491話 新しく見せるもの
近衛騎士とのお茶会は、もう準備ができているらしい。ということで、転移で飛んでいく。その先には、すでにみんなが席について待っていた。
カミラは相変わらずキツめの目をしている。俺の方を見ると、ちょっとだけ目が細まるのが分かった。こういう小さな仕草から、ちゃんと愛情を感じるんだよな。やはり、良い姉だ。
エリナは落ち着いた様子で、まさに泰然自若という感じ。歴戦の傭兵だけあって、かなり余裕を感じるな。お茶会みたいなことは、そこまで慣れていないだろうに。
ハンナは穏やかな笑顔で俺の方を見ている。騎士然とした言動をするハンナではあるが、普段は優しいイメージだ。戦いになると、目に見えて雰囲気が変わるのだが。
懐かしく感じてしまうことが、どうにも寂しい。だが、せっかくの時間を楽しまないとな。俺は笑顔で、みんなに挨拶をする。
「久しぶりだな。姉さん、エリナ、ハンナ」
「まったくもう。昨日も話したばかりじゃないの。ほんと、情けないやつ」
「また腕を上げたというのは、見れば分かる。努力を重ねたようだな、レックス」
「レックス殿には、負けていられませんな。わたくしめも、少しは強くなりましたが」
以前と変わらない態度で、みんな接してくれる。お互いの環境は変わっても、俺たちの関係は続く。それが、とても嬉しい。心からの笑顔が浮かべられそうだ。
俺もみんなも、大きなものを背負っている。だが、今は友情を交わすことができる。本当に、ありがたい限りだ。
「みんな、元気そうで良かったよ。こうして顔を見ると、安心するな」
「そんなことを心配されるほど、あたしは弱くないのよ。まったく、失礼なやつね」
「私たちは、順調に成長できているよ。お互い、参考にすることがあるからな」
「カミラ殿やエリナ殿は、わたくしめには無い技術を持たれておりますから。勉強になりますな」
同じ近衛騎士になっただけあって、切磋琢磨しているのだろう。3人とも、それぞれの強さを持っている。カミラは魔法と剣の合一、エリナは飛び抜けた剣技。ハンナだって、4属性としての戦いを収めている。
みんな得意なことが違うからこそ、異文化交流みたいな効果があるのだろうな。お互いの良さを取り入れていくというか。
俺だって、みんなと交流することで強くなれたんだからな。
「俺としても、3人から学んだことは多い。また、いろいろと交流したいものだ」
「ふーん。また、あたしと戦いたいの? ギッタンギッタンにしてあげようかしら」
カミラは挑発的な笑みを浮かべている。好戦的ではあるし、言葉は激しい。だが、なんだかんだで俺を認めてくれている証でもある。カミラの性格からして、興味のない相手を叩き潰そうとしたりせずに無視するだろうからな。
なんというか、良いライバル関係でもあるというか。実際、俺も負けたことがあるのだし。ただ、もう負けたくはない。男の意地というか、なんというか。
「姉さんにだって、そう簡単には負けないさ。俺は、誰よりも強くなってみせる」
「カミラばかり見ているようなら、嫉妬してしまいそうだな。師としては、私をもっと見てほしいものだ」
腕を組みながら、エリナは薄い笑みを浮かべている。実際のところ、エリナの剣技が俺の根底にある。最初に剣を教わったのは、エリナからなのだから。
エリナの奥義である音無しを中心に、俺は剣技を組み立てている。だから、かなり見ていると言って良いはずだ。
「もちろん、エリナからも学ばせてもらう。俺の剣は、エリナあってのものなんだから」
「ふふふ、レックス殿は、焦らすのがお上手なようで。つい、乗せられてしまいますな」
軽く笑い声を漏らしながら、ハンナはこぼした。ふたりを褒めておいて、ハンナを褒めないというのはありえない。
それに、魔法に関してはかなり影響を受けている。魔法を複数重ねることは、ハンナに着想を得たようなものだからな。
こうしてみると、俺はいろんな相手から技術を盗みながら成長してきたんだな。やはり、みんなには感謝したいところだ。
「もちろん、ハンナだって大事な研鑽相手だ。これまでも、これからもな」
「ま、あんたらしいわね。優柔不断なところとか、ねえ?」
「そうだな。私だけを選んでくれればと、何度思ったことか」
「レックス殿らしくはありますな。気持ちは、わたくしめも分かってしまいますが」
カミラがエリナに目を向けると、エリナは頷く。それに合わせて、ハンナも穏やかに合わせている。
普通の光景であるはずなのに、どうにも冷えた空気を感じてしまう。気のせいでは、ないのだろうな。お互いの目を見て、ちょっとだけ目を細めている。少し挑発的というか。
どうして、俺を取り合うようなことになってしまうのだろう。できれば、みんなで仲良くしたいのだが。まあ、俺が悪いのだろうな。明確に答えを出さないことが、原因のひとつではあるのだから。
ただ、誰が好きとか安易に言えないし、そもそも自分でも誰に恋をしているとかは分からない。だから、仕方のない部分もあるはずなんだ。
とはいえ、3人には関係のないこと。できるだけ、俺がうまく立ち回らないとな。
「おいおい……。俺がきっかけで関係が悪くなったりでもしたら、困るどころじゃないぞ……」
「ほんと、自意識過剰なんだから。わざわざ立場を悪くしたりしないわよ。あんたのせいなんかでね」
「レックスの望みは、私たちも分かっているからな。都合が良い女というものだろう?」
「ふふっ、そうでありますな。レックス殿のために、協力しているのですから」
あんまり、エリナとハンナの言葉を否定できない。俺の都合に、かなり合わせてくれているからな。もしかして、俺は悪い男だったりするのか?
まあ、実際に悪い男だと思われているのなら、ちゃんと注意されるとは思う。冗談めかして言われることはあるが、今のところは本気でとがめられていないはず。なら、大丈夫だろうか。
とはいえ、感謝はしたいところだ。それだけでもないのだが。
「ありがとう。それは言いたい。だが、もう少しなんとかならないのか……?」
「良い案があるわよ。あんたが、あたしたちに言うことを聞かせればいいのよ。力ずくで、ね」
獣のような笑みを浮かべて、カミラは宣言する。本当に、らしいというか。以前から、似たような態度は取られている。なんだかんだで、いろいろと理由をつけて戦っているんだよな。
そのたびにカミラは大きく成長していて、何度も感心させられた。きっと、今回も良いものが見られるのだろう。そんなワクワクがある。同時に、負けたくないという気持ちも湧き上がってくる。
武者震いをしたのを、遅れて実感した。きっと、俺も戦いたいんだな。それが、強く理解できた。
「久しぶりに模擬戦をするのも、悪くないな。レックスの成長を、見せてくれ」
「わたくしめの成長も、見ていただきたいですな。これでも、努力したのですよ?」
ふたりも乗り気みたいだ。なら、またみんなで戦うことになるな。近衛騎士の再編があった時以来か。俺の成長を見せて、みんなの成長も見せてもらおう。本当に、楽しみだ。
負けるつもりはないが、仮に負けたとしても良い経験になるはず。全力でいこう。
「じゃあ、頼む。なんて、言うことを聞かせる気はないけどな」
「まったく、ヘタレなやつ。でも、良いわ。あたしがあんたを従わせてあげるんだから」
そう言って、カミラは笑った。もし負けたとして、無理難題は言われないだろう。それでも、勝ちたいという気持ちは本物だ。
どうやって勝つか。それを考えながら、拳に力を入れた。




