473話 メアリの感覚
お兄様にとって、メアリは可愛い妹なんだと思う。守るべき存在で、頼っても良い相手じゃない。子供じゃないって言っても、流されちゃう。
メアリはお兄様ほど強くないし、頼りにもならない。分かっていても、泣きたい気分になる時もあるの。だから、もっともっと強くなりたいんだ。そうしたら、お兄様だって認めてくれるから。
けれど、フェリシアちゃんやラナちゃんが戦うからって、メアリは我慢するように言われたの。本当は、嫌だって言いたかった。だけど、お兄様が心配してくれているのも分かるし、作戦があるとも言っていたから。邪魔しちゃいけないんだって思ったの。
それで、メアリは魔法の練習に時間を使っていたの。次の戦いで、すごいところを見せるために。
「お兄様からもらった魔道具、便利なの」
魔力がぐちゃぐちゃになって、動かしにくいものも多い。だけど、それが良いの。邪魔されてもしっかり動かせるようになれば、細かく魔法を使えるようになるから。
それに、きっと敵が同じように邪魔してきても、いつも通りに魔法を使えるはずなの。つまり、もっと強くなるためには良い道具だったんだ。
新しい魔法を、もっとうまく使いたい。その先にも進みたい。だから、魔道具をいっぱい使っていたの。
マリンさんたちにも相談して、どうすればいいかを考えてみたり。もっと魔力を邪魔する道具を作ってもらったり。
そうしているうちに、魔力の操作はうまくなっていったの。お兄様に、戦いで見せたいなとも思ったけれど。
「戦っちゃいけないのは退屈だけど……。でも、お兄様のためだもん」
敵をいっぱい吹き飛ばしちゃえば、気持ちいいの。それに、実際に敵を倒すと、ただ練習している時とは感覚が違うから。
いっぱい戦えば、メアリはもっともっと強くなれるって思うの。お兄様だって、強くなったと分かってくれるはずなの。
だけど、お兄様の言いつけだから。破ったら、きっと困らせちゃうの。それは、嫌だったから。だから、メアリは我慢したの。うずうずして、暴れたい気持ちもあったけれど。
「時間もあるし、お兄様の魔力で練習しよっと」
どうせ戦えないのなら、別のことをするしかないの。だから、魔道具以外にも、メアリの体にあるお兄様の魔力を動かす練習もしちゃった。
メアリの中ぜんぶに、お兄様の魔力が広がる。そんな想像をしながら、お兄様の魔力とメアリをつなげていったの。
最初は、少しも動かなかった。何回やっても、ダメだった。でも、諦めたくなかったの。お兄様とのつながりは、メアリの大事なものだったから。
集中が切れるまでずっとお兄様の魔力を感じて、息抜きに魔道具で練習をして。それを何度も何度も繰り返して、ようやくつながる感覚があったの。
お兄様の魔力とつながったら、あとは実際に動かすだけ。最初は、とっても重かったけれど。力の入れ方を変えてみたり、体のどこを意識するかを変えてみたり。
そうしているうちに、ちょっとずつ感覚が変わっていったの。魔力とのつながりが、もっと強くなっていったの。
「うん、ちょっと動かせるようになったの。この調子で、いつか……」
お兄様の魔力を、頭から爪先まで全部で受け止めたかったの。メアリの魔力は、全身にある。同じように、お兄様の魔力も全身に届けたかったから。
メアリは、お兄様が大好き。だから、離れている間でも、ずっとお兄様を感じていたい。ひとつになるようなつながりがほしい。だから、お兄様の魔力を完璧にあやつれるようになりたかったの。
そんな中で、ブラック家に敵がやってくることになったの。メアリも戦ってよくて、だから全力で魔法をぶつけたの。ぐちゃぐちゃにしていくのは、頭の奥がすーってしていくような感じだったんだ。
みんな吹き飛ばして、それでおしまい。もやもやを全部ぶつけて、スッキリしたの。
「やっぱり、戦うのは楽しいの。みんなやっつけちゃうの」
お兄様を困らせるような人は、居なくなっちゃえば良いんだから。戦いより、お兄様と一緒に過ごす方が好き。それは、メアリの変わらない気持ち。
戦えなくなったとしても、お兄様と楽しい時間が過ごせるのなら、それでいいの。
でも、お兄様を邪魔する人はいっぱいいる。だから、メアリはもっと強くならなくちゃ。お兄様を助けるために。メアリに、もっと時間を使ってもらうために。
だから、メアリは早く敵を倒したかったの。そんな時に、魔法の発表会に出ることになったの。そこに、敵がやってくるからって。
なら、早くやっつけちゃえば、後はお兄様との時間に使える。そのために、出るって決めたんだ。
「発表会って、普通に魔法を使えば良いんだよね?」
メアリなら勝てるって、お兄様は言ってくれた。だから、普通にしていれば勝てるんだと思う。けれど、お兄様も見ていてくれるから。メアリは、できるだけすごい魔法を見せたかったの。
できれば、魔力とひとつになる魔法を見せたい。そう思って練習していたけれど。あんまりうまくはいかなかった。
「魔力とひとつになるのは、まだ難しそうなの」
ちょっと、ため息をついたの。お兄様に、メアリのすごいところを見せたかったんだけど。きっと間に合わない。それは分かったから。
頑張ったらできそうな感覚が、あまりなかったの。なら、きっと今は無理なんだと思う。もちろん、もっと先にできるようになるつもりだけれど。
ただ、今回は諦めるしかなさそうだったの。悲しいけれど、仕方ないの。
「お兄様の魔力を使えば、できそうな気もするけれど……」
だけど、お兄様の魔力をあやつることも、まだまだ時間がかかりそう。つまり、時間が足りなかったの。
今のメアリでも勝てる相手なら、そこまでする必要はなかったの。だから、後の楽しみにすることに決めた。
「失敗しても、困っちゃうの。今回は、後回しにするの」
発表会で失敗しちゃったら、負けちゃう。そうしたら、お兄様の作戦も台無しになっちゃうから。
まずは、敵を倒すことが先。新しい魔法は、その後で良かったの。お兄様のためにも、諦めておくことに決めたの。
「魔力をぎゅってするのは、うまくなった気がしちゃう」
だから、時間をかければ魔法とひとつになることもできそうなの。でも、諦めるって決めたのなら、諦める。
メアリは、お兄様のために戦うんだもん。ワガママで失敗するのは、よくないから。
「これで、後は敵をやっつけるだけなの」
発表会で優勝したら、屋敷に呼び出されたの。着いていったら、メアリに向けて魔法を発動された。なんか、メアリの魔法を封じるとか言っていたの。いっぱい人がやってきて、メアリを捕まえるんだって。
けど、普通に魔法を撃てば、それで終わったの。すぐに周りの人は吹き飛んで、高笑いしていた敵は顔を青くしていたの。
そして、お兄様がやってきた。後は、なんか話をしていたけれど。メアリがやっつけて終わったみたい。
「魔力を封じるって、どんな感覚だったんだろ?」
封じられたまま魔法を使う練習をすれば、もっと強くなれるかなって思ったんだけど。結局、どんな仕組みかは分からなかったの。
マリンさんたちに話をすれば、作ってもらえるかもしれない。そんな案もあるから、今度話してみたい気持ち。
「あの人、何もしていないのと変わらなかったの」
なんか、メアリには何も通じなかったの。弱いから、メアリの秘密が知りたかったのかな。でも、弱すぎて何もできなかったみたいだけど。
ちょっとくらい、苦戦してみたい気持ちもあったの。強敵に勝つのは、嬉しいって聞いていたから。でも、期待外れだったの。
だから、メアリは別のことをすることにしたの。お兄様の魔力を、もっと使えるようになる練習を。
「お兄様の魔力を動かすのは、とっても楽しい!」
練習するたびに、うまくなっていったの。お兄様がやってきた時に試したら、お兄様が使っている分も動かせたの。
それってつまり、お兄様が持っている魔力も、メアリがあやつれるってこと。そこから、案が浮かんできたの。
「うん、うまくやれば、お兄様もあやつれたり?」
そんな事を考えると、お腹がキューってする感覚が強くなったの。お兄様を、メアリが好きにする。きっと、お兄様はちょっと怖がっちゃうんだろうな。
どんな顔をするのか、見てみたい。それに、お兄様にメアリとキスとかさせてみたいの。
だけど、まだ無理だから。今は、練習をするしかないけれど。
「今は、全身にお兄様の魔力を感じて……」
お兄様の魔力とメアリがつながっていけば、もっとあやつれる気がしたの。そのためには、どんな事をすれば良いか。色々と考えてみたんだ。
「メアリの魔力と、お兄様の魔力を混ぜちゃえば……」
思いつきを試してみたら、うまくいったの。ふたりの魔力が混ざっていって、動かしやすくなっていった。
この調子で進めていけば、きっともっとうまくあやつれるの。
「うん。ちょっと、お兄様と同じになったの」
お兄様とメアリが、ひとつになるような感覚。頭がふわふわして、とっても幸せでいっぱい。
やっぱり、お兄様はメアリを幸せにしてくれるの。それが、また分かったの。
「お兄様の魔力に、メアリの魔力を混ぜてみたいの」
メアリの魔力にお兄様のが混ぜられるなら、逆もできるはずなの。そう考えて、練習を始めていったの。いつか、お兄様をあやつれるかもって。
「きっと、お兄様の全身にメアリの魔力が……」
お兄様を、メアリで染め上げることができるかもしれない。今、メアリがお兄様の魔力でいっぱいになっているみたいに。
「なんか、ゾクゾクするの。お兄様を、メアリが……」
すっごく震えてしまったの。お兄様を、メアリのものにできるかもって。
いつか、メアリとお兄様はひとつになるの。その時は、今メアリが感じている幸せを、お兄様にも教えてあげるの。
ね、お兄様?




