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物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう  作者: maricaみかん
14章 抱え込むもの

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497話 地道に重ねて

 奴隷があぶれた事による問題は、王家も認識しているらしい。まあ、当たり前と言えば当たり前だ。周囲の力関係を探ったりするのは、とても大事なことなのだから。


 ということで、ブラック家と王家で協力して何かができないかという話になるだろう。根本的な対策としては、仕事と生活をどうにかするということになるはずだ。まあ、それが難しいのだが。


 まずはミーアが、議題について話し始める。


「現状として、王家としてできることは多くないわ。残念ではあるけれど、根本的な手は打てないの」


 つまり、王家として雇用することも、奴隷に関しての法律を制定することも難しいという話だろう。


 どちらも分かる話だ。いくらなんでも、王家が奴隷を雇うということは無理だろう。基本的に、そのあたりには家格や信頼が必要になる。もっと言えば、王家として雇う人材によって貴族間のパワーバランスに影響する。


 つまり、奴隷を王家として雇う形になってしまえば、王家は周囲を敵に回すことになる。


 もう片方に関しても、似たようなものだ。奴隷を強制的に雇わせる法律なんて作れるはずがない。貴族たちが許さないだろう。待遇に関しても、劇的な改善はできない。


 そうなってくると、根本的な解決をする手は打てない。それは、妥当な判断と言わざるを得ない。


「王族が直接奴隷を雇うことは、いろいろな意味で難しいだろうからな。仕方のない部分はある」

「こういう時こそ、正規の手続きを踏まなければいけませんからね」

「悪しき前例になることを避けるためだな。気分で動けるようになれば、制度が崩壊しかねない」


 その言葉に、リーナは頷く。王家が手続きを無視できるという前例を作れば、貴族だって続きかねない。そうならずとも、ミーアの次代あたりで同じような行動をする理由付けに利用されかねない。


 総合的に、今の問題が解決したとしても、未来に大きな禍根を残すだろう。貴族が賛成するという展開が見えない以上、どうにもならないことだ。


「ブラック家は、良くも悪くもレックスくんのもとで統一されているわ」

「逆に、王家としては必要な根回しを避けることはできません。抜本的な改革が難しい理由ですね」


 ふたりは難しい顔をしている。まあ、だからブラック家が良いとはならないのだが。俺が間違えたところで正されない可能性もある。そして、俺が死にでもしたら後継者争いで崩壊する可能性が高い。


 おそらく、ブラック家の真価が問われるのは俺の子か孫の代だろうな。ワンマン社長の会社がどうなるかという話のようなものだ。


 そして、奴隷に対する根本的な解決ができないとなると、別の手を打つしかない。対症療法的な何かを。思いつくことは、そう多くない。


「となると、炊き出しくらいが限度になりそうか?」

「布告を出すことはできるわ。ただ、それも限度があるもの」

「奴隷の立場を変えるほどの改革は、無理と。理解できてしまうのが、悲しくもある」

「裏でレックス君を手助けすることも、できなくはないけれど」

「まあ、しない方が無難でしょうね。結果的に、レックスさんの敵を増やすでしょう」


 俺なら王家に話を通せるとなると、俺を利用するために動く人が増えるだろう。取り入ろうとしたり、逆に圧力をかけようとしたり。


 そういう未来が見えてくることを思えば、あまり協力できないのも仕方ない。


 ミーアもリーナも真剣に俺のことを考えてくれた上での結論なんだ。そう簡単に、反対するものじゃないよな。


「分かる話だ。変に優遇されていると思われればということだな」

「ええ。これまでほど、切羽詰まってもいないもの」

「となると、ブラック家は同様の活動を続けることになりそうだ」

「ただ、ひとつだけできることがあるわ。それは、周囲を巻き込む事業を起こすこと」


 ミーアの案というのは、つまり公共事業という話だろう。大掛かりな事業を起こすことで、雇用を生む。


 まあ、大きな建物を建てようとするだけで、大きな雇用は生まれるだろう。今後に続くかという問題はあるにしろ。少なくとも、当座の飢えへの対応としては悪くないんじゃないだろうか。


 そして同時に、継続的に事業をおこなえる環境を作れない限りは、対症療法で収まってしまう。要するに、ちゃんと儲けを出せるかという話だな。赤字を吐き出し続けるのは、厳しいはず。


「なるほど。奴隷を利用した事業で、結果的に救われるのならという話か」

「そうですね。ただの思いつきですが、王家の資料館を作るような」

「奴隷を雇用する機会を生むというわけだな。ただ、周囲の利益にどうつなげるかが問題になりそうだな」

「はい。魔道具は、レックスさんとの関係もありますし。それに技術が必要ですからね」

「だから、もっと単純なものを作れば良いと思うの。魔力があれば、便利に使えるように」


 ふむ。こちらにも配慮した上で、王家としても実利を取れる。周囲の貴族にも利益をもたらせるかもしれない。


 どの程度のものを作るかにもよるが、いくつかの問題を同時に解決できそうだ。良い案に思える。


 魔力があれば使えるというのは、魔法使いと非魔法使いの差を拡大しかねない。だからこそ、余計に貴族は賛成すると思うんだよな。自分たちの立場を固める材料にもなるのだから。


 最終的には、魔道具に負ける事業にもなりかねないが。だからこそ、ある程度は差別化しておきたい。魔道具が恨みを買いすぎるのは、避けたいところだ。


「ああ。魔道具とは違って、使用者が魔力を込めなければ使えないようにするのか」

「そうすれば、簡単な仕組みになるし、レックス君の優位性も脅かさないはずよ」

「最悪、盗まれても良い。その程度の技術に抑えるつもりです」

「となると、魔法を若干強化できる程度が理想か?」


 魔道具の仕組みがあれば、魔力を効率的に運用するための道具は作れるはずだ。あれは、最低限の魔力で最大限の効果をもたらすための道具だからな。


 根本的に、魔力バッテリーこそが俺たちが持つ最大の優位性だ。それを無くすことで、むしろ貴族好みのものになる。本当に、良い案かもしれない。流石はミーアといったところ。


「そんなところでしょうね。レックスさんにも、手伝っていただければと」

「貴族には、自慢できるだけの力を。民には、生活の安寧を。理想ではあるけれど、一部は実現できそうよ」


 他国や対抗する貴族に対して、その道具で優位に立てる。同時に、雇用も生んであぶれる人が減っていく。総じて、全体に利益をもたらす判断に思える。


 そして、俺たちがその中心となるわけだ。道具が有用であればあるほど、俺たちを裏切れなくなっていく。二重三重に手が打たれているんだな。見事なものだ。


「なるほど。こちらが技術提供したという形にもすると」

「ええ。その分、あまり直接的な利益は渡せないのだけれど……」


 逆に、それが良いのだろう。ブラック家に敵対しているような相手からは、都合が良い事業に思えてくる。俺たちの技術を奪ったという形になるからな。


 対して、利益を出さないという話を広めれば、民衆からの支持を得ることもできる。うまくやれば、ブラック家で雇える人間の質が上がるだろう。


「ブラック家を優遇していると思われても、面倒ですからね」

「分かった。とりあえず、話を通しておくよ。俺は前向きに考えていると伝えておく」


 おそらく、ジャンやミルラは受けると思う。そうなってくると、王家は大きな動きをするだろうな。


 今すぐでなくとも、未来につながる一手のはず。そんな感覚を持ちながら、俺は王女姉妹に笑顔を向けた。

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