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46話 慕ってくれる相手

 学校もどきの様子は、ときどき見に行く。その中で、名前を覚えている人達もいる。主人公の関係者に見えるジュリア以外にも、何人か気になる相手がいたからな。


 例えば、原作で主人公の幼馴染だったシュテルとか。ウェーブの掛かった紫の長髪に、優しげな黒い瞳を持った女の子。確か、原作では物語に入る前に死んでいたはずだ。だから、詳しいことは知らない。強いて言うのなら、シュテルみたいな犠牲を出さないために、主人公が奮起していたことか。


 というか、彼女が居るのなら、ジュリアが主人公の関係者である可能性が高い。そうなってくると、対応に悩むな。そもそもシュテル自身が、主人公に近しい人間だからな。影響を考えると、扱いは慎重にするべきだろう。


 他には、クロノという、2人と仲の良いらしい少年も気になる。どうにも、同じ町で過ごしていたらしい。外見は、短い紫の髪に、黒い瞳。シュテルと似ているが、兄妹なのかは知らない。原作では出てこなかったから、よく分からないんだよな。


 強いて言うのなら、ジュリアとシュテルには慕われていて、クロノは好かれているか怪しい感じに見える。今後に関わるから、あまり嫌われたくはないのだが。


 建物に入って、3人の視界に入る。すると、ジュリアは手を振りながら駆け寄ってきた。シュテルはゆっくりと着いてきて、クロノは仕方なくといった感じに見える。


「レックス様、今日も来てくれたんだね。僕の活躍、見ていってよ!」

「はいはい、あまり興奮しすぎないの。レックス様のお邪魔にならないようにね」

「ラナ様だって忘れるんじゃない。俺達が感謝すべき相手を、見誤るなよ」


 ジュリアは元気いっぱいで、シュテルは冷静に見える。クロノは、機嫌が悪そうだ。嫌われている可能性も、想定しないといけないくらいだな。


 とはいえ、機嫌取りに動くのも難しい。俺が平民に媚びているなんて思われたら、終わりだからな。父は俺を許さないだろう。


 正直に言って、態度は良くないだろうに。ジュリアはよく慕ってくれているな。シュテルも、俺に好意的に見えるし。クロノのような態度が普通だろう。


「ジュリア、シュテル、クロノ。よくやっているようだな。褒めてやる」

「当たり前だよ! 僕のカッコいいところを見せるんだからね」

「こうして食事に困らないのも、レックス様のおかげですから。ジュリア、ちゃんと感謝しなさいよね」

「だから、ラナ様を忘れるなと言っているだろうが」


 どうも、クロノはラナを慕っている様子なんだよな。それなら、ラナに懐柔してもらったりできるだろうか。いや、余計に頑なになる可能性があるな。ラナをどう慕っているかによるのだが、他の男を褒める姿を見るのは苦痛だろうし。


 そう考えると、難しい状況だ。どうやって関係を良くしていくのか、しっかりと考えないといけない。慎重に進めていくのが大事だろうな。慌てても、余計に嫌われそうだ。


 というか、他の2人を軽んじるのも問題だからな。好きでいてくれているのだから、ちゃんと扱わないと。ジュリアは良い所を見せようとしてくれるし、シュテルは感謝を言葉にしてくれている。そこは、大切にしていくべきところだ。


「クロノ、うるさい。僕の活躍を見せられないだろう?」

「あんまりカッコつけすぎないことね。空回りしたら、本末転倒でしょ?」

「シュテルの言うことも正しいけど、僕は良いところを見せたいんだ」

「はいはい、仕方ないわね。私も手伝ってあげるわよ。レックス様、良ければ見て行ってください」


 とはいえ、2人とも魔法は使えないんだよな。それは知っているから、どんな形で活躍を見せるつもりは気になる。まあ、悪いようにはならないだろうが。好意は本物に見えるからな。


「ああ、見せてもらおうか。お前達がどの程度なのか」

「分かったよ。見せれば良いんだろ、見せれば」

「クロノ、レックス様に失礼でしょ! 私達の恩人なのよ?」

「僕がアピールする機会が増えるだけだから、問題ないよ」

「問題だらけよ! 私達の食事を用意してくれているのは誰? 勉強の機会を用意してくれているのは誰? それを考えなさいよ!」


 幼馴染なのだろうし、ここで仲違いされても困る。俺としては、みんなで協力してほしい。とはいえ、協力しろと言ったところで、素直に聞かれはしないだろう。主にクロノには。


 そうなると、悪役になるのが都合が良いか。どうせ、いつもと同じなのだから。


「お前達に理解してもらおうだなどと、思っていないさ。せいぜい役に立ってくれれば良い」

「当たり前だよ! 僕はレックス様の役に立ちたいんだ」

「私も、同じです。アストラ学園に通えるように、頑張りますね。ほら、クロノも」

「俺はラナ様への恩義を忘れない。俺達が今日まで生きてこられたのは、ラナ様のおかげだろうが」


 まあ、悪くないんじゃなかろうか。致命的な決裂には向かわないだろう。俺が役に立ったかどうかはともかく。どうせなら、関係が壊れないに越したことはないものな。


 ジュリアやシュテルがクロノと敵対するのなら、今のところは2人の方を選ぶが。人間としては当たり前だよな。好意を抱いてくれる相手を優先するなんて。


「ねえ、そのラナ様だって、レックス様のお役に立とうとしているのよ? 分かってるの?」

「そ、それは……」

「気にするな。お前達ごときの反骨心など、小さなことだ」

「ありがとうございます、レックス様。ほら、あんたも」

「……ありがとうございます」


 さて、ここからどうなるだろうか。クロノは渋々謝った感じだし、関係性を構築するのは難しいかもしれない。とはいえ、努力は続けないとな。せっかく学校もどきを作ったのだから、味方を増やせなければ意味がない。


「それより、レックス様。僕の剣を見てくれるかい?」

「もう、ジュリアったら! すみません、レックス様。私の弓も、見ていただけますか?」


 クロノは何もしようとしない。やはり、今のところは嫌われているのかもな。今後どうするかが、課題になってくる。


 とはいえ、まずは目の前のジュリアとシュテルだ。せっかく頑張ってくれるのだから、しっかりと見てやらないとな。


「好きにしろ。俺の役に立てるように、努力することだ」

「もちろんです、レックス様。あなたへのご恩は、絶対に返してみせますから」

「じゃあ、レックス様! 僕と模擬戦をしてよ!」


 ジュリアなら、周囲の空気を明るくしてくれるだろう。前に進む力になってくれるだろう。シュテルなら、前に進みがちなジュリアを後ろから支えてくれるだろう。冷静な目で判断してくれるだろう。


 その能力で俺を支えてもらいたいし、全力で成長の手助けをしたい。模擬戦は、その一歩目だ。気合を入れていこう。


「俺の力を、思い知るといいさ」

「私も見せてもらいますね! 急ぐわよ、ジュリア」


 ジュリアの正体が何だったとしても、アストラ学園で、共に過ごしていきたい。それは、間違いのない本音だ。


 明るい未来を想像しながら、剣を構えた。

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