464話 戦いの意味
メアリの魔法にある秘密を狙って、敵が攻めてくるらしい。ブラック家としては、敵を打ち破るために全力を注ぐだけでいい。もちろん、闇魔法で情報を引き出せるのなら実行はするが。
ミーアやリーナも調査に入ってくれているから、そちらに期待するのも大事なことだ。頼り切りは論外ではあるが、ある程度は任せても大丈夫だろう。
そこで、今回は戦いのために必要なメンバーを集めて会議をする。作戦を練るジャンとミルラ、当事者であるメアリ、戦うことになるフェリシアとラナ、ジュリアだな。
誰もが一騎当千レベルの強者なので、そう苦戦はしないだろう。五属性使いでも連れてこられたら話は別だが。現実的には、不可能に近い。そもそも、一生のうちに一度会うかどうかというレベルの存在なのだから。この国でも、両手で数えられる数を超えることはない。
とはいえ、それが策を練らない理由にはならない。しっかりと、準備をしておかないとな。俺はみんなを見ながら、話を始める。
「起こるらしい襲撃について、情報はつかめているか?」
「はい。僕の調べたところによると、複数方面から攻めてくる予定なのだとか」
「こちらでも対処する所存でございます。ですが、レックス様の助力もいただければと」
敵軍を誘導したり、罠を仕掛けたり、いろいろとあるだろう。その辺についても、しっかりとまとめておかないとな。
まあ、今回は戦い方についてだ。といっても、単純ではあるのだが。個々の力でねじ伏せるというだけ。
「メアリだって、やっちゃうんだから!」
「僕の出番でもありそうだよね。腕がなるかも」
「わたくしも、ですわね。ここまできて、邪魔とは言いませんわよね?」
「レックス様のために、あたしは全力を尽くします」
みんな、それぞれに気合いが入っている様子だ。やる気であることは、ありがたい。ここで尻込みするようなら、困っていたかもな。まあ、俺が代わりに戦うだけかもしれないが。
とはいえ、みんな重要な戦力なんだよな。メアリは五属性を持っているし、ジュリアも無属性という特別な力がある。フェリシアやラナも、魔法との合一という切り札を持っている。
みんなを戦力として考えられることは、とても大きな意味を持つ。
「まずは、前提条件の確認だ。攻撃を受けたら、こちらで反撃をする。それでいいか?」
「僕としては、問題ありません。兄さんに手伝っていただければ、どうとでもできますから」
「そうでございますね。闇魔法の力を、感じるところでございます」
転移で移動したり、侵食した魔力を通して罠やらなんやらを使ったり。まあいろいろとできる。戦闘要員の出番になるまででも、かなり削ることはできるはずだ。
相手はおそらく弱いと思うし、ジャンやミルラ、ミーアからも危険な相手がいるという情報は出していない。それでも、ちゃんと打てる手は打っておく。とても大事だよな。
「役割としては、俺が遊撃、残りのメンバーはそれぞれの方向に対応するということでいいか?」
「メアリだって、ひとりでも勝てるんだから! ちゃんと、強いってことを証明してみせるの!」
「僕は役割を果たすだけだよ。誰が相手だろうと、レックス様の敵は斬る。それだけかな」
「わたくしとしては、力を示す良い機会でもありますわね。レックスさんの手をわずらわせませんわよ」
「あたしは、レックス様のために戦うだけです。無論、容赦はしません」
メアリは自信満々に胸を張って、ジュリアは堂々と宣言する。フェリシアは優雅に笑いながら意志を示して、ラナは強く頷いていた。
俺としても、全力で戦いたい。メアリの敵は、俺の敵なのだから。容赦する理由は、どこにもない。
「みんな、助かるよ。怪我なんかをしないように、気をつけてくれ」
「僕としても、損害は避けたいですからね。しっかりと策は練るつもりです」
「レックス様のお心を傷つけることは、私の望むところではございません」
せっかく俺に協力してくれる誰かが傷つくのは、本当に嫌だからな。万が一犠牲にでもなったら、俺はきっと立ち上がれないだろう。
だからこそ、絶対に油断なんてしない。過剰な防衛になったとしても、全力で叩き潰すまで。
なんとなく、以前の俺より残酷になった気もする。とはいえ、相手が攻撃してくる以上はどうしようもない。まさか、殺さないように手加減して戦えなどと言えるはずがないのだから。仲間が傷つく可能性が高まるのなら、敵を殺すだけ。それは、ずっと変わっていない。
結局のところ、いくら強くなっても、戦いでは殺すことしかできないんだよな。残念ではあるが、仕方のないことだ。
「ああ、そうだな。みんなが無事でいてくれることが一番だ」
「まったく、心配性ですわね。ですが、悪い気はしませんわ。わたくしも、変わったということですわね」
「メアリだって、大丈夫だもん! お兄様に心配なんてさせないんだから!」
「僕たちを大事にしてくれているのは、よく分かっているつもりだよ」
「あたしも、油断なく勝ってきます。レックス様の敵を葬るために」
みんな、俺に心配させないように気を使ってくれている。だったら、俺のできることは応援して送り出すことだけだ。
とはいえ、俺はみんなの誇りを打ち砕いてでも命を守ろうとするだろう。たとえ嫌われる未来が待っていたとしても、絶対に変わらない。みんなを失うくらいなら、どんなことでもする。
それはそれとして、みんなの戦いを奪うべきではないというのも分かる。どうせ、まだまだ戦いは待っているんだ。今回の事件が終わろうと、どこにだって火種はある。なら、成長の機会として割り切ることも必要だ。
考えなくてはならないことが多くて、どうにも大変だ。だが、絶対に必要だからな。
「危なくなったら、俺が転移で支援する。だから、遠慮なく助けを求めてくれ」
「必要になったら、ですわね。当然、境界線を間違えはしませんわ」
「メアリも、ちゃんとオトナだから! お兄様の言う事は守るの!」
「安心できそうですか、兄さん。弱い相手で実験できるのは、悪くないと思いますよ」
失われる命を思えば、残酷な話ではあるのだろう。ただ、本当に悪くない。みんなが戦いに慣れて、強くなる。それがどんな意味を持つか、分かってしまうのだから。
結局、俺は闇魔法が通じない敵には何もできない。それこそ、邪神そのものが敵になれば。だからこそ、みんなの力を借りることは前提条件なんだ。歯噛みしそうなくらい悔しいが、妥協するしかない。
「ああ、そうだな。みんなに頼ることは、絶対に必要なんだ。今のうちに、慣れなければな」
「メアリ様のためにも、不届き者は早く始末したいですね。あたしにとっても、邪魔ですし」
「じゃあ、張り切っていこう。レックス様のためにね」
さて、さっさと敵を片付けてほしいものだ。みんなが苦戦するのは、望むところではない。いずれは、危険な戦場もあるのだろうが。
せめて、その瞬間が少しでも遠くなればと。そんな祈りを込めながら、俺は頷いた。




