462話 協力しあって
メアリが狙われている件について、黒幕にあたりをつけるところまでは成功したらしい。いい流れだと言える。
とはいえ、そこから先の特定までは進んでいないようだ。何かしら、新しい一手が必要なのかもしれない。そうなってくると、手段として思いつくことはひとつ。誰かの協力を仰ぐことだ。
何人か候補はいるが、最初に話を通すとなると、王女姉妹だろうか。この国で起きている問題でもあるし、報告という意味でも必要だろう。
そこで、闇魔法でミーアに通話することに決めた。信号を送ると、反応が返ってくる。まずは、忙しくないかの確認からだ。
「ミーア、ちょっと相談があるんだが。大丈夫か?」
「状況は分かっているわ! メアリちゃんのことよね?」
なるほど。確かに伝わっているみたいだ。まあ、メアリの魔法については、噂として流れているようだったからな。王家に伝わるのは、必然と言える。
それなら、もう本題に入っても大丈夫だろう。さっそく、現状を伝えていく。
「そうだな。ある程度、黒幕にあたりはついたみたいなんだが」
「決定打がないということね。分かったわ。こっちでも、情報を集めてみるわね」
話が早い。やはり、王族として仕事をしているからだろう。ある程度、交渉事には慣れているのだろうな。
とはいえ、敵は大物貴族だと想定される。いくら王族とはいえ、簡単に手出しはできないはずだ。
「無理はしないでくれよ。こちらでも、ある程度はどうにかするつもりだ」
「それこそ、大丈夫よ。私だって、いろいろと頑張ってきたもの!」
強く宣言される。貴族としての立ち回りなら、王族の方がうまいのは妥当なところ。少なくとも、俺よりは得意だと思える。
それに、しっかり頼るのも大事なことだからな。反省したばかりで、また間違えるわけにもいくまい。
だったら、素直にお願いするのが良いはずだ。ミーアだって、俺に手を借りることもあるだろう。それでいい。
「なら、よろしく頼む。ミーアが手伝ってくれるなら、心強い」
「ありがとう! レックス君たちのために、張り切っちゃうわ!」
「なら、しばらくは待たせてもらうよ。もちろん、調査に動くつもりはあるが」
「それなら、リーナちゃんと話してくれないかしら? きっと、喜ぶと思うの」
楽しそうに提案される。王族というだけあって、たぶん忙しいと思う。だから、あまり積極的に通話はできないでいた。
とはいえ、今回はミーアの側から言われた。つまり、今のところは空いているのだろう。それなら、俺としても旧交を温めたいところだ。ミーアもリーナも、大事な友人だからな。
「分かった。ミーアも参加するんだよな」
「ええ。じゃあ、よろしくね!」
ということで、リーナにも通話をする。すぐに受け取られたので、まずはあいさつをする。
「リーナ、今は暇か? 機会ができたから、話してみたくてな」
「もちろん、分かっていますよ。姉さんの頼みでだなんて、薄情な人です」
少し、冷たい声をしている。さっきの話を聞いていたりしたのかもな。まあ、言われなければ話す気がないと思われても仕方ない。
俺としては、毎日でも話したいくらいではある。それは、間違いなく迷惑だからな。バランスが難しいところだ。お互い、いろいろと仕事もあるだろうし。
まあ、今は謝っておくべきだろう。嫌な思いをしたのは、事実だろうし。
「悪い悪い。リーナとだって話したくはあるが、そう簡単にはな」
「王族だってことなら、気にしなくていいのに! レックス君なら、いつでも歓迎するわよ!」
「レックスさんにも、立場というものがあるんですよ……。まったく、姉さんは……」
呆れたように、リーナはため息をついている。いつも通りの流れで、懐かしくなる。ミーアがテンション高く話をして、リーナが皮肉っぽく返す感じが。
こうして話をしていると、本当に楽しい。できれば、ただ友達としてだけ通話ができればよかったのだが。まあ、今は楽しい話を続けよう。それがお互いのためだ。
「分かっているのなら、薄情なんて言わないでくれよ……。いや、悪かったが……」
「仕方のない人ですね。今回は、許してあげます。面倒事にも、巻き込まれているみたいですし?」
なんだかんだ言って、毎回許されているんだよな。ツンデレじみているというか。そういうところこそが、リーナの魅力だろう。
口はちょっと悪いが、間違いなく優しい。俺に対しても、よく気を使ってくれる。本当に、良いやつだ。
「ああ。メアリのためにも、あんまり手が離せなくてな」
「ほんと、困っちゃうわよね! メアリちゃんを狙うなんて!」
「属性が増えたというのは、私も知っていますが。答えにたどり着けない時点で……」
リーナは俺が闇魔法で属性を増やしたと知っているみたいだ。覚えている限りでは、教えた記憶はないのだが。まあ、メアリとも何度か話していた。3属性だったことは、知っていてもおかしくはない。
というか、俺とある程度親しい相手なら、たどり着けてもおかしくはないか。逆説的に、答えが分からない相手の限界も見えてくると。
どう考えても、正解が分かっているのなら俺を狙うべきだからな。人質に選ぶにしたって、メアリ以外の方が効率が良いだろう。結局のところ、詰めが甘いのかもな。
まあ、油断は禁物だ。無策を装って、どこかで切り札を用意しているのかもしれない。警戒だけは、怠るべきじゃないよな。メアリの安全がかかっているのだから。
「そういえば、メアリの魔法は見たことがあるんだったか」
「はい。どうせ、レックスさんが何かしたんですよね。相変わらず、お人よしだことです」
呆れたように言っている。額に手を当てているのが思い浮かぶかのようだ。まあ、俺が怪しいのは当然だ。お人よしと言われるのも、リーナの問題を解決したからだろう。
暗殺を防いでから、仲良くなったんだよな。原作では、リーナは死んでいた。そうならなくて、本当に良かった。こうして話をして、強く感じる。
俺を大事にしてくれる、最高の友達なんだ。これからも、仲良くしていきたいよな。
「分かっているのなら、否定はしないが。あんまり広めないでくれよ?」
「私を何だと思っているんですか? そんなこと、しませんよ」
「リーナちゃんったら、素直じゃないわね! レックス君が大切なだけよね!」
「う、うるさいですね。レックスさんも、余計な心配は不要です」
リーナには、ちょっと冷たい声で言われてしまった。まあ、疑っていると言ったようなものだものな。反省すべきだ。メアリのこととはいえ、神経質すぎた。
「ああ、すまない。いらないことを言ったよな」
「別に、謝らなくてもいいですけど……。まあ、受け取ってあげます」
「リーナちゃんは、これでも嬉しがっているのよ。レックス君にも、分かるわよね」
ミーアはニヤニヤと笑っていそうだ。なんというか、リーナをからかうのが好きだよな。大事な妹なのだろうから、親愛表現でもあるのだろう。リーナには冷たくあしらわれているが、リーナ自身も悪く思っていない様子だし。
「本当に、うるさいですね。その口、ふさいであげましょうか」
「ごめんなさい、リーナちゃん! 許して!」
そんな会話に、つい笑い声を上げてしまった。
次に会話をする時には、事件のことなど考えずにいたいものだ。ふたりも手伝ってくれるみたいだし、とっとと解決したい。
また、楽しい会話ができたら良い。そんな希望も、胸に抱えていた。




