503話 助け合う意志
ルースとの話も終わって、今度はミュスカとセルフィに会いに行くことになった。ミュスカの方から連絡が来て、待ち合わせ場所に転移する形だな。
向かった先では、すでにくつろいでいる様子のふたりが居た。一応、食事には手を付けられた様子がないのだが。まあ、別につまんでくれていても良かったというか。礼儀としては、待つというのも分かるんだが。
せめて水分補給くらいはしていてほしいものだ。そう思いながら顔を見るが、普通に元気そうだ。無理をしているという雰囲気はない。なら、問題ない。
頷いた俺は、ふたりに話しかけていく。
「ミュスカ、セルフィ。お前たちも、手伝ってくれるのか?」
「あんまり大きいことはできないかな。私たちは、まだ学生だもんね」
「でも、個人としてなら構わないよ。いつでも、言ってくれて良いんだ。先輩だからね」
王女姉妹は、いろいろと王族としての仕事をこなしている。ルースは、当主として動いている。それらと比べたら、大きなことはできないだろう。
とはいえ、個人として手伝ってくれるという意思があるだけでもありがたい。どこまでできるかは、要相談ではあるが。
まあ、人を動かすようなことはできないと考えておくのが無難か。どの道、ミュスカやセルフィの領では奴隷問題は起きていないし、今回大きく手を借りる可能性は少ない。
「なるほどな。必要なら、力を借りるよ。といっても、あまり大きな問題は無さそうだが」
「レックス君が幸せなら、それで良いからね。いっぱい会えたら、もちろん嬉しいよ」
「ひとつとはいえ、お姉さんなんだ。いっぱい、甘えてくれて良いんだよ」
ミュスカはとても穏やかな顔で、セルフィはまっすぐな顔でこちらを見ている。相変わらずだな。
どちらも人気者としての地位を確立していたはずだし、その魅力が出ているというか。頼りたくなるような雰囲気もある。
ただ、今回は大丈夫だとは思う。大きな陰謀の気配も感じないし、事業の進捗も順調だからな。
それよりも、俺のことを手伝おうとして無理をしないかが心配だ。ミュスカは自己管理ができる方だとは思うが、セルフィは抱え込みそうなイメージがある。
とにかく、大きな問題が起きれば自己管理なんて関係なくなってしまう。そういうこともあるし、すぐに呼んでほしいものだ。俺の方でも問題が起こっていた場合は、困ってしまうが。
「そっちこそ、何か手を貸してほしいことがあったら言ってくれよ。できる限り、助けるから」
「やっぱり、レックス君は優しいね。ね、セルフィさん」
「そうだね。一番困っているのは、レックス君だろうに」
ミュスカが微笑んで、セルフィは心配そうな目を向けてきた。
「実際、事件は多いんだよな……。そこだけは、否定できない」
「私だって転移が使えるようになったから、いっぱい頼ってね。他の人達も、運べるよ」
「手伝いを申し出たのも、ミュスカさんの転移があってだからね。これで、気軽に手を貸せるんだ」
なるほど。それなら、確かに気軽に手を借りられるかもしれない。転移の便利さは、使っている俺が一番分かっているからな。事前に魔力の侵食が必要とはいえ、どこにでもすぐに行ける。どれだけ楽をしてきたか。
個人として手伝ってくれるというのも、分かる話だ。それこそ、空き時間さえあれば俺のところには来られるのだろう。
それにしても、ミュスカはどんどん強くなっていくな。成長速度が段違いだ。
「なるほどな。本当に、ミュスカに負ける未来が待っていたりしてな」
「ふふっ。実は、もう勝っていたりしてね。レックス君の魔力を、操っちゃったりとか?」
いたずらっぽく笑っている。冗談めかしているが、本当にできたりしてな。メアリにも、ちょっと実行されたことがあるし。
仮にできるとすれば、俺の魔法が封じ込められかねない。敵対したら、詰んでもおかしくないレベルの話だ。
だからといって、ミュスカが俺を殺そうとするとは思わないが。信じているということもあるし、その気があるのならとっくに実行しているだろうということもある。
まあ、対抗策そのものは考えておいた方が良いかもな。ミュスカにできるということは、他の闇魔法使いにできてもおかしくないのだし。いざという時に、ミュスカを守るためにも。
ミュスカだって、邪神の眷属に襲われたことがあったからな。同じようなことが無いとは言い切れない。
ただの闇魔法使いにできるのだから、邪神にもできるという可能性が高い。眷属だって、あり得る。
やはり、備えておかないとな。そういう意味で、今のうちに言ってくれたのかもしれない。方法は、いくつか思いつく。とにかく、軽く実験しておきたい。
いずれ、ミュスカにも手伝ってもらうかもな。まあ、ある程度対策の案が形になってからだ。
今は、話を続けておこう。
「それは怖いな……。実際にやられたら、対抗できなさそうだ。ミュスカの思うがまま、なんてな」
「やっぱり、レックス君らしいね。そんなあなただから、私やセルフィさんは手伝いたいんだよ」
「もちろん、できる範囲でだけれど。ミュスカさんはともかく、私はそんなに強くないから」
「なんだかんだ言って、そこらの五属性使いくらいなら倒せるくらいだけどね。謙遜しすぎだよ」
なんとなく、ミュスカとセルフィからは仲の良さを感じる。魔法の訓練も一緒にしていると聞いた記憶があるし、知らないところで関係ができているのだろう。
こうして知り合い同士が仲良くしてくれていると、嬉しいものだ。修羅場みたいなことが起きる時もあるだけに、余計に。
それにしても、五属性使いを倒せることがひとつの基準みたいになってきた気がする。普通は、あり得ないことなんだが。インフレの進んだ漫画みたいなことになっているな。
「セルフィって、三属性使いだったよな。すごく努力を重ねたのが、よく分かるよ」
「ありがとう。といっても、レックス君やミュスカさんには遠く及ばないんだけどね」
「闇魔法にも、できないことはあるから。そこを支えてくれるだけでも、大きいんだよ」
かなり万能に近い闇魔法ではあるが、どうしても限界はある。火を起こすことはできないし、水を出すこともできない。そういうところで手を借りられれば、かなり大きい。
なんというか、闇魔法は特に戦闘で強いんだよな。五属性の魔法は、生活に根付くと性能を発揮できる気がする。それこそ、農業とか畜産業とか。
とにかく、誰かの手を借りられる意味は大きい。それだけは、伝えておこう。
「そうだな。俺だって、いろんな人の手を借りてきた。ふたりが手伝ってくれるなら、心強いよ」
「まあ、今すぐってことはないと思うかな。どうせなら、いざって時に手伝う方が良いよね」
「そうだね。特にミュスカさんほどの戦力なら、相手が計算していないのは大きいから」
ミュスカが転移を使えるという情報を隠すだけで、裏をかける局面はありそうだからな。そういう意味でも、何でもかんでも手を借りるのは違う。
結局、今すぐに手を借りることはない。ミュスカと同じ見解になるな。
「だから、困ったことがあったら言ってね。言わなくても、飛んでいくけどね?」
「ああ。お前たちの気持ちに、感謝させてくれ。本当に、ありがとう」
「気が早いよ。私もミュスカさんも、まだ何もしていないんだから」
「でも、それがレックス君の良いところだよね。だから、これからもよろしくね?」
その言葉に、俺は強く頷いた。これからも、仲良くしていきたい。それだけで、俺は報われるはずだ。
やはり、友達と過ごせる時間の価値は大きい。あらためて、実感できた。




