461話 モニカの魅力
レックスとメアリを迎え入れて、わたくしは少し前に進めました。メアリとの関係を、わずかに良くすることには成功したでしょう。
ベッドに入る準備をしつつ、わたくしは今後の計画について考えていきます。どうすれば、ブラック家にとって、そしてわたくしとレックスにとって良い未来になるのかと。
とはいえ、敵に関してできることは、今は少ない。周囲の貴族と会話する際には、誘惑して情報を集めていますけれど。ある程度あたりは付きましたが、どの相手も大貴族。そう簡単には、潰すことはできません。
ジャンとミルラに情報を共有しましたから、後は結果を待つ段階ですわね。
そうなれば、今のわたくしが優先すべきことはひとつ。レックスとの関係。
「レックスは、わたくしの変化を感じているようですわね」
過去を反省して、心を入れ替えた。そこまでとは認識していなくとも、わたくしが周囲との関係を変えようとしていることは伝わったでしょう。
もちろん、本気で変えようとは思っています。けれど、もっと大切なことがあるのです。
そう、わたくしの望みは、ずっと変わっていないのですから。ただ、取るべき手段が変わっただけ。それでいいのです。
「いい傾向ですわ。メアリやジャンを大切にする気持ちだと思われるのなら」
実際、大切にしようとは思っていますわよ。それこそが、わたくしの取るべき手段なのですから。レックスがわたくしに求めていることは、明らかなのですから。
そう。メアリやカミラ、ジャンとの関係を、しっかりと構築する。わたくしのやるべきことは、決まっています。
「レックスの望みを叶えつつ、周囲も敵に回さない。これが、立ち回りというものですわよ」
レックスは、わたくしと周囲が関係を壊すことを望まないでしょう。ですから、強硬手段は取るべきではない。融和こそが、わたくしの目指すべき道なのです。
つまり、家族だけでは足りないでしょう。メイドや配下に対しても、真摯に向き合うべき。腕がなりますわね。
わたくしは、誘惑を手段としてきました。これからは、応用していかねばなりません。レックスの周囲は、女ばかりなのですから。ただ美貌を表に出すだけでは、弱いのです。
つまり、周囲の心に寄り添うことこそが、最も効率的。善性こそが。ブラック家の人間が、そんな事を考えるとは。本当に、分からないものです。
「だからこそ、レックスの大切な人を大事にする姿勢を見せなくては」
レックスにとっては、大切な存在が最も優先すべきものなのです。それを大事にできるということは、レックスにとって居心地の良い存在になるということ。
母として、レックスの甘えるべき存在になる。そして、女としてレックスの欲を満たす。同時に叶えてこそ、ですわよね。
もちろん、レックスの方だけを見ていては、周囲には気づかれるでしょう。だからこそ、本気で。自分を騙すほどの覚悟を持って。それが、わたくしの戦術なのです。
「当然、周囲の好感度を稼ぐことも重要ですわね。優しく甘く、接しますわよ」
対抗心は、もちろんあります。ですが、それでレックスに嫌われるのなら本末転倒というもの。ならば、笑顔の仮面を被って、接しやすい相手として立ち回るのが基本でしょう。
それぞれ全員、仕事内容をしっかりと見聞きしましょう。その上で、成果と努力をきちんと褒めていく。
レックスと同じ生き方をしていると思えば、気分もいいですわよ。愛する男と、同じなのですもの。
「これが、貴族としての生き方。わたくしの力そのものですわ」
ただまっすぐに進むだけではない。いくつもの手段を重ねて、最終的に自分の利益を最大化する。周囲と協調し、利用し、最後に出し抜く。いつもしていることと、同じこと。
わたくしならば、実現できるでしょう。そして、やがてレックスと結ばれるための未来に至る。
「レックスがわたくしを好きになって良い環境を作る。それこそが、策というものですわよ」
わたくしを選べば、周囲が敵に回る。そんな状況は、レックスだって避けたいでしょう。ならば、丁寧に取り除く。レックスが安心できるように、周囲を操る。そういうものですわ。
レックスの好意だけを稼ぐのならば、もっと別の手段もあるでしょう。近道もあるでしょう。ですが、急がば回れ。忘れてはならないこと。
「ただレックスだけを見るだけでは、甘いのですわ」
レックスにとって、何が一番嬉しいか。それを考えれば、答えはおのずと見えますわよね。
わたくしは、ただ男におぼれるような女じゃない。むしろ、男をしっかりと立てて、心地よくわたくしにおぼれてもらわなければ。
レックスがわたくしを求めるようになれば。そんな想像をすれば、体が震えてしまいそうですわね。興奮しているのを感じます。
きっと、レックスはわたくしを受け入れるでしょう。禁忌と知っていて、それでも。わたくしを拒絶することなど、できないのですから。
ならば、愛しい男が生きやすいように道を整えてこそですわよね。選ばれることが分かっているのなら、迷うこともない。
「さて、これからは皆さんの好みを知っていくべきですわね」
仲良くするために、やるべきこと。レックスが周囲を大切にするから、わたくしは周囲を大切にする。ならば、他の女にとって大切なものを、同様に大切にすればよいでしょう。
自分を理解されたと思えば、心は自然と開かれていくもの。そのために、しっかりと準備を重ねましょう。最後に笑うのは、わたくしですわよ。
「レックスの母として、彼を愛するものとして、するべきことですわ」
レックスにとって快適な環境を、わたくしが作る。そうすれば、やがてわたくしを必要とするようになるでしょう。
だからこそ、わたくしは恋敵が相手であったとしても、安易に敵対などしないのです。
「将を射んと欲すればまず馬を射よ。年頃では、まだ分かりませんわよね」
ただレックスのことだけを考えていては、足りない。それを知った頃には、わたくしは勝負を決めているでしょうね。
周囲の環境も操作して、最適な立ち回りを見せる。それでこそ、男を落とすことができるのです。
「レックスが好きになるのは、自分の大切なものを大切にしてくれる人」
そう。いたずらに修羅場を引き起こすような女ではないのです。ただ険悪になっていれば、それこそ心の距離ができるでしょう。
レックスの望みを知って、自分の願望より優先する。今は、それが最も大事なのですから。
「そうと決まれば、わたくしは突き進むだけですわよ」
レックスの見ていないところでも、関係を良くする努力を続けましょう。単に男の興味を引くだけの行動ではない、本気。それこそが、レックスが本気で興味を持つ女というものでしょうね。
分からないのならば、わたくしの敵ではない。存分に、わたくしを嫌ってみれば良いでしょう。その先に何が待っているか。楽しみですわね。
「いつの日か、レックスと結ばれる。そう、急ぎすぎないのがオトナの女というもの」
そもそも、レックスがわたくしを抱けるようになる日は、まだまだ先というものでしょう。いま勝負を焦らずとも、構わないのです。
わたくしが勝つために必要なことは、余裕を見せること。そうですわよね。
「時間は、たっぷりありますわ。一歩一歩、レックスとの関係を深めていきましょう」
レックスがわたくしを好きになるように、ひとつひとつ外堀を埋めていく。最後になって、ようやく本丸に攻め込む。それこそが、最も効率の良い手段なのです。
わたくしは、待てる女。それを、レックスに刻み込んで差し上げましょう。
「そして、最後に結ばれる。これが、わたくしの愛ですわよ」
レックス。あなたがわたくしを抱く日を、ずっと待っておりますわよ。




