450話 勝つためにすべきこと
メアリの様子もある程度落ち着いて、この調子なら暴走する可能性は少ないと思う。ということで、俺は敵への対処に集中できると言える。
ミルラやジャンが方針を練ってくれているとはいえ、実際に動くのは俺とフェリシア、ラナになるだろう。そこで、ちゃんと連携して動けるように話し合いを進める必要がある。
俺たちは会議室で席につきながら、さっそく本題に入っていく。まずはフェリシアが、楽しそうな笑顔で切り出した。
「さて、レックスさん。私たちが戦うとなると、役割分担が大事ですわよね?」
どんな相手に誰が向かうのが効率的かを、しっかり考える必要がある。俺は後から追いかけることができるが、フェリシアやラナは転移できない。その前提で動くと良いか。一応呼び出すことも不可能ではないが、相手の状況を確認するのにも手間がかかる。
要するに、まだ敵を倒しきっていない状況で呼び出してしまえば、大変なことになる。それを避けるためにも、基本的には使わない手だと思っておいた方が良い。
「そうだな。俺の転移をどう使うかが、かなり戦局に影響してくるだろうし」
「みんなで転移するか、別々の場所に転移するか。戦略が問われますね」
深く考え込んでいる様子で、ラナは言う。みんなで転移するのは、よほどの状況に限るだろうな。みんな、単体の戦力としてはかなりのレベルだからな。協力というのは、案外難しい。というか、俺ひとりだけ居れば解決する状況が多すぎる。
つまり、戦力を分ける必要がある状況に絞られてくるな。二ヶ所を同時に攻められるとか、そういうやつだ。
「お前たちまで巻き込んで、申し訳なくはあるが。いっそ、俺が……」
真実を明かして、俺だけを狙われるだけにすれば良いのかもしれない。そんな事を考えると、フェリシアにじっと目を向けられた。
「やめておきなさいな、レックスさん。あなたの周囲を狙えば、成果が出る。そうしたいのですか?」
たしなめるように、告げられる。確かに、大事なことだ。メアリを狙えば俺から情報が出るとなれば、似たようなことが起こりかねない。心配するあまり負担を増やすのならば、本末転倒だ。
そもそも、闇魔法で属性が増やせるとなると、闇魔法使いへの注目度合いや影響が変わりすぎる。属性を増やすために闇魔法使いを狙う人間だって、出てきてもおかしくはない。
「それは、確かに……。そもそも、ミュスカにだって迷惑をかける話だからな」
「わたくしたちは、自分の意志でレックスさんとともに戦うことを選んでいるのですわよ」
「はい。レックス様のためならば、人生を捧げられるんです」
ふたりとも、柔らかい顔で告げてくる。みんな、俺に手を貸すことを誓ってくれた。特に、アストラ学園の仲間は。みんなに頼ることを覚えろと言われたし、そうすると誓いもした。
ただ、どうしても俺の手でどうにかしようとしてしまう。完全に、悪癖と言うしかないな。少し、うつむきそうになってしまう。
「そう、だったな……。何度も何度も、同じ間違いをしてばかりだ……」
「レックス様の優しさでもありますよ。だから、何度でも付き合います」
「わたくしたちが手を引くだけですわよ。何度立ち止まろうとも、ね?」
ラナはまっすぐに、フェリシアは微笑みながらこちらを見てくる。実際、俺は何度もみんなに助けられている。恥ずかしさはあるものの、それこそが大事な財産だ。手を貸してくれる仲間がいることが、どれほどありがたいか。
ここは、素直に礼を言うべきだよな。ということで、しっかりと頭を下げる。
「ふたりとも、ありがとう。そうだな。全力で頼らせてもらうよ」
「さて、まずは敵がどう動くか次第ではありますわね。とはいえ、絞り込むことはできますわ」
「メアリ様を直接狙うか、関係者を狙うか。そのどちらかですね」
「そして、わたくしたちは同じ場所に居る。ふふっ、狙い目ですわよね?」
フェリシアはいたずらっぽい笑みを浮かべている。悪いことを考えているようにしか見えない。まあ、敵にとっては悪いことではあるのだろうが。
ときおり、フェリシアには冷徹さが見えるんだよな。俺には足りないものでもあるから、パートナーとして必要なことだと判断している部分もあるはず。
やはり、俺はひとりでは何もできない。それが、あらためて理解できるな。
「なら、ブラック家を狙ってくる可能性が高いと?」
「レックスさんは、どう思われるのです?」
「まあ、敵はメアリの情報を持ち帰りたいよな……。そうなると、メアリが出てきそうなことをするか?」
「メアリ様くらいの年が相手なら、単純な挑発も手としては考えられますね」
打てば響くように、ラナも案を返してくる。実際、メアリは突っ走りがちだ。前に俺の命が狙われた時も、怒りで突っ込んでいったことがあるし。
そういう情報を知られていれば、間違いなくメアリが狙い目だと思うだろう。知らずとも、幼さはスキに見えるはず。どちらにせよ、選択としては同じになるな。俺は深く頷いた。
「ああ、あり得そうだな。そうなると、やはりブラック家を狙う可能性の方が高いのか」
「どうしてもダメなら、別の場所から攻めるでしょうけれど。まずは試したいのが、人情ではなくて?」
「だから、俺たちでメアリの代わりに出ると。情報を集められないように」
「そういうことですわね。メアリさんは一度出ましたし、次もあると考えるものですわよ」
メアリを狙った集団がどこで殺されたかくらいは、相手にも伝わっているだろう。そこまでは隠していないし。そして、五属性が使われたということまでは分かるはず。
逆に、そこまで考えてこない相手ならメアリを狙い続けるだろう。やはり、結論は変わらないか。
「ですから、今度はあたしたちの手で策を潰そうかと」
「ただ、そうなったらヴァイオレット家とかインディゴ家に手が回らないか?」
「だからこそ、レックスさんを頼るのですわ。転移で対処するために」
「同時に狙われたとしても、やりようはありますからね。手はたくさんありますから」
フェリシアは深い笑みを見せて、ラナは真剣な顔で頷く。転移という手札は、あまりにも便利すぎる。それを持っているのなら、相当に多種多様な手が打てるからな。
俺が転移することも、フェリシアやラナが転移することもできる。その上で、撤退もそう難しくはない。兵を運ぶという手間をまるまる省けるのだから、弱いはずもない。
なら、後は実際に勝つだけか。フェリシアやラナに頼りながら、全力で戦えば良い。
「なら、任せるよ。無論、俺も全力で動くが」
「わたくしたちも、もちろん力を尽くしますわよ」
「はい。レックス様の未来のため、全身全霊をかけます」
ふたりの目を見ると、どこまでもまっすぐだった。そんな想いに応えるためにも、ふたりに頼りながら挑むだけだ。そんな誓いを新たにしながら、俺は深く頷いた。




