切だって思ってる。昔と違ってね」


 心の声を受け入れてから、私は本当の気持ちを自覚した。レックス君の心も、読めるようになった。


 今も、レックス君は私を大切な友達として想ってくれている。傷ついたら嫌だと思ってくれているし、何かがあったら助けたいと思ってくれている。


 それが、どれだけ嬉しかったか。言葉では、伝えきれないかな。


「レックス君にも、私を疑う気持ちはあるんだけれど……」


 レックス君の魔力を操る話をした時には、ちょっとだけ警戒心が生まれていたみたいだし。結局は、私を守るためにもって対策を考えていたんだけれど。


 心のどこかで、私に対する疑いを抱えている。それは事実として、間違いないよ。


「でも、だからこそ信じる気持ちが尊いんだって思うな。私には、きっとできないことだよ」


 誰が、私みたいな人を信じるんだろうね。私の本性が醜いと分かるからこそ、答えは明らか。レックス君がおかしいだけ。


 本当は、自分でも理解していたんだ。こんな本性を抱えていたら、誰のことも信じられないって。本当の私を知ったら嫌いになる。そう疑い続けるだけだって。私は、本当の意味では幸せにはなれないんだって。


 でも、レックス君が私の運命を変えてくれた。私の本性を知った上で、大切な人だと想ってくれている。信じようと努力してくれている。心のほとんどで、信頼してくれている。


「私は、レックス君となら幸せになれる。そう信じているよ」


 レックス君が居るから、私は本当の自分を肯定できるんだ。今のままの私でも、好きになってもらえるって。私は、レックス君の前では心からの笑顔を浮かべられるんだ。


 私の感じている気持ちが、ずっと私が求めていたものなんだと思う。誰かに、私を好きになってもらいたかった。表面上の演技だけじゃなくて、本当の私を。


 きっと、ほとんどの人が叶えられない願いなんだと思う。誰もが、どこかで自分を偽っているから。嫌われないように、心を隠してしまうから。私だって、そうなるはずだった。


 だけど、レックス君と出会えたから。私は、本当に欲しかったものを手に入れられたんだよ。


「だから、レックス君のことを守ってあげる。私の力を、全部使ってでも」


 レックス君ですら、化け物扱いされている。それは、否定のできない事実。闇魔法使いが抱える宿命。だけど、それで良いんだ。私は、ずっと私を好きでいてくれる人を手に入れたから。


 きっと、他の闇魔法使いも、似たような孤独を抱えていたのかもしれない。今となっては、どうでもいいことなんだけど。もう、私は満たされている。新しい出会いなんて、求める意味はないから。


「レックス君を指一本で倒せるようになったって、きっと関係は変わらないから」


 レックス君は、私が彼を傷つけないと信じてくれている。いくら殺せるだけの力を身に着けたって、私なら大丈夫だって思ってくれるんだ。


 もちろん、力を見せた瞬間は、刃物の先が自分を向いているような感覚くらいは持つだろうね。でも、根本的なところで、私がレックス君を刺したりしないって信じてくれるから。なら、十分だよ。


 レックス君は、私を信じてくれる。心に疑いがよぎっても、信じるための努力を重ねてくれる。それだけ。


「それなら、私はどこまでも強くなれる。力を引き出せるんだよ」


 心の中から、私の中から、闇が引き出されるような感覚がある。身を委ねれば、際限なく湧き出てくるよ。


 私はきっと、闇に対して最も適正のある存在なんだ。心の闇があんまり強くないレックス君より、よっぽどね。


「いつか、全部を伝えるのかな。どっちを選んでも、あんまり変わらない気もするけれど」


 心が読めることとか、私が本当に狙っていたこととか。今の段階でも、レックス君は私の本性を知っている。だから、気持ちは同じままなんだろうね。


 でも、告白したらスッキリする気もするよ。まあ、のんびりでいいかな。レックス君は、何があっても死なせたりしないから。私が守ってみせるから。


「あなたは、邪神を倒す必要なんて無いんだよ。ね、レックス君」


 そんなことをしなくても、私たちが幸せになる未来は待っているんだよ。


「私たちにとって本当に大切なことは、一緒にいること。それだけでしょ?」


 私にとっても、レックス君にとっても。お互いを大切に想う気持ちだけがあれば良い。穏やかな時間さえ守られるのなら、それだけで良いんだ。


 だから、私も全力で頑張るよ。私とレックス君の願いを、叶えるためにね。


「だから、負けないでね。運命に。現実に。未来に。私も、支えるから」


 きっと、厳しい戦いが待っているよ。邪神はどうにかなったとしても、まだまだ障害はあるから。


 けど、レックス君の隣には私がいる。心も体も、守るよ。私がもてる、全力で。


「女神ミレアルは、きっとレックス君に試練をもたらす。私には、分かるんだ」


 きっと、悪意ではないと思う。ミレアルも、レックス君を気に入っているから。だから、この世界に呼び出したんだろうし。


 けれど、神の愛は人には受け止めきれないかもしれないよ。私には、よく分かる。


「でも、大丈夫だよ。あなたには、闇の加護がある。もっともっと、強くなれるから」


 レックス君が望む限り、どこまでもね。私だって、強くなるんだから。


 だから、ずっと一緒にいようね。身も心も、私に委ねてほしいな。

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