465話 目的のために
敵が襲撃してくることに関して、ひとまず戦力の割り振りは終わった。とはいえ、ジャンやミルラにはまだ話すことがある様子。
ということで、今度はマリンやソニア、クリスも集まって会議をすることになった。集まったメンバーの時点で、話題は明らかだな。仕掛けることになっている罠に、魔道具も含めるのだろう。
まずはジャンが、さっそく話し始める。
「戦闘だけではなく、こちらでも罠を仕掛けたいところですね」
「魔道具の実証も、おこなえると良いのではないかと愚考いたします」
予定通りの話になったな。問題となるのは、どう魔道具を運ぶのかという点と、実際に誰が使うのかという問題だ。
いくらなんでも、マリンやソニア、クリスを戦場につれていくのは論外だと思う。研究者を戦いの場に運んで被害でもあったら、損害は計り知れない。
それなら兵隊に持たせるかという話になるが、訓練もしないで運用するのは無理だろう。急な戦いで実験をするには、あまりにも分が悪い。素人にどこまで使えるのかという点なら、もっとやり方があるはずだ。
総じて、課題が多い気はする。そのあたりをどうするのだろうか。
「レックス様の力があれば、人を使わずとも運用できるのです」
「ほんと、レックス様ってすごいよねー。私たち、いらなかったりしてー」
「それはないと思うよ。仮に能力が足りなくても、必要としてくれるから……」
なんというか、熱っぽい目で見られている気がする。特にソニアとか。クリスはからかうような目で見てくるだけ、まだ軽そうだ。マリンも尊敬の目をしているし、なんか空気が変な感じになっている。俺は今、戦いの話をしているんだよな?
慕われることそのものは嬉しいが、どうにも困る瞬間もあるな。極端なことを言えば、俺のために人を殺しかねない雰囲気があるというか。気のせい、だよな?
いや、いま大事なのは魔道具の実証実験の方か。そっちに話を戻そう。
「まあ、本題に入ろうか。ひとまず、それぞれに案を出してほしい」
「魔道具を遠隔で操作する実証がしたいのです。どの程度の衝撃なら耐えられるかもです」
「炎を出すとか、雷を出すとか、単純な魔道具だねー」
「複雑なのは、まだ実証段階に達していないもんね……」
なるほどな。まあ、そんな単純なものでも、武器としては十分なのかもしれない。地面に埋めて地雷代わりに運用ができてしまえば、大変なことになるだろう。
技術を進めすぎてしまっては、戦争は残酷なものになるのだろう。ただ、こちらが先手を取れるうちにノウハウを積み重ねなければ、後手に回った時に困るどころじゃない。
結局のところ、実証実験については良い機会だと思う他ない。悲しいことではあるが、仕方ないな。
さて、どうやって運用するかに移っていこう。といっても、転移を使うか、あるいは闇魔法を遠隔で操作して運ぶかくらいだろうが。いくらなんでも、大規模な工作を人員を使って実行すれば、目立ちすぎる。
「なるほどな。そうなれば、俺は運びさえすれば良いのか」
「はいです。遠距離を確認する魔道具もあるので、こちらで使えるのです」
さっきは複雑なものを作れていないと言ったのに。まあ、兵器の研究は後回しということなのだろう。確か、そういう方針だったはずだ。工業化を中心に進めていくんだったよな。
そうなると、カメラかレーダーかは分からないが、必要性としては理解できる。それに、俺の通話という研究材料もある。理屈としては、納得できなくもない。早すぎるとは思うが。
「とんでもないものを作っているな……。俺の通話を研究したのか?」
「そうなるかな。基本的には、空間に干渉する特性を利用したんだよね」
「レックス様が居なかったら、形にはできなかったよねー」
「ということで、事前に用意した戦場に引き込みたいんです」
「こちらでも、情報操作などは実行するつもりでございます。ただ、レックス様のお力も借りたいと存じます」
大体分かった。というか、かなりえげつない戦術が生まれたんじゃないだろうか。遠隔で罠を発動できるとなれば、かなりのことができるだろう。
それこそ、工作員をひとり潜り込ませて大規模な破壊をするなんてことも、理論上は不可能ではないんじゃなかろうか。恐ろしい話だ。マリンたちという才能を味方にできたことは、本当に幸運だったな。
「なるほどな。遠距離攻撃やらなんやらで、敵を誘導したいと」
「そうですね。罠の検証をしても残った相手は、戦闘要員に任せようかと」
「皆様には、お暇をさせるかもしれませんが。ご承知くださると幸いでございます」
戦闘経験を積ませられないという意味では、まあ困る部分もある。とはいえ、相手の戦力もそこまで大きそうじゃない。そうなってくると、みんなが殺す機会が減りそうな方が嬉しい。
まあ、実証実験で遠隔操作する担当が殺すという意味ではあるのだが。ただ、心の負担そのものは少ないだろうな。良くも悪くも、バーチャルに人を殺したような感覚になるはずだ。
とりあえずは、今回の戦いに集中しておけば良い。メンタルケアとかも、必要ならば用意しないとな。
「俺からも、できるだけ説明しておくよ。とはいえ、戦わないのなら、そっちの方が良い気もする」
「レックス様って、本当に優しいよね。別に、私たちで勝手にしろって言われてもおかしくないのに」
「私達の身体が目的って訳でもなさそうだしねー。それはそれで、困っちゃうんだけどー」
「そのあたりの話は、落ち着いてからまとめれば良いのです。ね、レックス様」
しっとりとした目で、こちらを見られている気がする。というか、マリンも参戦していないかこれ?
なんというか、俺がみんなと関係を持つことが前提の話をされているような気がして仕方がない。うぬぼれだと笑ってくれても良いが、なんか当たっていそうなんだよな。
さすがに、何度も何度も繰り返していると、話の傾向というか考えていることが少しくらいは分かるように思える。とんちんかんなら、むしろ助かるくらいかもしれない。なんか、俺の未来がいつの間にか決まっていそうな雰囲気がある。
「俺の知らないところで後宮ができていそうな気までするな……」
「レックス様も、自覚されたご様子。こちらとしては、ありがたい話でございます」
「方針はまとまっているので、その話でも問題ないですよ」
目を見開きそうになった。まあ、やることは確かに決まったと言って良い。俺が運んで、後は実際に使うだけ。細かい動きは、今回決めることではないだろうし。
とはいえ、ミルラにもジャンにも肯定されるのはとんでもない事実だ。これ、外堀が埋め終わっていたりしないか?
「ジャン!? お前までそっち側なのか!?」
「兄さんが当主なんですから、妻や後継ぎの話は必要に決まっています」
「なら、ジャンもだな……」
「僕が子供を残すと、後継者問題が白熱しそうですし。面倒なんですよね」
「俺に気を使わなくても良いんだぞ……?」
「本音を言うと、妻や子供に愛情が注げる気がしないので。その辺は、兄さんに任せます」
俺の抵抗は、儚く消え去った。ジャンの言う事は、まあ納得できる。だから、本人が望まないのに押し付けたらダメだろう。ということは、俺がいずれ後宮を持つことは決まっているのかもしれない。
男の夢なはずなのだが、どうにも受け入れがたい気持ちはある。不誠実だからなのか、なんなのか。
まあ、俺が何を言おうと関係ない部分はあるよな。フェリシアとかラナとかを見捨てたら、貴族としての立場まで終わりそうだし。諦めるしか無いのだろうか。
「なら、仕方ないのか……」
そんな事を言うと、ジャンには当然のように頷かれた。メアリのことが終わったら、また大変な問題が待っているのかもしれない。
とはいえ、今は次の戦いに集中しなければ。まずは、そこからだよな。




