490話 感じる寂しさ
久しぶりに家族で過ごして、間違いなく楽しい時間だったと思う。修羅場みたいなことがあったのは困ったとはいえ。
ただ、楽しいからこそ余計に感じることがあった。カミラが居れば、もっと良い時間だっただろうにと。まあ、メアリやモニカとギスギスしていたかもしれないが。ちょっと怖さもあるといえばある。
それでも、カミラに会いたいという気持ちが大きくなってきたのは事実だ。どうしても、顔が思い浮かんでしまう。
カミラが近衛騎士になったのは、良いことだとは思う。ブラック家としても、王家や友人との関係を考えても。だとしても、離れ離れは寂しい。やはり、俺はカミラが大好きなんだな。シスコンと言われても、否定できないのかもしれない。
ということで、通話を飛ばしてみることにした。すると、すぐに出てくれた。
「姉さん、今は話せそうか?」
「別に構わないけど。どうしたのよ、バカ弟。何かあったのかしら?」
ちょっとだけ、心配しているような声色に聞こえる。気のせいかもしれないが、俺はカミラの優しさだと思う。
バカ弟と呼ばれ続けているが、俺はカミラの態度に愛情を感じている。自分を慰めているわけじゃなくて、本当に大切にしてくれているのが分かるからだ。まあ、ツンケンしているのは間違いないが。
まあ、あまり心配をかけるのも違う。ちょっと恥ずかしいが、ここは素直に本音を言うべきだな。
「いや、姉さんの声が聞きたくなってな。本当に、それだけだ」
「寂しくなっちゃったの? なっさけないやつ。ま、良いわ。少しくらい、付き合ってあげても」
言葉の割には、声が優しいんだよな。というか、わざわざただの話に付き合ってくれる時点で、大事にしてくれているようなもの。
だから、俺はカミラを大切な姉だと思っているんだ。なんだかんだで、本心が見えてくるというか。ずっと、俺のことを気にかけてくれている。
俺は安心して、話を続けていく。
「ありがとう、姉さん。最近、調子はどうだ?」
「なにそれ。バカ弟ってば、そんなに話が下手だったの?」
バカにしたような声色だが、まあ実際下手なんだよな。疎遠になっている娘との会話か何かだろうか。ちょっと、仲の良い兄弟の会話って感じはしない。
といっても、用もなくただ通話しただけだから、あんまり思いつかなかったのも事実だ。こういう、ただの他愛のない話にも慣れていかないとな。
「確かに下手としか言いようがないが……! ひどくないか、姉さん」
「今のところは、悪くないわよ。そこそこ強くなれたし、ね」
普通に話題が戻る。なんだかんだで、俺の話にしっかり付き合ってくれているんだよな。バカにしているように見えて、ちゃんと愛情を感じるところだ。
まあ、カミラの性格を分かっていないと、嫌な女に見える部分もあるのだろうが。そこはあんまりかばえない。
というか、カミラがそこそこ強くなれたと自分で言うのか。これは、かなり強くなったのかもしれない。自分に厳しい人だからな。そう簡単に成長しただなんて思わないだろう。相変わらず、とんでもない努力をしているんだな。
「また成長したのか。俺も、負けていられないな。もっともっと強くならないと」
「あんたの話も、聞いているわよ。なんか作ってるんでしょ?」
そういう話を覚えておくこと自体、カミラの性格を考えたら愛情の証なんだよな。興味のない存在に対しては、見向きもしないし記憶もしないだろう。
というか、カミラの努力を考えたら、メアリが使っているような訓練に仕える魔道具を渡しても良いかもしれない。性格的に、ことさらに広めることはしないだろうし。
情報が広がらないようにという懸念を考えても、カミラなら大丈夫なんじゃないだろうか。
「姉さんになら、贈っても良いかもな。魔力操作に役立つ道具もあるんだ」
「ま、好きにしなさい。あんたの手を借りなくったって、あたしは強くなるだけよ」
贈ったとしたら、きっと受け取って大事にしてくれるんだろうな。剣もアクセサリーも、ずっと身につけてくれているし。
カミラは、少なくとも俺に対してはとても優しくしてくれている。表面的な言葉はともかく、実際の行動では。
だから、これからも関係を大事にしていきたい。
「なら、受け取ってくれ。姉さんが強くなれば、危険だって減るはずだ」
「まったく、ホント生意気よね。どこまでもバカな弟なんだから」
特に後半、とても穏やかな声で言っていた。本当に、カミラの気持ちを感じるところだ。バカ弟という呼び方も、愛情表現なんだろうな。
やはり、顔を見たいという気持ちが高まってくるのを感じる。ちょうど良いし、直接渡すか。
「それで、渡しに行こうと思うんだが、空いている日はあるか?」
「ま、しばらくは平気よ。大きなこともないから、急用がなければね」
「じゃあ、明日にでも会いに行くよ。近衛騎士のみんなとも、会いたいな」
「ほんと、あんたってばバカな弟よね……。ま、いいわ。話は通しておくから、好きにしなさい」
話まで通してくれるのだから、至れり尽くせりと言える。カミラの魅力が分からないのは、もったいないよな。表向きの態度と裏腹の、強い愛情。それが見えてくるのが、とてもいい。
ツンデレと言うか、言葉と態度が一致しないんだよな。でも、確かな情を感じるのが温かいというか。本当に、会うのが楽しみだ。きっと、顔でもいろいろなことが伝わるはず。
「ありがとう、姉さん。顔を見られるのを、楽しみにしているよ」
「バカ弟ってば、あたしのことが大好きなのね。ほんと、仕方のないやつよ」
きっと今とか、そっぽを向きながら言っているのだろうな。見られなかったのを、もったいなく思うくらいだ。
まあ、ここで否定する意味はない。伝えられる時に、気持ちは伝えておかないとな。
「もちろん、姉さんのことは大好きだ。大切な家族だし、尊敬もしている。これからも、ずっとな」
「そう。あたしにとっては、あんたはバカ弟だけどね。ま、会いに来るくらいは良いわ」
「姉さんに会いたいから、また何度でもそっちに行くよ。できれば、たまには帰ってくれると嬉しい」
「今は難しいけど……。ま、あんたがお願いするのならね。そのうち、ね」
帰ってくることを、本気で検討してくれているのが分かる。まあ、今は難しいというのは仕方ない。近衛騎士の体制が変わったばかりで、なおかつ人数も少ないのだから。
とはいえ、いずれ人員も増強されるだろうし、機会はあるはずだ。今からでも、とても楽しみだな。
「ありがとう。その時は、絶対に歓迎するよ」
「ま、そんな先の話は良いでしょ。とにかく、明日に来るのよね? お茶でも用意しておくわ」
「歓迎してくれるんだな。ありがとう、姉さん。本当に嬉しいよ」
「どうせ、泣きそうな犬みたいな顔するんだもの。見てられないったらないわよ」
まあ、カミラに拒絶されたら悲しいでは済まないだろうな。とはいえ、泣きそうな犬みたいな顔ってほどではないはずだ。
ただ、泣くかもしれないとは思うが。それくらいには、カミラのことが好きという自覚はある。
「さすがに、そこまで情けない顔じゃないと思うぞ……」
「どうかしら。あんた、すぐになっさけない顔するんだもの」
「そ、そうなのか……?」
「だから、まともな顔をできるようにしてあげるってだけ。分かった?」
問いかけるような言葉こそが、カミラの愛情そのものに思えた。やはり、カミラが姉でいてくれて良かった。家族として、これからも大事にしていきたい関係だよな。
明日のお茶会が、今から楽しみだ。さて、どんな話をしようかな。




