467話 計画を立てて
俺が闇魔法で敵から手に入れた情報を、ジャンとミルラに精査してもらっている。黒幕については、もともとあたりが付いていた。だから、少なくとも候補を絞ることはできるだろう。
そう考えて、俺は魔法の訓練や周囲との交流に時間を使っていた。調査で手伝えることは、実質的には無くなったからな。
しばらくすると、ジャンとミルラに報告があると伝えられる。メアリも一緒がいいとのことなので、連れてきた。そうして、会議を始めるところだ。
まずはジャンが、俺に向けて話し始める。
「兄さん、黒幕の正体が分かりました。相手は、ブラン家です」
ジャンが候補として挙げていた中に、居たような気がする。本当にその程度しか知らない相手だ。
これまでに交流したことはないし、特に恨まれる理由に心当たりはない。だから、俺への恨みがきっかけでメアリを狙った可能性は低くなったな。
それ以外のことは、あまり分からない。有力貴族ではあるはずだが、他は知らないんだよな。
「確か、公爵家だったか? 会ったことはないはずだよな?」
「メアリも知らないの。そんな人、会ったことなんて無いの」
「私の知る限りでは、そうでございますね。余計に、動機が分かりやすいと存じます」
ミルラは淡々と告げている。まあ、最初から想像していた通りだという話だな。メアリの魔法を狙っていた可能性が高かったが、ほぼ確定というレベルにまで来た。
一応、別の目的がある可能性もゼロではない。ただ、ほとんど決め打ちでいいだろう。ここまで来たら、相手の狙いで俺達がやることが変わったりしないのだし。メアリを狙った報いを受けさせるだけ。
「メアリを利用して、自分か親族の属性を増やしたかったってところか」
「おそらく、そうでしょうね。問題は、どうやって黒とハッキリさせるかですが」
そこが問題なんだよな。いくらなんでも、公爵家を攻撃するには相応の理由が必要だ。ブラック家から見た理由ではなく、周囲が納得できるものが。
メアリを狙ったことを理由にしても、証拠が出せなければ意味がないのだし。あまり軽率に行動すれば、周囲が敵に回りかねないんだよな。
「冤罪で殺したことになれば、かなり面倒だからな。大義名分の用意だが……」
「ミーア様にも手伝っていただくべきと存じます。私たちだけよりも、確実に良い手が取れるでしょう」
たとえ裏向きだとしても、王家が味方になってくれれば心強い。周囲を味方にする上で、これほど心強い存在はないからな。
「ブラック家は、まだ周囲を味方に抱き込めるだけの立場ではありませんからね」
俺の味方になってくれそうなのは、今回協力してくれた相手以外にも居る。敵と同じ公爵家であるルースのホワイト家なんかは分かりやすいな。後は近衛騎士と、ミュスカやセルフィもだろうか。
できることなら協力を求めたいところではあるが、使い所も大事だ。結託していると思われたら、後々困るかもしれない。とはいえ、手段としては考えたいが。
まあ、貴族家の数を考えれば、大勢力とまでは言い切れない。やはり、俺の知り合いを巻き込むだけでは足りないだろう。策は必須と言える。
「証拠でもあれば、話は早いんだが……」
「メアリが行ったら、それで終わりにならないの? やっつけちゃうの!」
メアリは元気いっぱいに宣言している。そこで考えてみたのだが、手段としては思いつくものがある。
あまりメアリを危険にさらしたくはないのだが、このまま耐え続けても危険なのは変わりない。いっそ根っこを断てるのなら、考えるだけの価値はあるよな。
言い方は悪いが、メアリを餌にして黒幕を釣るような形。魔法が狙いとなれば、手に届きそうなら動くはずだ。これまでだって、明らかに無理な攻め方をしてきたのだし。
「確かに、悪くないかもしれないな……。メアリを攻撃したとなれば、言い逃れはできない」
「本人を目の前にして、焦りから手を打つ可能性もございます」
「とはいえ、メアリの安全は確保したいところだ。どうするのが良いか」
「メアリならへっちゃら! それに、お兄様だって守ってくれるでしょ?」
メアリは笑顔でこちらを見ている。信頼が強く伝わってくるようだ。
まあ、メアリの杖にもメアリ本人にも、俺の魔力は侵食させている。闇魔法を込めたアクセサリーも送っている。その観点から言えば、よほどのことがない限りは問題ないだろう。
それに、メアリ本人だってかなり強いからな。どうにかすることは、まあできるはずだ。
「ああ、そうだな。なら、その方向性で行くか」
「いきなり訪ねていっては、周囲に疑われるでしょう。場を用意するのが、大事でしょうね」
「相手が公爵家であることを利用するのが、方針になると存じます」
ミルラは真面目な顔で提案してくる。公爵家であるとなると、権力や立場を持っているということ。となると、権力でメアリを手に入れようとしてもおかしくないのか。
ならいっそ、権力なら手が届くと思える状況を作ってやれば良い。そういうことだろうな。
「ああ、なるほどな。相手の方からメアリを呼び出してくれれば、違和感は持たせられるのか」
「その際に、周囲の目があれば良いんですけど。無くても、多勢に無勢を演出したいですね」
ジャンの提案も大事なことだ。メアリが急に暴走して殺したわけではないという証拠が大事になる。どう考えても公爵が疑わしい状況になれば、死人に口なしということもある。
とりあえず、公爵が黒という雰囲気さえ出せれば、後はどれだけでっち上げても良いんだ。相手が手段を選ばないというのなら、こちらも同様だというだけ。
「どれだけ敵が多くても、メアリがやっつけちゃうの!」
「確かに、明らかに敵が武装でもしていれば、言い逃れの材料にはなりそうだな」
「そういうことです。敵にとっては、絶好の機会でしょう。持てる戦力は、尽くすのではないでしょうか」
いっそ、敵が多い方が公爵を悪者にできそうだな。どんな理由であれ、メアリに対して暴力を振るおうとしたという形になれば。
もちろん、敵に負けたり、メアリが傷ついたりしないように気をつけなければいけない。とはいえ、メアリに罪が及ばないことも大事だ。しっかりと、場を作りたい。
「無論、こちらでも根回しはする所存でございます。利益を分ける相手を選ぶことも、大事でございますから」
「ブラン家が潰れて嬉しい相手を、取り込むというわけか。確かに、大事だな」
それこそ、ルースのホワイト家あたりと結託するのが良いんじゃないだろうか。周辺に利益を与えつつ、敵から搾り取れるような形で。
公爵家が潰れるとなれば、大きな利権が発生するだろう。その割り振りを事前に談合で決めておく。ミーアやリーナも巻き込めば、かなり大掛かりな仕掛けができそうだ。
「なら、後はメアリがやっつけちゃえば良いんだよね?」
「ああ。メアリのやることは、危なくなったら敵を倒すことだけだ」
そう言うと、メアリは強く頷いた。やる気は十分みたいだ。となると、しっかり敵を倒してもらおう。それが一番いい。
「メアリなら、まず負けることはないでしょう。相手は、三属性使いですし」
「とはいえ、できる限りの準備をしておこう。万が一は、避けたいからな」
メアリの安全のためにも、できることはすべてやる。そのつもりで宣言すると、ジャンとミルラも頷いてくれた。
さあ、報いを受けさせる時が近づいているな。できるだけ、油断していてくれ。その方が、楽ができそうだからな。




