470話 計画の終わり
メアリがブラン家の当主に屋敷へと誘われた。メアリはそこへと向かっている。俺は闇魔法で状況を確認しつつ、何かあったら動けるようにしていた。みんなとも連絡を密に取り、即座に対応できるように。
それからしばらく。今は、メアリが屋敷にたどり着いたところのようだ。そこで、今回の計画に関わる人間を呼び出しておく。
ミーアとフィリス、そしてミュスカとセルフィが今回のメンバーだ。リーナは、王宮で裏方に回る予定らしい。
そんな感じで待機していると、メアリが魔法を使った反応があった。
「レックス君、動きがあったみたいね! 私も行くわ!」
すぐにミーアが察したようだ。俺に付き合って、ブラン家の屋敷まで飛んでくれるらしい。メアリというマーカーがあるから、転移は容易だ。
後は動くだけ。ということで、俺は一度みんなを見回す。
「ああ。みんな、手伝ってくれるか?」
「……当然。レックスのために、私は何でもする」
「任せてって言っただろう? もちろん、問題ないよ」
「ふふっ、私の出番だね。行こう、レックス君」
フィリスは相変わらず淡々と、セルフィは力強く頷いている。ミュスカは柔らかく微笑んで、こちらに手を伸ばしてくる。
「ああ、行くぞ!」
俺の言葉に、みんな同時に頷いた。それに合わせて、転移していく。その先では、すでにボロボロになった屋敷と、敵らしき男に杖を向けるメアリの姿があった。
もう、大勢は決して居るように見える。わざわざ、俺が助けに向かうまでもなかったかもな。
とはいえ、まだ油断するには早い。周囲を探ると、まだ敵の気配はある。俺が何かを言う前に、フィリスとセルフィ、ミュスカはそれぞれに動き出していた。
俺はミーアとともに、メアリの様子を見守る。介入できるように、スキをうかがいながら。
「バカな……。魔力を封じる策は、講じたはず……」
敵の言葉に注意深く周囲を探ると、床に何かしら魔力が込められている反応があった。だが、特に効果を発揮していないようだ。
とはいえ、これでメアリに対策を打っていたことは明らかになった。やはり、許せそうにないな。
「ふーん。やっぱり、メアリを狙っていたんだ。じゃあ、死んじゃえ」
メアリは冷たい顔で、敵に杖を向ける。その瞬間、ミーアが大声を上げた。
「メアリちゃん、ちょっと待って!」
「どうしたの、王女様? この人、メアリを襲ってきたんだけど」
「ええ。だからこそ、私が来たのよ。王家をたばかるものに、相応の裁きを与えるためにね」
「ミーア様! この女が、急に襲いかかってきたのです!」
敵はミーアに助けを求めようとしているようだ。さっきまでの会話は、聞こえていなかったのだろうか。どう考えても、俺とミーアは味方なのだが。
そんな相手に目を細めて、ミーアは堂々と宣言する。
「見苦しいですね。この期に及んで、言い逃れができるとでも? 私が宣言します。ブラン家は、取り潰しです」
凍てつくような雰囲気を出しながら、ミーアは告げる。敵は一歩下がりながら、周囲を見回す。そして、引きつったような声で叫びだす。
「お前たち! 何をしている! 我が危機なのだぞ! ひとり残らず、出てこんか!」
「……始末。もう終わった。誰一人として、あなたの兵は残っていない」
「あなたの計画の証拠なら、ここにあるよ。だから、もう終わりかな」
「レックス君に見てもらえなかったのは、少し残念ではあるね。もちろん、手なんて抜いていないさ」
もう、終わったみたいだ。あっという間だったな。念の為に周囲を探ってみたが、本当に敵の気配はなくなっている。
「そういうことだ。おとなしく、沙汰を受け入れることだな」
「おのれ! 私は、五属性に……! 公爵にふさわしい、力を……!」
敵の言葉で、やはりメアリの秘密を狙っていたことが分かる。どういう過去があったのかは知らないが、メアリを傷つけようとした時点で許す気はない。
強い魔法を手に入れたいという気持ちは、分からなくもない。だが、それでメアリを狙うのなら、俺にとっては殺すべき敵だ。
「もう良いわよ、メアリちゃん。好きにしてちょうだい」
「分かったの。凝縮岩竜巻」
メアリは敵に竜巻を放ち、そのまま竜巻は敵に向けて突き進んでいく。
「おのれ、毒婦共が……!」
そんな言葉を残して、敵は竜巻に飲み込まれていった。これで、黒幕は始末できたことになる。
素直に相談でもしてくれれば、力になる可能性はあったのだがな。だが、暴力という手段を用いた時点で、協力する道はなくなった。結局、器ではなかったのだろう。
まあいい。そんなことより、メアリだ。様子を見ると、つまらなそうにしている。とはいえ、傷は見当たらないし、問題はなさそうだ。ひとまず安心できて、軽く息をついた。
「さて、終わったわね。みんな、お疲れ様」
「相手を殺してしまって、良かったのか?」
「そのために、私が来たのよ。私を襲ったから始末したって言うためにね」
ミーアを殺そうとして、だから死んだということになるのだろう。完全に、反逆者として人生を終えたことになるのだな。
そうなってしまえば、居るのか分からない家族も大変だろう。まあ、知ったことではないが。完全に無関係なら、少しは可哀想だと思う。それでも、わざわざ手を差し伸べる理由にはならない。どうせ、恨まれているだろうからな。
「一応、お礼は言っておくの。ありがとう、王女様」
メアリはミーアにペコリと頭を下げる。言い回しは少し気になるが、ここで注意してもな。ミーアは笑顔のままで、気にした様子は見られないのだし。
とはいえ、王女に対する態度ではない。これから、教育が必要になるかもな。まあ、プライベートだと判断している可能性もある。頭ごなしに注意せず、まずは様子を見てみるか。
「どういたしまして、メアリちゃん。レックス君のためだもの。当然だわ」
なんか、ミーアの言葉にも引っかかるところがある。特に、俺のためだというあたり。最近、以前より細かく修羅場の気配を感じ取れるようになってきたのではないだろうか。これも慣れというやつかもな。
まあ、俺が中に入れば、余計にこじらせるだけだろう。ひとまず、本題に戻しておくか。
「ミーアもみんなも、ありがとう。メアリも、お疲れ様だったな」
「……当然。私はレックスの師として、レックスを支えるだけ」
「私は、あまり役に立てていなかったからね。挽回したいと思うのは、当然のことさ」
「レックス君が、私を信じて頼ってくれる。それだけで良いんだよ」
フィリスは薄く微笑み、セルフィは朗らかに笑い、ミュスカは優しく笑みを浮かべていた。みんな、俺のために頑張ってくれたんだよな。後で、しっかりとお礼を形にしたいところだ。
本来なら、金銭的にも大きくお礼をするべき場面だとは思う。ただ、みんなとの関係性を考えれば、むしろ嫌がられる気もしてしまう。ひとまず、食事をおごったり何かしら贈り物をしたりして調整しよう。
「さて、帰ろうか。これで、状況が落ち着くと良いが」
「……追加。噂への対応も、必要と推測される」
「もちろん、私の方で手を打つわ! 相手が王家の敵なら、簡単よ」
メアリを狙えば属性を増やせるとなれば、絶対に今後も敵は現れるだろうからな。根本的な手は打ちたかった。ミーアの言葉は、渡りに船だな。
「助かる。メアリが狙われ続けるようなら、許せそうになかったからな」
「やっぱり、お兄様は最高のお兄様なの。ずっと、一緒にいてほしいの」
俺に抱きつきながら、メアリは最高の笑顔を見せてくれた。それだけで、これまでのすべてが報われるようだった。




