463話 手助けの意味
王女姉妹に手伝ってもらえることになり、調査に関しては進みやすくなるはずだ。
とはいえ、俺にできることもやっておきたい。ということで、闇魔法の訓練を実行している。遠くへ何かを飛ばすようなことができたら、進展するだろうからな。
分身が理想ではあるものの、まだまだ厳しい。そこで今は、侵食した魔力を通して敵の情報を読み取る魔法の研究をしている。つまり、遠くの戦場にいる敵から情報を引き出すわけだ。
そんな事をしていると、ミーアから通話の反応があった。何か進展があったのだろうか。
「レックス君、そちらへ襲撃を手配している動きをつかんだわ!」
さっそく、良い情報をくれた。まあ、良くない状況ではあるのだが。とはいえ、事前に分かるだけで大きい。それなら、十分に対処ができるはずだ。
おそらくは、メアリを直接狙うという手に出たのだろう。そうなってくると、力が入っていたりしてな。
いずれにせよ、今のうちから準備をして、しっかりと叩き潰したいところだ。そのために、ミーアは通話してくれたのだろう。
「なるほど。つまり、迎撃しろと?」
「そうね。遠慮なくやってくれていいわよ。建前は、用意しておくもの」
一応、敵が情報操作というか、こちらが悪であるというストーリーを用意してくる可能性もある。だったら、ミーアの提案はありがたい。こちらは、ただ敵を倒すことだけに集中できる。
どれだけの軍勢が来るのか次第ではあるが、俺もしっかりと戦うべきだろう。
「助かる。メアリを狙うようなやつに、あまり手加減できそうもなくてな」
「それは仕方ないわ! リーナちゃんに同じことをされたら、私も同じことをするもの!」
それはそうだろうな。リーナの暗殺未遂が起きた時、相当に怒っていたからな。それがきっかけで、リーナとの関係が改善されたはずなのだし。
なんだかんだで、俺達には敵が多い。戦いばかりになるのも、必然なのかもしれないな。ため息をつきたい気分だ。つい、額を抑えてしまう。
「あんまり暴力は振るいたくないんだが、どうしてもな……」
「レックス君の気持ちは、分かるつもりよ。だけど、わざわざ攻撃してくる人が悪いのよ」
まあ、無抵抗主義とはいかないよな。俺個人ならまだしも、仲間の安全だってかかっているんだ。だったら、殺してでも守るのは俺の義務でもある。俺には力があるんだから、逃げ出すことはできない。
とはいえ、人を殺して喜びたくもない。実際、嬉しくはない。だが、俺がやらなければ、誰かが代わりにやるだけ。その時には、傷つく人が増えるかもしれない。
まったくもって、嫌になる話だ。相手が何もしてこなければ、俺は戦わずに済むのだがな。
「まあ、そうなんだが。ままならないものだな」
「そうね。でも、どうしようもないわ。私たちが仲良くできていることを、喜びましょうよ」
それは、喜ぶべきことではある。原作では敵対していた相手だし。俺とミーアも、ミーアとリーナも。みんなが仲良くしているのは、とても大事なことだ。修羅場こそあるものの、本気で敵対はしていないのだし。
今の俺達があるのは、みんなが受け入れてくれたからだ。それは、絶対に忘れないようにしないとな。
「ミーアたちと友達になれたのは、確かに嬉しいな。俺の誇りだ」
「そう言ってくれるのなら、私も嬉しいわ! お互い、頑張りましょうね!」
「ああ。襲撃に関しては、俺の方でどうにかするよ。仲間もいるからな」
「私たちは、裏の動きを探ってみるわね。黒幕に、たどり着けるかもしれないわ」
王族の権力やツテなんかがあれば、探りやすいのだろう。頼ると決めたことだし、そこはしっかりと任せておこう。
俺は、今回の襲撃を撃退し、明らかになった黒幕を打ち破る。それを考えていれば良い。頭を使う仕事には、あまり向いていないからな。
「期待している。分かったら、どうにかして打ち破りたいものだが」
「任せて! 根回しは、しっかりしておくわ! ちゃんと、倒せるようにね!」
本当にありがたいサポートだ。俺はただ、戦うことだけを考えていれば良い。たとえ苦しくとも、楽な道だからな。
敵を倒すというのは、とても単純だ。その楽さに、甘えすぎたくはないが。ただ、得意なことを得意な人に任せるのも大事だ。俺が全部を背負い込まないと、約束したことでもあるし。
ジャンやミルラも、きっと手伝ってくれているのだろう。しっかりと、感謝を形にしないと。
「それなら、助かる。和解は、期待できそうにないからな」
「武器を持って襲いかからせた時点で、今さらだわ。気にしなくていいのよ」
確かに、間違ってはいないか。殺しにかかってくる相手にまで、配慮する意味はない。仮に殺す気がないとして、武器を手に脅す時点でというやつだ。
それに、狙われているのは俺じゃない。だからこそ、妙な甘さを見せるべきじゃないよな。
「まあ、メアリが襲われているわけだからな。妥協はできない」
「レックス君が危険なら、私が許さないだけよ。それが、友達でしょ?」
とても優しい顔をしているのは、見なくても分かる。穏やかな声で言われているからな。本当に、良い友達を持ったものだ。
俺が困った時には、全力で助けてくれる。言葉だけじゃないことなんて、明らかだ。どれほど、素晴らしいことか。何度も頷いた。
「確かにな。俺だって、ミーアを襲うようなやつは許せそうにない」
「嬉しいわ。やっぱり、レックス君は優しいわよね。ほんと、会えて良かったわ」
俺が優しいかはともかく、会えて良かったと思ってくれているのは嬉しい。だから、素直に受け取るべきだよな。ここで謙遜したって、ミーアの気持ちを裏切るだけだ。
とはいえ、ミーアだって優しいとは思うんだよな。それを、少しでも伝えよう。
「こちらこそ、だ。ミーアと出会えて、どれだけ良い日々を過ごせたか」
「もう、ダメよ? レックス君は、相変わらず女の子の気持ちを分かっていないんだもの」
たしなめるように言われてしまった。今回のも、口説いている判定なのだろうか。俺が悪いのは、状況が証明している。言っているのがひとりやふたりではないからな。明らかに、俺の側がおかしいのだろう。
とはいえ、まだ感覚は分からない。注意されてようやく気づけるという感じ。これはこれで、困ったものだ。
「こういう感じのも、ダメなのか……。なかなか、褒めるのも難しいな……」
「もちろん、気持ちは嬉しいわ。だけど、気をつけなきゃね」
「最近は、自分でも分かってきた気がするよ。口説いているつもりは、なかったんだがな」
「自覚が成長の一歩よ! 知らない人には、言っちゃダメよ?」
出会ったばかりのクリスやソニアに、似たような反応をされた。つまり、知らない人にも言っていることになる。
普通にセクハラと思われてもおかしくないんだよな。今のところは、全員に受け入れられているとはいえ。気をつけるべきことなのは、間違いない。とはいえ、難しいが。
「新しく雇う相手に、出会った段階でやったんだよな……。いま思えば、うかつだった」
「どうせ、仲良くなっちゃったんでしょう? そういうところは、ダメダメよね」
呆れたように言われてしまった。完全に図星なので、反論もできない。本当に、何に気をつければ良いんだろうか。どうも、分からないんだよな。
「まあ、今となっては否定できないな……」
「でも、私の大切な友達よ。これからも、ずっとね」
そっと、優しい声で告げられた。ミーアの気持ちに応えるためにも、まずは襲撃を乗り切って、黒幕を倒さないとな。




